訓練と教育の違い。そして、社長がその前に取り組むこととは?
地方都市にある環境サービス業N社の本社ビルを訪問しました。
受付の女性に案内をされ、3階の会議室に移動します。
なんとも言えない事務所の「暗さ」と、見かける社員の「覇気のなさ」が気になります。
現場を見ておくことの大切さを思い出しました。
この日、私はN社長に仕組化の一連の手順をご説明しました。
それを聴いてN社長から質問があります。
「先生、仕組みづくりに関わる社員の役職はどうしましょうか?」
私はペンを止め、N社長の顔を見ます。この質問の意味が解りませんでした。
N社長は、続けられます。
「彼らの給与をどれぐらい上げればよいのでしょうか?」
会社組織では、人を育てるプロセスを2段階で考えます。
この2段階を経ることで、採用した人を短期で戦力化し、そして、若手を管理者に育てることができます。
第一段階:訓練
訓練とは、「決まったことをその通りにできるようにする」ことです。
作業はもちろんのこと、言葉遣いや表情などの態度もこれに含まれます。
自社のプログラムとテキストによって、採用した人を短期で戦力化することができます。
また、これがあることで、受け入れ側である職場は、その「手間」を最小限に抑えることができます。そして、新入社員はスムーズに職場になじむことができます。
第二段階:教育
一通りの業務を自分一人でこなせるようになった社員には、「未来づくりへの参画」の機会を与えることになります。「〇〇の業務を改善せよ」、「後輩の面倒をみろ」。
その若手社員を、より大きな業績のために貢献させるのです。それらは、仕組みの改善であったり、チームのマネジメントであったりします。
それらの機会を与えることにより、次の管理者に育てていくのです。
訓練と教育、この2段階によって社員を育てていきます。
残念ながら、多くの年商数億企業には、この2段階がありません。
訓練と教育の両方とも出来ていません。
その理由は明白です。
そもそもとなる仕組みが無いのです。また、組織が出来ていないのです。
訓練するためには、「決まったことがあること」が前提になります。決まっているからこそ、その通りに教えることも、やらせることも出来るのです。それを仕組みがある状態と言います。その仕組みが無いのです。そのため、先輩社員は後輩に自信を持って教えることが出来ないのです。
教育するためには、「PDCAが回っていること」が前提となります。
計画し実行する、そして、チェックし改善する。この機能を『組織』と言い換えることもできます。このサイクルが無いのです。組織が出来ていないのです。
今の会社でPDCAが回っていない状態で、若手社員を未来づくりに参画させることはできないのです。
新入社員を短期で戦力化するための「訓練」を提供するためには、「仕組み」が必要です。
若手社員を管理者に育成するための「教育」を提供するためには、「PDCAサイクル」すなわち「組織」が必要です。
「この先に進むためには、この獲得を避けては通れない。」
N社長は、矢田の赤本を読んで自社の停滞の根本原因に気づいたのでした。
東京でのコンサルティングを数回行い、矢田はN社を訪問することにしました。
出張の予定があったこと、そして、私の中で何か引っかかるものがあったからです。
私は、N社長に仕組化の手順をご説明しました。
N社長から質問があります。
「先生、仕組みづくりに関わる社員の役職はどうしましょうか?また、彼らの給与をどれぐらい上げればよいのでしょうか?」
私は、最初質問の意味が解らずにいました。
しかし、すぐに気づきました。N社長の根底にある「間違い」に気づいたのです。
これも年商数億の社長が持つ、間違った考え方の一つです。
それは「仕組づくりは特別な業務である」というものです。
私は言いました。
「役職を上げる必要はありません。また、給与をいじる必要もありません。」
仕組みづくりは、社員の仕事です。
営業、製作、事務など、職種は関係ありません。その自分たちが日々こなしている業務を、自分達で課題を発見し改善していく。これは、社員の通常の仕事なのです。
N社長をはじめ一部の社長の中には、何か仕組みづくりを特別な仕事であり、ある役割を持った人がやるという思い違いがあります。それが「役職を与える」や「給与を上げる」という発想に繋がるのです。
そして、この社長の思い違いが、社員をその通りに誘導しています。
彼らも、「仕組みづくりは自分たちの仕事ではない」という思い違いをしているのです。
「社員の仕事」の定義は会社によって全く違うものです。
ある会社は、平社員がばりばり仕組みづくりをしています。それを自分たちの仕事だと当然のこととして受け止めています。
また、ある会社では、平社員が日々作業だけをこなしています。仕組みづくりが自分たちの仕事だとは微塵とも思っていません。
これはパート(時間給)において、如実にでます。
ある会社では、パートがばりばり仕組みづくりをしています。
ある会社では、パートは「自分たちはパートだから」と言う意識で、正社員から受けた指示だけをこなしています。
社長の持つイメージが、社員の行動を形作っているのです。
この意識が、仕組みづくりに社員を巻き込む過程でも大きな弊害になってきます。
社長の中の「常識」を変えてもらう必要があるのです。
N社長は、もう一つ矢田に質問をしました。
「先生、もし彼らが給与を上げろと言ってきたらどうしましょうか?」
私は吹き出しそうになりましたが、N社長は大真面目です。
私は次のことを説明しました。
・もしそんな社員が居れば、その人を仕組みづくりに巻き込んではいけない。その人には、いままで通り作業をしておいてもらう。
・ただ、きっとそんな社員はいないだろう。それどころか、彼らは喜んで協力してくれるはずである。
この時には、N社長は私の言葉を理解していないようでした。
それでもN社長は持ち前の行動力で仕組みづくりに取り掛かりました。
2か月後の東京オフィス、N社長は興奮気味に報告をしてくれました。
「先生、社員が変わりました!本当に変わりましたよ。」
N社では、次のような事象が起きていました。
・社員からの相談や提案が増えた。「社長、こういう問題があります。こうしたいのですが・・」
・会議では社員中心で議論が進んでいる。いままではN社長が話してばかりだったのに。
・管理者から業務改善の提案がありました。それも書面で。
こんなことはいままでのN社にはなかったことです。
創業から50年経つN社での初の出来事です。
人材育成には、訓練と教育の二段階があります。
それは先にご説明した通りです。
しかし、その前にやるべきことがあります。
多くの年商数億企業では、訓練と教育に取り掛かる前にやるべきことがあるのです。
それが『仕組化』です。
仕組化をすることにより、社員の力が解放されることになります。
自分たちが進む方向、業務の方針、作業の目的や手順、それが明確になっていきます。
その過程で、いままで口を閉ざしていた社員が発言するようになります。何にも考えていないと思っていた社員が、改善のアイディアを言うようになります。
そんな現象が、仕組化をすることにより実際に起きるのです。
彼らは、今までもそこに居たのです。それが力を発揮するようになるのです。
数億企業に必要なのは、訓練でも教育でもありません。まず必要なのは、解放なのです。
その第一歩が仕組みづくりなのです。
仕組みづくりを進めると、それに参画した社員の顔付きがガラリと変わることになります。
彼らに自信が生まれてくるのです。また、知性がその顔や発する言葉に宿るようになります。
自分達で自分達の業務を変えることが出来る、自分たちの能力を活かすことができる。
これは、人としての喜びです。それが会社の至る所で起きるのです。
それに対し、仕組みづくりに社員を参画させられていない会社では、この逆の状態になります。社員はどこか自信なさげに見えます。その顔はどこか幼く、発する言葉には卑屈さや他責の念がこもります。
職場での会話は、もっぱらプライベートやテレビのネタばかりになります。必要事項の連絡以外、業務についてのものはありません。
向上心、貢献心という人が本来持つ心が失われていくのです。
(まとめ)
・人材育成には、訓練と教育の二段階ある。訓練をするためには「仕組み」が必要、教育をするためには「PDCAサイクル」が必要。
・仕組づくりは特別な業務ではない。それは、平社員、パート、すべての構成員の仕事である。社長がその正しい考えを持てば、社員はその通りになっていく。
・仕組みの整備を進めると、社員の力が「解放」されるようになる。
・社員を仕組みづくりに巻き込む、彼らと一緒に仕組みづくりを進める。彼らは力を発揮する。そこまで来ると訓練と教育も驚くほどスムーズにできることになる。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。