心の準備
「今度の正月はいつもとは違うね」とY社長。家の建て替えを始めた矢先に、健康診断で引っかかりました。精密検査の結果、入院する事態に発展。思わぬ病に一喜一憂した後だけに、新しい家で家族と迎える年末、年始を迎えることに社長も感慨深げでした。
◾️家電・家具の戦い
Y社長と家の建替え話で盛り上がった後の帰り道。何気なくスマホでニュースをチェックしていたところ、「家まるごと対決」とのネットの記事に目が止まりました。
内容はヤマダ電機とニトリ・エディオン連合軍の勝負についての記事です。数年前にヤマダ電機が大塚家具を買収した後、将来的にニトリと競合することは必然でした。
昨年ニトリとエディオンが資本業務提携した結果、今やニトリがエディオンの筆頭株主です。いよいよ横浜で対決のゴングが鳴りました。
ちなみに、3社の売上の規模や利益の状況は下記のとおりです。
【各社の売上と営業利益】
ヤマダホールディングス
2023年3月期実績: 売上:1兆6005億円 営業利益:440億円
2024年3月期見込: 売上:1兆6860億円 営業利益:505億円
エディオン
2023年3月期実績: 売上:7205億円 営業利益:191億円
2024年3月期見込: 売上:7450億円 営業利益:195億円
ニトリホールディングス
2023年3月期実績: 売上:9480億円 営業利益:1400億円
2024年3月期見込: 売上:9320億円 営業利益:1451億円
稼ぐ力はニトリが圧倒的です。大塚家具はヤマダ電機に買収される前後の業績を見ても、経営の舵取りは難しい状況でした。
ただ、ニトリも国内事業に伸び代は少なく、今後の成長となると売上の構成割合が5%に満たない国外進出がポイントになります。とするとライバルになるのがIKEA。売上高が5兆円を超えるビッグ企業ですが、株式を上場していない非公開のファミリービジネスです。
非公開だけにIKEAに関する情報は限定的です。グループを統括するインター・イケア・グループのH Pで公表する売上総利益率が13.2%ですから、利益率ではニトリに分があります。
◾️家(ファミリー)と後継者
ヤマダ電機もニトリホールディングスも強烈なトップが牽引する会社ですので、課題となるのは後継者育成です。この点でも、ニトリに軍配が上がります。
ヤマダ電機の後継者候補だった三嶋恒夫氏(エディオンから転じた)が健康上の理由により退任。一方、ニトリは白井俊之社長が既に並走していることは強みになります。
興味深いことに、ヤマダ電機、ニトリに共通するのは息子さんがいるのに、経営の後継者にしていない点で共通しています。
「家」と事業が切り離されているので、後継者選びの選択肢は増えることは間違いありません。それにしても、ヤマダ電機のみならず一流と言われる経営者の後継者探しは大変です。
その点、似鳥会長はお見事ですね。ただ、似鳥会長と聞いて、思い出しますのはご家族の相続トラブルです。
1989年にニトリが札幌証券取引所に上場していますが、同年に似鳥会長の実父がご逝去。相続人5人(似鳥会長、母、弟、妹2人)の話し合いで財産分けをしました。ところが、この時の分割が未了(まだ終わっていない)であるとして、後に裁判になります。
1990年に遺産分割をして、裁判になったのが2007年。似鳥会長を他の4人の相続人が訴える形で、17年後に裁判になったのです。
詳細は割愛しますが、第一審の札幌地裁では、遺族間の財産分けが極端に偏ってはいるが、手続きに不備があるとは言えないとの判決が下ります。最終的には、和解になりました。
ちなみに、IKEAの創業者イングバル・カンプラード氏は2018年に生誕の地スウェーデンで亡くなっています。
そもそも創業の地であるスウェーデンは事業に関する税金のみならず、相続税の税率も高いため、カンプラード氏は拠点をスイスに移しました。
IKEAの株式を保有する財団を海外に設置するなど、税務面のみならず対応策は十分に練られていたようです。ただ、財団があったり、ホールディングス・カンパニーがあったり、IKEAの企業構造は複雑です。
3人いる息子はイケア関連の団体などに籍はあるけれども、経営者として跡を継いだということではないようです。ファミリーは財団や監査委員としてグループ全体の長期戦略やビジョンなどに、ファミリーとして影響力を持っています。
◾️ある家具商人の言葉
カンプラード氏が50歳の時に作成した事業理念です。
1.イケア製品は当社のアイデンティティである
2.イケア精神とは、力強く生き生きとした毎日を過ごすこと
3.利益は私たちにリソース(資源)を与える
4.わずかなリソースでよい結果を得る
5.簡素化は美徳である
6.違う方法でやってみる
7.一つに集中する
8.責任を取ることは特権である
9.ほとんどのことはまだ手つかずだ
◾️まとめ
日本の家電・家具の戦いもさることながら、I K E Aを超える日本のファミリービジネスが生まれて欲しいものですね。
蛇足ではありますが、後継者の見極めは、早めが肝要となりますので、ご留意ください。
タスキを渡そうと思って、次の走者がいないと焦りますし、お互いに心の準備が必要ですから。
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