”社会貢献”に埋もれてしまった価値
自社の社会貢献を対価に変えていくためには、本業から生み出される「自社ならではの価値」にフォーカスすることが非常に大切です。
当社では「信頼を対価に変える」ことの重要性や効果を様々な場面でご説明していますが、当然のことながら、あらゆる状況で「信頼」が勝手に対価に変わるわけではありません。今回は「信頼につながる活動に力を入れている割に、対価を得られていない・・・」そんな”もったいない”事例をご紹介します。
■ 社会貢献活動の手広さに隠れてしまった自社ならではの価値
3年ほど前に、ある総菜メーカーN社を先代から引き継いだ若き新社長は、就任の際に「自社をさらに社会に貢献していける会社にする」ことを固く決意し、その方針を社内外に強く発信したそうです。「これからの時代は社会に貢献する会社でないと生き残れないといわれているし、それが従業員のモチベーション・働きがいにもつながるはずだと思った」のが理由とのことでした。この先の時代を見据えた、先代とは違う自分ならではの新しいメッセージを出したかったという想いもあったようです。気持ちとしては非常によくわかります。
しかし蓋を開けてみると、「様々な慈善活動やPR活動に力を入れている割には、ブランドイメージの向上も感じられないし、社内が活性化されているとも思えない」という状況に陥ってしまいました。活動の見直しは随時行っているものの、一度始めた以上すぐにはやめられないものもあり、余計な工数・コストがかかる割には効果が見られない、典型的な”もったいない”取り組みになってしまったのです。
社長に話を伺ってみると、「自分が引き継いだ会社を、社会・お客様にとってさらに価値があり、従業員にも愛されるようにしていきたい」という強い情熱が言葉の端々に感じられました。しかし同時に、そんな想いが強すぎるあまり多くのことに手を出しすぎて、1つひとつの取組が全体の中に埋もれてしまっている、そんな印象も抱きました。
例えば、ウェブサイトを見てみると、SDGsのカラフルな17のアイコンすべてに対し、自社の様々な取り組みが、ややこじつけに見えるものも含めてずらりと紐づけされていました。また、寄付の実績や、地元でのボランティアの様子を撮影した写真など、社会のための取組みが所狭しと並べられていました。社会を非常に重視し、様々な素晴らしい活動をされていることはわかるのですが、数が多すぎて自社ならではの価値が何なのかが判別できなくなっているというのが、外から見たときの率直な感想でした。
■ 自社の商材を売れば売るほど生まれる貢献もある
この状況を打破するための最初の一歩として、社長にもっとメッセージを精査することをご提案しました。聞けば、本業の総菜づくりにおいては、同業他社よりもはるかに高いレベルで安全性を追求しているとのこと。例えば国内で許可されている製法であっても、世界的に見て懸念が示されているものであれば他の製法を採用するといった具合です。他にも、食べる人の健康増進に寄与し、かつ環境負荷も小さい材料の開発を近隣の研究機関と行うなど、本業の中でも社会や人々のために際立った貢献をしている要素が数多くありました。
つまり、N社の総菜は売れば売るほど、味や量、価格といった総菜として一般的に重視される要素以外に、環境面等の社会的な価値も生み出す状態にあったのです。だとすれば、社外への訴求もこの本業から生まれる価値にもっとフォーカスしたほうが、自社ならではの貢献をストレートに伝えやすくなるはずです。
社長は当初、「せっかく幅広く活動しているのに訴求を絞ってしまうのはもったいないのでは・・・」という反応も示されたものの、同時に従来の訴求のわかりにくさも感じていたとのことで、最終的にはご納得頂きました。その後一緒に「人と地球にやさしい総菜」という自社事業・製品全体にまたがるコンセプトを共に考えだし、本業を通じた社会への貢献に焦点を当てた新たなPRを行うことになりました。
その結果、N社やN社製品が目指す社会への貢献が何なのかがはっきりし、そこに価値を見出してくれる顧客が増えるという結果につながりました。また、従業員からも「自社の事業が成長することがどのような形で社会への貢献につながるかが明確になり、働く意義を見出しやすくなった」という声も聞かれるようになったとのことでした。これは当社にとっても、本業の追求が同時に社会への貢献になる、というシンプルな構図を作ることが非常に重要であると感じられた瞬間でした。
■ 「ブランドイメージ向上に貢献」というフレーズには要注意
本業の内であれ外であれ、社会への貢献を目指す志は大変素晴らしく、尊重されるべきものだと思います。しかし、本業とのつながりをはっきりさせず、自社が本当はどのような活動に取り組むべきなのかがよくわからないまま、対価につながりにくい活動をなし崩し的に進めているケースは決して少なくありません。
特に、費用対効果を問われたときに「自社のブランドイメージ貢献につながるはずだが定量化は難しい」といった類の答えしか出てこない場合は要注意です。正確な定量化が難しいケースは確かにありますが、だからといって本業に貢献する絵姿が容易に描けない活動は、よほどの理由がない限り実行には慎重になるべきです。それが社会的な目線でみていかに優れた活動であっても、対価に直接つながらない場合には、特に資金的余力の小さい中小企業の場合、持続的な取り組みにはなりにくいのが実情だからです。
また、当社のコンサルティングにおいては、信頼を対価につなげるためには自社の「能力」と「姿勢」の両方をバランス良く伝達することが重要だということをよくお伝えしています。社会貢献の活動をなんでもかんでも取り上げてアピールすることは、この2つのうちの「姿勢」を示すうえではある程度効果的かもしれません。しかし、顧客が期待する製品・サービスを提供する上で自社が高い「能力」を備えていることを示す効果は限定的なものになります。社内の当事者からでは感じにくい部分はどうしてもあるのですが、この訴求のバランスを整えることも、信頼を対価につなげるうえでは非常に大切です。
重ねて強調しておきますが、経営者が社会に貢献する視点を強く持ち、かつ実行に移していることは大変素晴らしいことであり、そのことを批判するつもりはまったくありません。しかし、それが自社にとって何の対価にもつながっていないとしたら、もったいないということに加え、その素晴らしい活動や自社そのものの持続性を減退させる要因にもなりかねません。
本業を通じた貢献、つまり自社だからできることに焦点を当て、対価獲得と連動した実行・訴求の仕組みを構築することが、長い目で見たときには結果的により大きな貢献を社会にもたらすと当社は確信しています。今回ご紹介したような”もったいなさ”を自社の活動に感じておられる経営者様のご相談をいつでもお待ちしております。
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