「住宅ポータルサイト」はどこから来たのか?
「就職」灯台下暗し からつづく
「就職情報サイト」の闇
少し前のことになりますが、2019年に就活サイト「リクナビ」を運営する株式会社リクルートキャリアが就活生(約95,000人)の内定辞退率(スコア)を本人の同意なしに予測、有償で38社に提供していたことが報じられました。この問題は大事になり、厚生労働省から行政指導を受けました。さらに、個人情報保護法に抵触する新たな事実が確認されたことで、個人情報保護委員会からも勧告・指導を受けることになりました。
問題になったのは「DMPフォロー」というサービスで、以下のような内容のものでした。
①内定辞退率(スコア)提供に必要な学生の個人情報データ・情報閲覧データを取得
②アルゴリズムを作成し契約企業の手持ちデータと照合、内定辞退率(スコア)を算出
③契約企業に内定辞退率(スコア)を提供
↑契約企業に提供された内定辞退率(スコア)の例【株式会社リクルートのWEBサイトより】
契約企業は可能な限り優秀?(高学歴?)な学生を採用したいので、内定辞退率(スコア)の提供を受けて「内定」を辞退する確率の高い学生に対して重点的なフォローを行い、自社への就職を促します。一部の一流大学在学者のみに優先的に情報提供するといったことも行われていたと思われます。いわゆる「囲い込み」です。大会社の人事部の採用担当は、いかに優秀?(高学歴?)な学生を採用できたかという「成果?」によって評価されますので、必死な訳です。
いっぽう、優秀でない?(高学歴でない?)学生で、かつ内定辞退率(スコア)の高い学生は切り捨てられていた可能性があります。なぜなら、採用担当としては「内定」を出しても「入社」してもらえなかった場合には会社から評価されないからです。
当時リクルートは指導を受け、自ら以下のような問題点を挙げています。
①アンケートスキームにおける、取扱いデータの個人情報該当性判断についての不備
②ハッシュ化※に関する誤認識に基づき、本人の同意なく個人情報を第三者に提供
③プライバシーポリシーの更新漏れによる同意取得の不備
※ハッシュ化:ある特定の文字列や数字の羅列を一定のルール(ハッシュ関数)に基づいた計算手順によって別の値(ハッシュ値)に置換させること。「ハッシュ化」したデータは、パスワードによる「暗号化」と違って元の文字列や数字の羅列に戻すことは出来ません。
また、リクルートは「契約企業には、当社から提供したスコアを、選考における合否判断の根拠には使用しないようお約束いただき、また、当社担当者が実際の活用方法を確認しておりました。」とのコメントを発表していますが、なんとも大企業らしい「ご都合主義」な言い分です。
「就職情報誌」▷「就職情報サイト」の現実
「就職情報誌」から「就職情報サイト」への移行が始まったのは1995年からです。「就職情報サイト」の登場によって、それまで問題となっていた求職者の「情報格差」が解消されるものと期待されていました。インターネットという手段の導入により、様々な地域間の機会格差なども無くなっていくと考えられたからです。
しかし、結果は違っていました。「就職情報サイト」が認知され普及していくに従って、次第に大量応募・大量選考という状況を生み出していったのです。求職者としてはインターネット上で誰もが知っている有名企業に手軽に応募できることもあり、ダメ元で多くの企業にエントリーします。学生たちに応募先企業の働く場としての「本質」を見極めることは困難であったからです。
一見豊富に見えるネットの情報にも応募者にとって十分なものは実は少なく、その結果知名度のある企業にエントリーが集中することになったのです。採用者としては多くの企業に併願する学生の増加により「内定」を出しても辞退されるケースの増加から、定員に対して多めの採用を行うことが常態化していったのです。インターネットがこの傾向を助長・増幅してしまった訳です。
このことは、企業にとっては採用コストが跳ね上がることを意味します。「内定」を幾つももらってほとんどを辞退する学生もいれば、数十社というエントリーからひとつも「内定」をもらえずに就職活動から撤退していく学生も出てくる始末だった訳です。
「就職情報サイト」が黎明期であったその頃は就職希望者に対して求人が少ない、まさに「就職氷河期」と呼ばれる時代でした。熾烈な就職戦線の中、背景としてそのような厳しい時代ゆえの事情が重なっていたのです。
そのような時代の空気の中、毎年多くの人材を必要とする大企業を中心に、内定辞退率(スコア)は採用担当者にとって喉から手が出るほど欲しかった情報だったのです。結果としてインターネットの普及により、「情報戦」に飲み込まれた一部の学生と企業で有利不利を分けてしまうような「二極化」を助長してしまったのです。
↑求人総数および民間企業就職希望者数・求人倍率の推移【(株)リクルートのWEBサイトより】
インターネットによる「ステルス技術」
インターネットは24時間、誰でもどこからでも情報にアクセスできる点で革新的なものです。しかし、いっぽうで実態とかけ離れた内容のものも簡単に作成できます。また、閲覧者の情報を巧みに取得して活用する手法にも磨きがかかっています。早くコンテンツを見たいばかりに、よく読みもしないで「同意」ボタンを押してしまう傾向も、問題に拍車をかけています。やたら小さい文字で分量の多い規約など、若い人だって読みたくはありません。(ましてや殆どみんながスマホ利用です)
インターネットのおかげで「情報化社会」になったと言っても、現実には離職率はむしろ増加して高止まり傾向になっています。就職情報サイトがお目見えした1995年は平成7年です。様々な要因はあるとしても以下の統計を見る限りは、学生と企業の間のマッチングや納得度は向上しているとは言えないようです。
↑学歴別就職後3年以内離職率の推移【厚生労働省のWEBサイトより】(直近の1年目離職率が上昇しているのが気になります)
昨今の戦争や犯罪においてもインターネット空間が主戦場になりつつあります。サイバー犯罪に関するものには、サイバー攻撃・特殊詐欺・闇バイト・出会い系のものなど様々なものに拡がっています。その多くは、インターネットの持つ特性のひとつである「ステルス性」を利用したものです。
「ステルス性」とは、遠隔から色々な働きかけを手動・自動で効率よく行える割には、発信元やその素性を秘匿できる性質です。SNSで知り合った相手が「そのキャラクターとは全く違った人物によるものだった」というような報道も日常的になってきました。居場所だって海外からだったりする訳です。
有名なグリム童話に「赤ずきん」の話があります。
むかし むかーし。
あかずきんは おばあさんの おみまいに いきました。
わるい おおかみが やってきました。
「おはなを つんで いったら?」
「いいわね」
あかずきんは よりみちを しました。
そのあいだに おおかみは おばあさんを たべて しまいました。
おおかみは おばあさんの ふりを して まって いました。
というお話です。現代のインターネットの森にはこのようなオオカミのようなものが、おびただしい数潜んでいるのです。アクセスできる情報が多くなった分、その選別方法も心得ておかなければいけないようです。
↑インターネットの森は「赤ずきん」のようなオオカミだらけの世界です
「働くよろこび」を発する企業に
振り返ってみると、その時々の状況で求人倍率が大きく振れるのは従業員300人未満の中小企業です。最近のデータを見ても、中小企業が求人希望数を満たせていない状況が分かります。その中でも最近の学生の志望傾向として5000人以上の大企業や300人未満の小企業は減少、それ以外の300人〜5000人規模の企業で増加しているそうです。
↑従業員規模別 求人倍率の推移【(株)リクルートのWEBサイトより】(300人未満の小企業の変動が激しいです)
売上・利益は大切な要素ですが、それは使命ではありません。素晴らしい経営とは「人財」をつくることからです。企業は「社会の公器」と言われます。規模が大きくても、明らかにそうとは言えない会社もあります。逆に、小さくても間違いなく「社会の公器」と呼べる会社もあります。
多くの企業では就職情報サイト上はもちろん、自社のWEBサイトにおいても経営理念、お客様や従業員に対する社長の考え方をはっきり示しているものは殆どお目にかかることがありません。社長がしょっちゅう代わる大きな企業では、どうやらそういう内容を書きずらい面もあるようです。組織が大きくなると、大人の事情がたくさんあるのです。
オーナー社長の会社なら「人財」になるべき人の採用に当たって社長の考えをはっきり表現して、就職志望者が気付けるようにすべきでしょう。良くも悪くも、書いてないことは誰にも分からないからです。知名度のない中小企業が大企業のマネをして、表ズラばかりのWEBサイトでお茶を濁していては「人財」となるべき人に選んでもらうことは出来ません。
冒頭ご紹介した不祥事の内容を見るにつけ、ひょっとすると住宅関連のポータルサイトでも今回の「就職情報サイト」同様の裏サービスがなされているかもしれないと思った次第です。
社長の会社では、スタッフの採用に求人サービスを活用されていますか?就職希望者が待遇や労働条件だけでなく、社長の「実現したいこと」や「お客様に提供すべきもの」を理解できるようにされていますか?
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