デジタルの時代に経営が持つべきマインドを見つめなおした件
毎年恒例の「上半期は海外に行って知見を広めようアクション」を、今年もCESからスタートさせています。様々なテクノロジーの発表やプロダクトの展示の波に洗われながら、知識のアップデートをしてきた訳ですが、今年はとにもかくにも韓国の勢いが凄まじかったことが印象に残っています。例年の大企業の展示もさることながら印象に残ったのはスタートアップ企業や大学の小さな展示ブースの数です。数の面ではほぼ他国を圧倒していた、と言っても過言は無いでしょう。会場のラスベガスのシェアEVのドライバーさんも「韓国の人が多いけどどうしたの?」と聞いていましたので、来場者数も相当数だったはずです。この「数」というものが、現代のビジネスにおいてはとても重要なキーワードだと考えています。
日本のいわゆる「失われた30年」という言葉の解釈はいろいろありますが、日本企業がこの長い期間持てずに来てしまったマインドが、私はこの「数」に反映されているのだと考えざるを得ません。
異論を恐れずに持論を展開しますが、バブル前の成長期に日本が経験した成功体験は「良いものを安く大量に作れば売れる」というものだったと考えています。これは日本の労働単価が低い時代には正しく回ってきたと思います。多少時間がかかっても品質を安定させ、コストを最低限にし、市場競争力を磨き上げてから一気に市場をとりにいく進め方です。ハード売りが中心だったころはこれで良かったのだと思いますし、このころは「Made In Japan」が高品質で低価格のブランドで、どんなに新しい新製品であっても品質が悪いことは許されるものではなかったという世間の一般常識もこの期間に築き上げられたものです。
ところが、バブル後の低迷期を過ごす間に時代の主役はハードからソフトに移行しました。ハードの性能はそこそこでもソフトの出来で競争力を持つことができるビジネスモデルは、B2CだけでなくB2B製品でも次々に成立していきました。ハードウェアの精度が多少悪くともソフトウェアのアルゴリズムでそれを吸収することまでできるようになったので、「日本製は高精度」という強みすら失われる製品ジャンルも次々に現れました。しかしそれでも我々の心には相変わらず昔ながらの成功体験(Made In Japan)のマインドが植え付けられたままです。特に中小企業では「良いものを安く作る」ことぐらいにしか工夫に使う体力がありませんので、この点についての失敗は許されません。失敗を避けるため、もしくは一回失敗したらそれを二度と繰り返すことの無い様に社内体制も磨き上げ、「失敗はあってはならないもの」を前提に社内の決まりを作って徹底し、若手の育成もその前提の上に進めてきたわけです。
これをすべて間違えていた、と断ずるつもりはありません。しかし、です。ソフトが主役の時代では、いかにも古臭い…。テスラのEVに代表されるように、「不具合があったらソフトを後から配信して直せばよい」という事後対応の発想がそこには無かったのだと思います。サブスクの時代になるとさらに「ソフトの改善と機能追加は、スピーディに漸次対応すれば良い。機能はどんどんブラッシュアップするから、それで代金を頂き続ければ良い。」という考え方が主流となりました。しかし「漸次対応する」というソフト中心の考え方に切り替わりきれていない日本企業にとっては、そのサブスクへの移行にも乗り遅れます。こうなるともう2周遅れという状態になり、簡単には諸外国に追いつかなくなります。
この「ソフトが主役の時代への移行」、「ソフトは漸次対応すれば良い」という考え方を発展させると、冒頭述べたスタートアップ企業にも勝ち目が出てきます。良いアイディアがあれば、完成度は低くてもとにかく世に出してイノベーターとアーリーアダプターの初期ニーズを勝ち取る。世に出したものをスピーディに改善し続ければ、顧客は離れることなく増え続け、サブスクなので売上も得られ続ける。あとはアーリーアダプターの後にくるキャズムを、技術改善を武器に乗りきれれば安泰・・・。というマインドです。このマインドを持っている場合、それは起業数に数字が表れてきます。大きな投資をしていませんので、失敗しても別テクノロジーで何度でもチャレンジができる。これが韓国のスタートアップ展示が急増した背景の一つだと考えています。もちろんそれだけでは展示が増えるわけではないので、政府や大学の強力なバックアップがあってこそのことでもありますが、それにしても常識では考えられない数が展示されていましたので、バックボーンはこのようなものだったことは間違いないと考えています。
産業構造の専門家でも無い私が持論を展開するのは多少の遠慮はありますが、日本企業の停滞の主因は、ソフト重視への転換の遅れであることはほぼ間違い無いと考えています。ソフトを重視しなければならない、というキーワードは2000年代からありましたので、すでにもう昔のことですね。あとはどう取り返すか?ですが、ちょうど良いあんばいにAIが市場理論をひっくり返してくれている昨今なので、この機に乗じない手は無いと思います。あとはマインドチェンジだけ、ですね。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。