ビジョンを描いて進むのと、目先の仕事をただ片付けていくのとの大きな違いについて
「ビジョンをつくるのはいいんですけど、あまりにも現実離れしていて意味がない気がする」と先日お会いした若い経営者。コンサルタントとかアドバイザーとかいう人に会うたびに「ビジョンは何か、理念は何か」と問われるので、なんとか考えようとしているらしいのですが、どうも現実感が湧いてこないと仰る。
それもそのはず「ビジョン」というのは数年後の自分の理想の姿。現実とのギャップがあるからこそ「ビジョン」となりえるわけで、その理想に惹かれる気持ちがあるからこそ「ビジョン」としての役割を果たします。
この若き経営者の場合、ご自分の志や経験から生まれてきたビジョンと現実とのギャップがあまりに大きく、関連性が見えないために、そもそもビジョンを描く意味がわからない、というところで足踏みをしておられるご様子。
過去にお付き合いのあった社長の中には面白いビジョンを描いている方がおられました。たとえば学生時代はマジでミュージシャンになるつもりだったけれど、会社を経営する父親が急に倒れて呼び戻され、不本意ながら建設業の社長になった方。建設業の箱に収まってもかつての自分のありたい姿、馴染みのある世界を離れがたく、本業とのつながりを持ちつつ音楽関係の新規事業を始められました。
新規事業で利益を出すのには時間がかかりましたが、建設業+音楽という他にあまりない事業の組み合わせが評判になって本業の売上がアップ。結果として相乗効果を生み出しました。
もう耳タコかとは思いますが、イノベーションつまり新しいものは、すでにある異なるものの組み合わせから生まれます。それはビジョンについても同じで、先代から事業を承継したからと言って、ビジョンそのものも100%継承する必要はなく、むしろ2代目、3代目社長のバックグラウンドから立ち上るビジョンとの組み合わせで、ユニークな会社の方向性が生まれるということも十分あり得るという言うことです。
時代背景はどんどん変わっていきます。10年前に掲げた会社のビジョンを同じように掲げ続けているとしたらそれはそれで異常な状態とも言えます。
10年前と言えば2013年。2020年に突如現れたコロナウィルスは片鱗もなく、ロックダウンもリモートワークもほとんどの人は体験したことのないことでした。SDGs(持続可能な開発目標)も2015年に登場していますから、いまであれば多くの企業が当たり前に掲げる「サステナビリティ」というコンセプトも10年前には普及していませんでした。環境が変わればビジョンも変わります。人が変われば当然描くビジョンも変わります。
ところで、ビジョンを掲げることのメリットの一つに、無数に現れる事業展開の選択肢に方向性を与えることができる、ということがあります。お客様と安定的に関係を持ち仕事を継続していれば、いろいろな頼まれごとが寄せられます。時に本業とは関係のないものもあるわけで、それらにいちいち対応し過ぎると、「何屋かわからなくなる」リスクがあります。リソースが分散した挙句に生産効率が著しく落ちるリスクもあります。
そういうとき、目の前に並べられた選択肢を選ぶべきか、選ばざるべきかを選別する基準としてビジョンが機能します。その選択が、遠い先に思い描くあるべき姿に至るワンステップとなりうるかどうかを判断することができます。
お客さんからいろいろな仕事をいただけるのはありがたいことです。でも、その一つ一つに対応することが、あるべき姿に至るルートに乗ることになるのかどうか。そういう意味付けができるかどうかは、きちんと考えてみたい事柄です。
さて、貴社はいかがでしょうか。
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