価値観の転換期
「キングダムは経営者の必読書」。とある雑誌の記事のタイトルです。この記事ではリーダーシップの観点から経営理論が語られています。本コラムでは切り口を変えて、中国を統一した秦という国を取り上げます。
1.天下統一
「キングダム」は、500年の戦乱が続いた中国を統一する物語です。テレビ、映画でも大人気。映画で王騎将軍を演じた大沢たかおさんの演技は素晴らしく、あの奇妙な王騎将軍を上手に演じています。
「キングダム」は、戦国時代系のものが好きな経営者にピッタリなコミックです。ただ、日本の戦国時代の天下統一と、秦の中国統一の歴史的な意味合いは異なります。その理由は、全国統一後の国家のあり方にあります。
秦王の政は天下統一して始皇帝を名乗り、帝国として中央集権型の統治に切り替えます。一方、日本の戦国時代は徳川幕府により終結しましたが、大名が地方を統治する地方分権型の体制は変わりません。
日本という国の規模(会社でいえば売上?)であれば、これまでの統治スタイルを変える必要がありません。地方ごとの独自ルールも、ある程度は許容されます。
しかし、帝国を形成するとなると統治方法が抜本的に変わります。中央集権的に全国統一ルールの適用が必須になります。会社の成長とともに子会社が形成されていき、持ち株会社の統制の下、同一の会計基準、会計ルールが適用されることになります。
春秋戦国時代という戦乱の中国で、西方に位置する秦国が、他の6カ国を滅ぼします。なぜ秦は天下統一できたのか?
その理由として、外部人材の積極的な登用(政治、政策)、騎馬の入手が容易だった(武力)、法による統治をした(思想、法律)、流通性の高い円形の貨幣の採用(経済)などがあげられます。
国王(=オーナー社長)として、国力(ビジネス)を上げるという点ではどれも重要です。では、これらが家族(ファミリー)にどう影響を与えたのでしょうか?
2.騎馬民族との接点
春秋戦国時代の中国では、国王をはじめ有力者は領地を長子相続など一人の子供に相続させて、家産の分散を避けていました。つまり、家族という集団の中で、兄弟は不平等な関係になっています。
この点、日本も同様です。鎌倉時代の御家人(武士)も分割相続から単独相続に移行していきます。日本の南北朝の動乱(楠正成とか北畠顕家)は嫡子と庶子の相続争いです。
中国は紀元前のことですが、日本は14世紀のことですので、歴史の違いを感じます。
さて、中国でも良い騎馬を入手するためには、時として敵になる騎馬民族との接点が生じます。騎馬民族は土地所有という観念がないため、財産を相続させる場合でも単独相続にする必要がありません。
騎馬民族の相続は末子相続(上の子から家畜を与えて独立させていき、最後に残った子供が親の面倒を見ながら相続する)が多かったようですが、兄弟に序列はありません。
この騎馬民族の平等原則が秦国にも影響を与えた結果、一人のリーダー(父親)のもとに平等な扱いを受ける部下(子供)の組み合わせが生じます。
つまり、騎馬の入手が容易だっただけでなく、騎馬隊を有効に活用するためのシステムを手に入れていたことになります。
後年、遊牧民であるチンギス・ハンが更に巨大な帝国を構築しました。
3.思想の大転換
政治の方針も徳治主義(儒家)から、法治主義(法家)へと切り変わります。
儒家の立場は上下関係を確立することが国を安定させるというものです。君主は徳をもって良い政治を行い、家臣は礼を行動で示すことが求められます。
法家の立場は君主の善政、悪政にかかわらず、法を守ることが重要というスタンスです。序列や上下関係は考慮されません。
焚書坑儒により法治主義が徹底されます。ただ、この厳格な法治主義が後年に反乱の原因になるのですから、簡単に善悪、良否はつけられません。このあたりのバランスが経営の難しいところです。
「キングダム」の中の李斯の名言です。
「法とは願い! 国家がその国民に望む人間の在り方の理想を形にしたものだ。」
かたや、わが日本は徳川幕府時代の儒学(朱子学)を重要視した流れが、明治政府に引き継がれます。近代国家としての体裁を整えて、不平等条約を改正するために、法律を制定しようとした時に起きたのが民法典論争でした。
「民法出でて、忠孝亡ぶ」
まさに儒教ですね。さらに、戦後に民法が改正されて、国家が望む人間の在り方が変わりました。
ただ、国家が望む人間のあり方と、我々国民の社会的な意識には乖離があります。財産をどの様に、誰に残すかという課題もその一つです。
社長が自分の財産をこのように残すという意思を示さない場合、法によって方向性が決められることになります。果たして、それが社長が望むことなのでしょうか?
<まとめ>
価値判断を求められる時が、人には必ずやってきます。
その準備ができていますか?
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