ヘルスケアビジネスと会社価値
皆さん、こんにちは!ヘルスケアビジネス総研の原です。
医療ビジネス界隈にいると、最近、よく”ユニコーン”という言葉を耳にします。これは伝説の一角獣があなたに幸運を運んでくれるような夢のような話ではなく、ユニコーン企業、つまり買収前の大型のベンチャー企業の話です。
ユニコーン企業とは
ユニコーン企業の定義は企業価値10億ドル(約1500億円)以上の創設10年目未満の未上場企業です。ユニコーン企業は、製販企業による大型買収や株式上場を経て、世の中に自社製品を届けにいくというストーリーを描いて成長していきます。
2023年日本政府はスタートアップ育成5年計画を発表し、5年後までにスタートアップ企業を10万社、ユニコーン企業100社作ると明言しました。当然、ヘルスケア領域は成長産業として非常に着目されていますので、特に大型のスタートアップ企業創出に対して強い期待を持たれています。世界に目を向けるとここ数年でユニコーン企業は増加傾向で、例えば2020年には7社のヘルスケアユニコーン企業が買収または株式上場しているというデータ1)もあります。最近のトレンドになっているのです。
- ヘルスケアのユニコーン 「出口」過去最高の水準に. 日本経済新聞.
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ132DQ0T10C21A3000000/
せっかくヘルスケアに参入する訳だから、我が社もユニコーンになって一攫千金を目指そう!夢のある話だから良いじゃないか!とお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、実は、ここに落とし穴があります。
ユニコーン企業の落とし穴
実は医療機器をはじめヘルスケアビジネスの殆ど(創薬や再生医療スタートアップを除く)はユニコーン企業のように企業価値をどんどん高めていくようなビジネスモデルは適さないのです。言い換えれば、ヘルスケアビジネスでは企業価値を大きくし過ぎると様々な問題が生じることになります。
1つ目の問題は、大企業による買収という出口戦略が難しくなることです。
医療機器やヘルスケア関連の製品は、ユーザーのニーズが細分化されていることもあって1製品の売上が数百億円規模になることは比較的少なく、まして一千億円を超えるケースはかなり稀です。そのため製販企業が買収するときの金額も数十〜数百億円の範囲になることが多いのです。
ユニコーン企業の基本的な出口戦略は、大企業に買収されそのブランドを使って一気に販売を加速することなのですが、一千億円以上企業価値が大きくなると、買収した会社がどれだけ優秀な営業部隊を持っていても、買収時のコストが高すぎて採算が取れなくなるので大企業から敬遠されてしまいます。
2つ目の問題は、規模の小さな製品やサービスの開発が着目されにくくなることです。
ユニコーン企業を目指して無理にでも企業価値を高めようとすると、どの会社も規模が大きく競合も多いメジャーな市場に集まってしまいますので、物量作戦(資金量が多いチームが有利)になってしまいます。昨今の国際的な傾向をみると日本は事業への投資額があまり高くはないと言われています。果たして日本の投資活動で、アメリカ、ドイツを中心としたEU、中国などに競り勝つことができるのでしょうか?
ヘルスケアビジネスでは、競合が少なくニーズが大きく数も多いことからニッチ市場でチャンスが生まれやすいです。大きな企業価値を目指す戦略一辺倒になってしまうと、これらのビジネスチャンスが着目されなかったり周囲に理解されなかったりするという問題が発生します。また、ヘルスケアは単独製品・サービスで一発勝負するよりも、ラインナップを揃えたり複数のセグメントで価値を出したりといった戦略の方が王道です。したがって、ニッチ市場を束ねて事業規模を拡大することができますので、ニッチを狙った方が最終的な成長が期待できるケースもある訳です。
ヘルスケアビジネスの新規参入にあたっての企業価値の考え方
最近はスタートアップ企業ブームになっていて、前述のようなユニコーン企業でなくとも、「会社評価額が高ければ良い」「大きな市場で一獲千金を目指した方がよい」という風潮が見られます。どうすればユニコーン企業を育成できるか?といった文脈で行政や開発支援機関の間で討論会が行われることも多く見かけます。
これからヘルスケアビジネスに参入しようとお考えの会社様の中には、きっとこのような意見を聞いて「我が社の規模で参入のチャンスが本当にあるのか?」と悩まれる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
結論から言うと、そのような心配は不要です。
医療現場ではさまざまな悩み・課題を抱えた患者さんがいますが、対象者数が少なくお困りの度合いの強いニーズは沢山あります。これに対応できるのが、実は中小企業なのです。
大型のベンチャーや大企業では、医療現場が持つ多種多様なニーズに対してきめ細やかに対応したり製品を揃えたりするのは難しく、画一的で対象者の多い市場で製品を提供します。逆にニッチ市場では安定した利益が得られず、結果的に撤退することさえあります。
例えて言えば、1億円規模から100億円規模までそれぞれに別のニーズを持った市場があると考えてみてください。社員数50人の会社なら、小さな規模で参入しやすい市場を探すことができますし、社員数1,000人の会社は、もっと大きな規模で別の参入しやすい市場があるというイメージです。大きな規模の市場だけが正しいという訳ではなく、どの規模の市場も別々のニーズを持っていますので、熱意さえあれば誰でも参入のチャンスがあり、現場からは製品・サービス開発が期待されているのです。
実際、医療・健康とは関係の無い業種でものづくりやサービスを展開していた中小企業が、ヘルスケアに新規参入されて大きな成果を出されているという話は多くあります。詳しくは今後の投稿でご紹介できればとも思いますが、そう言った会社の社長様とお話をしていても、「ユニコーンだ!」とか「大型資金調達だ!」のような浮ついた話は全く出てきません。皆さんが考えておられることは、しっかりと製品を設計して販売し、顧客から次の商品のアイディアをもらうことでより大きな参入機会のある市場を狙っていくこと。そしてより高い価値を顧客に提供して、売上と利益を最大化していくことです。まさに商売の基本といった所ですが、こう言った姿勢で地に足のついた経営を行ってこそ、ヘルスケアビジネスで大きく会社を成長させることができるのです。
以上のような理由から、ヘルスケアビジネス総研でも、実際にこれまでご相談があったときには、”ユニコーン”を狙うような企業価値を早期から上げるような戦略、積極的に投資を受ける戦略は、極力避けるように助言しています。新規事業をお考えの会社様は、ぜひヘルスケア分野への参入を検討してみてはいかがでしょうか。
いかがでしたか?本記事を通して、ヘルスケアの事業規模のイメージを持って頂けると嬉しいです。ぜひ弊社ウェブサイトをご覧頂き、ご意見やご感想をお寄せ下さい。
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