一文字変えたら大繁盛
「絶妙」と言うべきところを「微妙」と言ってしまったら…。一文字違いが、大きな違いを生むことがあります。「宅配便」と「宅急便」。一企業のサービス名である「宅急便」の方が一般的な言葉になっています。
1.絶妙なネーミング
今やゴルフやスキーに行くにも、Amazonや楽天で買い物をするにも「宅配便」の存在は欠かせません。中でも、業界の先頭を切って市場を作ったパイオニアが「クロネコヤマトの宅急便」でした。
そもそも「宅急便」のアイデアは、アメリカのU P S(ユナイテッド・パーセル・サービス)社の4代の車両が、マンハッタンの四つ角に止まっていたことに着想を得たそうです。
ちなみに、ネーミングの中の「クロネコヤマト」の部分は、アメリカのアライド・ヴァン・ライン社のシンボルマークがヒントになっています。どちらもアメリカの企業が発想の元になっていたのですね。
「卓球」と間違われないかという点が懸念されたようですが(この当時「ヤマト卓球株式会社という卓球のボールを製造する会社が既にありました)、「宅急便」としての商品化に決断して、世に出ることになりました。
「J A Lパック」という商品でハワイ旅行というサービスを販売したように、小荷物の輸送サービスを「宅急便」という商品で販売するというのが基本コンサプトです。家庭の主婦が買いやすようなネーミングが成功の秘訣となりました。
その後、「クロネコヤマト」の成功を横目で見た他社が参入し、今でも目にする「ペリカン」、「カンガルー」などの動物合戦がありました。当時は、イヌ、クマ、ライオン、ゾウ、キリンなど入り乱れていたようですが、「宅急便」のイメージが強いように感じます。
「宅急便」の開発経緯などを著した小倉昌男氏の書籍にはハッとさせられる言葉が並びます。
- 企業の目的は、永続すること
- 企業の存在意義は、地域社会に対し有用な財やサービスを提供し、併せて住民を多数雇用して生活の基盤を支えることに尽きる
などなど。とても、書ききれません。
2.LiveとLove
アメリカでも一文字違いで商売に弾みがついた事例があります。それが他ならぬ法律の世界なのです。
例えば、歌手のプリンスさんが急死した例があります。プリンスさんは未婚で子供がおりませんでしたので、45人以上の人が相続人として名乗り出る事態となりました。最終的には6人に絞られたようですが、財産の行き先を決める遺言は残されていませんでした。
裁判所が介入して、税務署(I R S)やら何やら色々な人が関わって手続きを進め、2016年に亡くなられて相続財産が確定したのが2022年でした。
仮に、プリンスさんが遺言を書いていたとしたらどうでしょうか。この場合、遺言により手続きが進められますが、やはり裁判所が介入します。しかも、裁判所の手続きが公開される上に、時間と費用がかかります。
そこで、裁判所の介入を防ぐために利用されたのが「信託」でした。大学教授が「信託」の有効性を訴えていましたが、今一つ社会的に響きません。ところが、一人の不動産コンサルタントが1冊の本を出版して、大ブームになります。内容は「信託」の活用を提案するものでしたが、本の販売は250万部とも300万部とも言われます。
この信託活用ブームに火がついた時の名称は「Living trust」でした。さらに、「Loving trust」という商品名を開発して、ブームに油を注ぐことになります。アメリカという土地柄では、「生きる(生存)信託」より、「愛情信託」の方が良かったようです。たった一字の違いですが、大きな追い風になりました。
確かに、「裁判所の介入を避けるための信託」より、「家族のための愛情信託」の方が受け入れられやすい気はします。今では、アメリカの財産管理の世界では、信託は欠かせないツールになっています。
3.偉大なる経営者の素顔
ヤマトホールディングスといえども、元々は小倉家のファミリービジネス。光の当たるビジネス面だけでなく、偉大なる経営者のファミリー面に焦点を当てた書籍もあります。ビジネス面で大成功を収めた経営者のファミリーに関する内情が描かれている興味深い一冊です。
経営者の晩年と家族や関係者の視点を丁寧に記した書籍は多くはありません。同族会社(ファミリービジネス)のファミリー面に焦点が当てられた内容ですので、ご家族関係に悩む経営者にとっては参考になる部分があるはずです。
功成り名を遂げた経営者が広い自宅に一人暮らすようになった時、行きつけのお店のママ(といっても高級住宅地なのですが)に身の回りの世話を見てもらうまでの流れや、それを子供たちがどう受け止めたかも書かれています。
オーナーシップ面で面白かったのが、財団の設立時のエピソードでした。設立準備室に「これを頼むよ」と約25億円相当の株券を紙袋で置いていった場面です。紙袋で渡された担当者はそのまま執務室に置いて置いたところ、帰宅途中にふと思い出し、中身を見てびっくり。慌てて貸金庫に保管したというエピソードですね。
事業承継対策のために財団を設立したのではなく、家族への想いがあって障害者福祉のための財団を設立したという背景もよく分かります。
<まとめ>
一字違いの話でしたが、「宅急便」の成功のヒントはアメリカにありました。これからの時代に必要とされるオーナー社長のための財産管理のヒントもアメリカにあります。
アメリカで個人の財産管理に「信託」フィーバーが来たのは、1965年以降です。iDeCoやN I SAなど、投資信託を活用する機会は増えています。しかし、オーナー経営者に必要なのは財産管理のための信託という仕組みなのです。
同族企業(ファミリービジネス)のオーナー経営者だからこそ、資産管理や承継に「信託」という仕組みが必ず役に立つことをご存知ですか?
※本コラムにつきましては、下記の二冊を参照しています。
- 小倉昌男「経営学」日経B P社
- 森健「小倉昌男 祈りと経営」小学館
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