音楽好きの沼【デジタルワイヤード編】
音楽好きの沼【デジタルワイヤレス編】 から続く
中華製DACの実力
皆さんDACってご存知ですか?DAC(Digital to Analog Converter)とは、音楽を再生する際に、CDなどに入っているデジタル信号をアナログ信号に変換する機器のことです。 パソコンやスマホからヘッドホンで高音質の音楽を聴く時にも使うというアレです。
前回コラムでさんざんBluetoothイヤホンの音がいいという話をしたのですが、技術的には、無線で飛ばしている時点で音質には限界があるそうです。つまり、有線接続の音質には全然かなわないのだそうです。無線で伝送する際にデータを圧縮するからです。そういう意味ではBluetoothイヤホンの音質はいい音に似せる「補正技術」のなせる技なのです。
本来の音質追求は有線接続で行うべきであり、山手線などでは意外にも若い人たちの間で「有線派」を多数見かけます。そして、最近彼らが使う手軽に手持ちのデバイスを高音質化するアイテムとして、様々な小さなDACが登場しています。デジタル信号をアナログに変換するのは半導体チップなので、小型化が進んでいる訳です。
「そんなおもちゃみたいなもんで本当に音が良くなるのか?」と懐疑的に思っていましたが、信頼できるYouTuberが絶賛していたので、またまた「ダメだったら返品すればいいや根性」でポチッとしてしまいました。音楽好きの好奇心がだまっていないのです。昔、煙草に火をつけるのに持ち歩いていたライターのようなデザインのものが目につき、気に入ってしまいました。深圳にある会社のもので中華製ですが、完全に見た目チョイスです。
↑煙草に火をつけるライターのようなデザインが気に入ってしまった「中華製DAC」SHANLING UA5(大きい金色の穴は4.4mmバランス接続用)
この手の製品は本体ではほとんど操作できず、全てアプリで操作するものも多くなっていますが、この製品はほとんどの操作が本体でできるようになっているのも気に入りました。不具合やアプリのアップデートなどが忙しくて、できればアプリは増やしたくないからです。
有線ヘッドホンは例のフランスのやつしかありませんが、まあまあのスペックなのでこのライターみたいなDACが本当にいいものならば違いは聴き取れるはずです。早速スマホに接続して聴いてみました。なんと、全然違うではありませんか。いい音がするのです。
ということは、もうひとつの大きい方の穴4.4mmバランス接続※のできるヘッドホンなら、もっといい音で聴けるのかもしれません。またもや危険な期待がふくらんでしまいます。
※バランス接続というのは、左右のプラス、マイナスをそれぞれ独立させた4本の信号線で接続するものです。一般的なヘッドフォンジャックの接続(アンバランス接続)は、左右それぞれのプラスと左右まとめて1本のマイナス(グランド)の合計3本で伝送しています。マイナス側の信号線が左右で共用となっているため、信号が少し混ざってしまい微小なノイズ(クロストーク)が発生します。これによりステレオ感が乏しくなってしまう可能性があります。一方、バランス接続は左右の信号が完全に独立するのでクロストークの発生が抑えられ、より豊かなステレオ感が再現できるそうです。
↑スマホに接続したところ(Lightningケーブル)
急いでパソコンにも接続してみました。おー。やっぱりいい音がします。検証のためにDACを外して直接パソコンのヘッドフォンジャックに接続して同じ曲を聴いてみます。すると、ガクッと音質が落ちます。何度か繰り返しましたが、間違いないようです。
↑パソコンに接続したところ(type-Cケーブル)
↑パソコンのヘッドフォンジャックに直接接続して確認(そもそもこれでも音は聞けるのです)
スマホにもパソコンにもDAC(半導体チップ)は内蔵されているのですが、このライターみたいなDACのチップの方が優秀だということのようです。「中華製あなどりがたし」です。
DACを買ってみたきっかけは、Appleのストリーミングにロスレス(〜48 kHz)ハイレゾロスレス(〜192 kHz)といった高音質版が曲によっては提供されるようになったということでした。違いがわかるものか試してみたかったのです。まさか、違いが分かるとは思っていませんでした(驚)
というのも、プロの方からこういう話を聞いていたからです。
■ハイレゾはCD音源に対して聴く上での優位性はない(実は、違いを聴き分けられる人はいない)
世界中でブラインドテスト(ハイレゾはCD音源をどちらか分からない状態で聴き分けて当てるテスト)を行った結果、完全に耳で聴き分けられる人はいなかったそうです。
■ハイレゾ音源が聴き分けられたとしたら、その要因は①思い込み②比較対象の音質がCDより劣る③音源のマスタリングが違う
実は、ストリーミングの「CDと音質同等」の多くは「CDと音質同一」ではないのです。どうしてもストリーミング用データは圧縮されているためです。住宅の「耐震等級3相当」がぜんぜん「耐震等級3」ではないのとよく似ていますね。
■ストリーミングで「ハイレゾ音源」がいい音に聞こえるように、わざと下のランクの「CDと同等音源」の音質を落としている悪質なケースもある。
実際には「ハイレゾ音源」がCD並みの音質で「CDと同等」とされているものがCDより劣るものもあるというのです。酷いですよね。なぜ、そのようなことをするのかと言いますと「ハイレゾ音源」と「CD音源」の差は耳では聴き分けられないからだそうです。何らか実感できる差をつけておかないと単価の高い「ハイレゾ音源」が売れなくなってしまうからだそうです。音楽業界の「闇」ですね。
■もし「CD音源」よりいい音に出会えたなら、それは元の音源のマスタリング自体が違っていると考えた方がいい。
こちらも音楽業界の「大人の事情」です。「ハイレゾ音源」が聴き分けられない以上、マスタリング(元の録音からの音質調整)を再度やり直し、味付けを変えることで「高音質」を演出しているのです。
ヴィンテージオーディオに価値はあるのか
自宅の2階には来訪者からよく「冷蔵庫ですか?」と聞かれるでかいスピーカーがあります。家を新築した際に、どさくさ紛れに奮発したJBLです。このモデルは低音・高音の2WAY構成+超高音という3つのスピーカーで構成されています。
超高音用のスピーカー(スーパーツイーター)はカタログデータでは70kHzまで出るとされています。人間の耳に聞こえるのは通常16kHz程度までで、最大でも20kHzと言われています。それからすると、聞こえない音域の再生に意味があるのでしょうか?
↑よく「冷蔵庫ですか?」と聞かれるでかいスピーカー
↑真ん中のが70kHzまで出ると言われるスーパーツイーター
↑重厚長大なヴィンテージオーディオ機器の数々(もうメーカーさんは修理してくれません)
この疑問に対する有効な回答として、ハイパーソニック・エフェクト※理論をご紹介しておきます。この理論によると、ハイレゾ(40kHz超の成分を含む音源)はスピーカーを介して体で受け止めないと意味がないそうです。
※ハイパーソニック・エフェクト(英: Hypersonic effect)は、可聴域を超える高い周波数を含む音が、ある種の動物の生命活動に影響を及ぼす現象。脳科学者 大橋 力 先生によって1990年代発見されました。
この地球上には、人間の可聴域上限をはるかに超えた高周波成分を含む音があります。バリ島のガムラン音楽の音や熱帯雨林の環境音などがその実例で、100kHzを超えるほどの高周波を多く含んでいます。こうした音を浴びている時、快感の発生を担当している報酬系神経ネットワークや、人間の脳機能のコアになっている部分が活性化するという現象を大橋 力 先生らは発見しました。
基幹脳が活性化すると、音楽を聴くときの「美しさ、ここちよさ」などの発生をつかさどる脳の(情動神経系)の働きが活発になって、音楽が心を打つ効果と魅力が劇的に高まるそうです。また、がんやウィルスなど内外の敵から身を護る(自律神経系)(内分泌系)(免疫系)の働きが強くなって健康増進が期待されるのだそうです。
これが本当なら、自宅の冷蔵庫みたいなスピーカーでぜひ鳴らしてみたいものです。(あー。また散財の危険が…)
「最強」の音源と出会う
実は、CD音源の音質を明らかに超える音源を手に入れたのです。決して気のせいではありません。ヘッドホンで聴いてもスピーカーで聴いても劇的に違うのです。これは驚きでした。しかも、その音源はアナログレコードなのです。このレコードはLP盤ですが45回転です。LP盤は通常33回転、45回転はシングル盤(ドーナツ盤)の回転速度です。1974年に録音された音源を1995年に再カッティングして新たに限定数プレスされたものです。再カッティングの際のエンジニアはあの”伝説のアナログ職人” 小鉄 徹 さんです。(小鉄 徹 さんのエピソードは NO MUSIC, NO LIFE. でも語っています)
音質を決定づけるスペックとしてはアナログレコードはCDより不利です。音の大小の幅はCDの方がずっと幅広く記録できます。理論上、CDには20kHz超の周波数は記録されません。レコードは原理的には20kHz超の周波数も記録されますが、耳には聞えないはずです…
↑究極の45回転アナログLPレコード(1974年録音1995年再カッティング)
↑究極の45回転アナログLPレコード(1タイトル2枚組で、なんと片面に1曲しか入っていません)
↑実はCDも持っております(音質は45回転LPレコードの圧勝でした)
ここでご紹介した45回転のLPレコードがCDより音がいいのは、おそらくマスタリングをやり直しているからでしょう。1974年に録音したテープから、改めて再度45回転用にマスタリングされた音源を作り直して少量生産でレコードにしているので、音質がいいのでしょう。どうやら「音質」の良し悪しは、必ずしも周波数の幅とは関係ないようです。
結局、一周回ってアナログに戻ってきてしまいました。音質の沼は深い。
進化し続ける音楽の「音質」に対して、住宅の「居心地」はいかほどに進化したでしょうか。デジタル技術によって安価に量産できるようになった「音楽」に対して、依然として人手のかかる住宅の「居心地」はいっそう貴重品になったような気がします。
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