時には自社の価値を捉え直すことの大切さ
固定観念や成功体験に囚われすぎると、自社が提供している本当の価値が見えにくくなることがあります。顧客・社会・自社全体の観点から一歩引いた目線で創造価値を捉え直してみると、別の見方ができるかもしれません。
コンサルティングを行う際、「お客様の会社が提供する価値は何か」という話は、筆者に限らず多くのコンサルタントがよく取り上げるテーマだと思います。当然、長年にわたり事業を展開されてきたお客様が熟知されている点ではあるのですが、外部から見ると少し違った、より独創的な捉え方、表現の仕方ができるのでは?と思うことがよくあります。
特に、新たな事業を行う際などはこの傾向が顕著であり、企業は常に「自社の提供価値が何か」という点をアップデートしていく必要があります。今回は、この自社の提供価値の捉え方について考えてみましょう。
■顧客・社会から見た価値に思いを巡らす
有名な「3人のレンガ職人の話」という寓話があります。ビジネス界で取り上げられることも多いので、多くの方がご存じとは思いますが、簡単にご紹介すると以下のような話になります。
- 旅人が歩いていると、レンガを積んでいる3人のレンガ職人に出会い、彼らに何をしているのか尋ねた
- 最初の職人は「ただレンガを積んでいるだけだ」と答えた。この職人は自分の仕事にあまり価値を見出しておらず、ただの作業と捉えて日々を過ごしている
- 2番目の職人は「壁を作っている」と答えた。この職人は自分の仕事がより大きな構造物の一部であることを理解しており、生活の糧としては充分だと思っているが、それが何を意味しているのかは深く考えていない
- 3番目の職人は目を輝かせて「私は後世の人々のよりどころになるような壮大な大聖堂を建てている」と答えた。この職人は自分の仕事に深い意味を見出し、将来世代への貢献というより大きな目的のために働いていると感じている
この寓話の教訓は、「同じ仕事であってもどう捉えるかによって、モチベーションや満足度が変わる」という点だと言われています。ただ、自分の仕事やその価値をどう捉えるかは、働く人の内面的な部分のみならず、全社の戦略や顧客への訴求など、企業経営の多くの部分に影響を及ぼすはずです。だとすれば、同じ仕事であってもどう捉えるかによって、会社全体が変わってくるのです。
自社の仕事を捉え直すうえでまず最低限チェックしておくべきは、「自社の作業のみに着目した捉え方になっていないか」という点です。自社の作業のみに着目してしまうと、どうすれば顧客がより満足するか、つまりどうすればより対価を得られるようになるか、という点には考えが及びにくくなります。上記の例であれば、レンガを積むことだけを考えてしまうと、どのような積み方をすればより施工主に喜ばれるか、という発想は出にくいと考えられますし、少なくとも自分が大聖堂の一部である壁を作っていることは理解し、専門家の観点からより良い壁を作るための提案ができればなお良いでしょう。
さらにいえば、同じ仕事であっても3番目の職人のように「社会のための価値」を見出すこともできます。レンガが積み上がっていくという表面的な事象に対し、見方を変えることで、顧客・社会に対する色々な価値を認識・訴求可能であるということです。自社の提供価値を新たな視点でとらえ直す際、顧客の目線で考えることと社会に対する価値に着目してみることは、基本的なことながら効果的であるケースも少なくありません。
■自社が提供している様々な価値とつなぎ合わせる
自社の仕事を捉え直す際の具体的な着眼点としてもう1つ、「会社全体が提供している様々な価値を一歩俯瞰した目で抽象化し、表現し直してみる」ということも有効です。例えば、以前ご支援した会社様のなかで、以下のような価値の再定義を行ったことがありました。
- コロナ禍においてあるビジネスホテル様が非接触・非対面のチェックイン機を導入した際、ただそのような機械を導入したというだけではやや物足りなく、そのホテルの価値提供の在り方そのものを「宿泊されるお客様の安全・安心を最優先したおもてなし」という形で再定義頂いた。
安全・安心を最優先するため対面での接客こそ最小限に留めるものの、このホテルで働く人全員が同じ理解のもとに業務を遂行し、かつお客様に対しても、Webサイトでの伝達や宿泊時にメッセージをお渡しすることを通じ自社の考え方や価値観を明確化しご理解頂くことで、困難な状況下でも信頼の醸成促進と顧客の獲得を実現した。
- トラックの新車販売・運行支援・下取りを手掛けるあるトラック販売会社様が整備工程を内製化した際、ただ整備事業のアピールをするのではなく、自社を「トラックのことは全てお任せ頂ける会社」として再定義頂いた。
その結果、ユーザーがトラックを使用するライフサイクル全体で、自社に任せることのメリットに加え信頼感をも強力に訴求できるようになり、販売・整備・下取りといった各事業から他事業への送客など、事業間の連携・全社的なシナジーを実現し、売上を向上させることができた。
上記はいずれも、新規の投資や事業展開をそれ単独の訴求に留めることなく、会社全体の価値提供の在り方を再定義したという事例です。自社が本質的に何を提供している会社なのかを明確にすることで、よりユニークな存在として自社を定義づけることができ、その結果として他社との差別化を図ることができます。また、従業員を含む社内のリソース活用もそこに振り向けることができるようになりますし、事業から生まれる社会への貢献も、より自社ならではのものに磨き上げることにつながるのです。
今回ご説明した話はいずれも「自社の価値をどのように定義するか」という問いに対する考え方ですが、それはすなわち「自社はどのような会社であるのか」、つまり自社の存在意義をよりシャープに表現することにつながります。自社の存在意義を明確に持っており、熱意を持って取り組み、高いレベルで実現していく。そのような姿こそ、周囲からの信頼を構築することにつながり、その信頼が対価となって自社の長期的・持続的な成長を後押ししていくのです。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。
Warning: Undefined array key 0 in /home/xb528411/jcpo.jp/public_html/wp-content/themes/jcpo_theme2020/inc/inc-under-widg.php on line 4
Warning: Attempt to read property "term_id" on null in /home/xb528411/jcpo.jp/public_html/wp-content/themes/jcpo_theme2020/inc/inc-under-widg.php on line 4