踏み出す力
企業が企業たり得ている理由に、しっかりした「儲けの仕組み」を持っているという要素があります。その多くは強固な基盤を持つ仕組みであることから、一朝一夕で中身を変えることは難しいですし、多くの社員にとってその仕組みは保全され、発展させられるべきものとして受け入れられていると思います。
ところが需要動向の変化によっては、その仕組みを見直すことが迫られる場面が出て来ます。典型的な例で言えば、自動車の仕様がガソリン車から電気自動車へ、発電所のエネルギーが石炭から再エネへといった変化がそれに当たるでしょう。ある意味で当然のこととして、いずれの例でも最初の頃に見られた企業の抵抗には大きなものがありました。それはやがて技術開発に飛び火して、ハイブリッド車や超々臨界圧発電など、いわゆる繋ぎの技術を産み出す原動力にもなりましたが、長期的に見れば古い仕組みにしがみついて大きな技術革新に抗い続けることは難しいと言えます。
強いものが生き残るのではない、変化に対応したものだけが生き残るのだというダーウィンのコトバは時代を超えて生き続けています。まさに企業に求められるのは、変化に対応する術を講じることなのですが、仕組みの中で生きている前線部隊や中間管理職にとっては「如何に仕組みを保全し発展させるか」というビルトインされた課題があるため、率先して変化に対応しようというベクトルが先に働くことは基本的にありません。彼らにすれば、変化の兆しは感付くべきものではなく無視されるべきもの、変化への対応は否定されるべきもの、保全のための取り組みこそが求められるもの、というスタンスで動くことこそがむしろ当たり前なのです。
経営者から見たとき、そのような中間管理職の態度は非難に値するものなのでしょうか?伝説のコンサルタント・一倉定氏は「それはすべて元を糺せば経営者の責任である」と断罪しています。従業員は皆、経営者の求めに応えることに精一杯なわけで、それが「儲けの仕組みを動かし続けること」であったなら、変化への対応を拒否するのはむしろ当然だろうということです。
経営者が担うべきことは「儲けの仕組みを動かし続けること」よりも、「変化に対応すること」であるという点を、このコラムでも何度かお伝えしてきていると思います。仕組みを動かし続けることに比べれば、変化への対応は格段に難しいタスクだと言えます。企業の生き残りと発展を目指すためには、それこそが経営者として専心すべき仕事であるということを、一倉先生は端的に語ってくれています。
変化に対応するために、一歩踏み出す力をこそ褒めたたえ、変化を克服する努力を何よりも賞賛する。経営者が社員に向き合う姿勢は常にそうありたいものです。
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