父と子の「絆」がまた厄介だ
私のビジネスコラムのなかで飛びぬけてアクセス数が多いのがある。もう2年半も前に書いた「父と子の関係性が厄介なのには理由がある」というものだ。私は親子経営専門のコンサルタントなので当然親子で経営されている経営者、後継者を対象として書かせていただいた。
ところが一般家庭の方々にも多く読まれているようで驚いている。よく考えてみれば経営者親子のみならず親子の関係性というのが厄介なのは一般家庭の親子も同じなのだ。父と息子、父と娘の関係はとかくに難しい。私自身も今でもなお日々いい関係性を保つことに腐心している。
以前、ブログを読んだという方から連絡が入った。中小企業の経営者の奥さんからの電話だ。経営者の父親と後継者の息子の関係が悪いという。少し前にせっかく跡を継ごうと帰ってきてくれた息子が父親と大喧嘩になり出て行ってしまったらしい。夫と息子の間に入った奥さんがひとりオロオロしているという図だ。
電話での相談だったので私にはどうすることもできずに終わった。このような電話が他にもいくつか寄せられた。経営者家庭の話ならまだしも、なかには一般家庭の奥さんからも入るようになった。無料電話相談を開設しているわけではないので、これには閉口してしまった。如何に多くの親子がその関係性の厄介さ加減で悩まれているのかと改めて思い知らされた。
それぞれの家庭には父と子の関係だけでなく、母と子の関係、夫婦の関係、兄弟姉妹の関係などがある。それらそれぞれの関係性がそれぞれの関係性に互いに影響を与えている。よって父と子の関係性を改善しようとするなら他の家族のそれぞれの関係性にも配慮する必要がある。
このように家族の関係というのは複雑に入り組み織りなされている。さらに家族には家族の歴史がある。時間の経過とともに積み重ねられた幾重にも折り重ねられた家族関係がある。よって一朝一夕にそれらの関係性を改善などできるはずがない。まして私のような第三者が電話相談を受け何かができるということなどあり得ない。
2年半前の私のブログで私が言いたかったことを改めて確認しておきたいというのが今回のブログの趣旨である。親子経営企業における経営者の父と後継者の子息、息女が対象となる。親子経営企業の最も重要となる父から子への事業承継をスムーズに上手く行うことは企業存続のための必須要件である。
経営者である父親と後継者である子息息女が仲が良く意思疎通になんの問題も無い場合はいいのだが、多くのケースで父と子の関係性があまり良くないということがある。なかには本当に仲が悪く今にも喧嘩別れしそうだという父と子がいるケースも結構あるものだ。私の著書でそんな企業の実例をいくつか紹介している。
せっかく良い後継者がいたにもかかわらず、馬が合わない父と子が言い争うことが多く、最後には後継者が出ていくというケースは少なからずある。また、一旦後継者が社長になったものの、父親が後継者の言動に我慢ができず再び父親が社長に返り咲くというケースもざらにある話だ。
これらいわゆるお家騒動といわれる話は本当に多くある。なかには事業承継が上手くいかず廃業、清算に至るということまである。そこまでいかずとも事業承継の失敗を機とし、業績不振に陥ることが多い。せっかくの経営交代という好機を活かすことなく成長のチャンスとすることができないという勿体ない話になる。
そこで、親から子への事業承継を上手く行うために事前に親子の関係性を少しでも改善しておくことが望ましいということになる。ただし、前提として父と子の関係性は厄介なものであり簡単に変わるものではないと認識して臨んで欲しいということが前回のブログの趣旨だ。
ではどうすれば関係性が改善されるのか。以前にも書いたが、関係性は相対的なものなので互いに言動を少しでいいから変えて欲しいのだ。父と子、両者が共に意識して言動を変えてくれればいい。でなければ相対的なものなのでどちらか一方でもいい。例えば息子が父親に「お父さん、ありがとう」と面と向かって言ってみる。
父親が息子に「今日はご苦労さん。ありがとう」と言ってみる。普段互いに感謝や労いの言葉を投げかけてないなら思い切って言って欲しい。もう一つは、互いに適当な距離感を持つことだろう。近すぎず、離れ過ぎず最適な距離感を互いに見つけ出して欲しいと思う。
さらに言うなら、私のような専門家を第三者として父と子の間に入れてみることをお勧めする。第三者を間に挟むことで直接に感情的な言動を交わすことなく冷静に意思の疎通が可能となる。このおかげで要らぬ親子喧嘩が相当数回避できる。私はこれまでいくつかのケースでその役目をこなしてきている。
私の場合は、まず顧問契約をしていただく。そして経営者である父親には経営全般の相談に与かる。後継者には、経営者になるための育成指導者という立場で個別面談を行う。父と子それぞれに個別にセッションを行っているがどちらも直近の試算表を見ながら進めている。
毎月そのようにして試算表をじっくりと見ることで現在の会社の状況が浮かび上がってくる。経営者である父親と後継者である子息、息女はそれぞれの立場で自社の問題点と課題を見つけていく。父と子それぞれが課題に向き合うなかで併せて事業承継への準備と覚悟を促すことにしている。
親子には「絆」がある。絆には断とうにも断ち切れない人の結びつきというどちらかといえば負をイメージする意味がある。一方で、断つことのできない人との深くて強い結びつきといった愛を思わせる意味がある。まさに親子の関係性を如実に表している言葉だと思う。
親子の絆を無理やり切ろうとすると修羅場が生じる。また、親子の絆を無理やり押し付けようとすると愛から憎しみへと変じてしまう。このようにまことに親子の関係は厄介なものと相場が決まっている。所詮父と子の関係は厄介なものと互いに認識し、ここは開き直って事業承継に臨んでもらおう。
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