環境適応業としての会社にコンセプトが必要な理由
「お客さんの求めに応じて手を広げていったら、6割以上が新しい事業になった」と先日お会いした、とある中小企業の社長。フットワークよく動ける業種の仕事。お客さんが求めるものを調達し、自社で扱う従来商品と一緒に届けていたら、いつのまにか他の商品のほうが多くなってしまった、ということらしい。2代目社長だということも幸いしたのかもしれません。先代が始めたもともとの事業に固執することなく、お客さんの要望に応じて自在に事業を変えていけたのが、結局今の好業績に結び付いているということです。
そういえば以前にも同じような話を聞いたことがありました。特に景気が悪くなりそうなときや環境が大きく変わりそうなとき、今までの主軸のご商売で昨年と同じ業績が確保できそうもないというときは、周辺にあるお客さんのニーズを踏まえたご商売を垂直あるいは水平統合して嵩を稼ぐ。当たり前にやられている社長も多いと思います。
ところが、時と場合によっては「社員がその発想について来られない」ことになります。社員の視点に立ってみれば、「自分はこの仕事をやるために入社した」という意識がありますから、「その仕事じゃなくて、今こっちの手が足りないから、こっちやって」と言われると、「それは話が違う」となりがちです。
「マーケティングの仕事をやりたかったのに、現場の仕事しかやらせてもらえないので辞める」とか「事務仕事をやりたかったのに、営業に回されてしまったので、やる気が出ない」とか。この手の話は本当によく聞きます。悪い場合は「会社は不本意な環境に置くことで、自分を辞めさせたいのか」と勘繰る社員も出てきます。
本当は環境が変わったので、今までと同じ仕事をやり続けることができなくなったのです。だから社員が担当する仕事も当然変わる。そこを理解してもらえないと本当に厄介です。
お客さんの要望に応じて自在に事業を変えていくことは悪いことではありません。むしろ「企業は環境適応業」と言われるくらいですから、お客さんの要望が変わったのであれば、旧来のやり方に固執することなく自ら変わっていくのが生き延びるための王道でしょう。問題は節操なく何にでも手を出していると、お客さんにとっても社員にとっても自社が「何屋かわからなくなる」ところにあります。
その点が、会社にコンセプトが必要とされる理由です。コンセプトとは、会社の核となる価値観や方針、存在意義のこと。このコンセプトがしっかりと定まっていれば、どんなに事業を拡大・変更しても、方向性がブレることはありません。社員も、このコンセプトを共有していれば新しい仕事や変化を受け入れる姿勢が養われるでしょう。
逆に、コンセプトが明確でないと、事業の変動や市場の変化に対して方向性を見失いがちとなります。それは、船が羅針盤を持たずに進むようなもの。どれだけ風が良くても目的地にたどり着ける保証はありません。
また、コンセプトを持つことで、お客さんにとっても安心感が生まれます。例えば、ある店が「健康を最優先した商品のみを取り扱う」というコンセプトを掲げているなら、お客さんはその店で商品を購入する際、健康面での安全性を信じることができるでしょう。
さらに、明確なコンセプトを持つことで、社員一人一人が自らの役割や貢献を理解しやすくなり、自己実現を追求するモチベーションも高まります。
要するに、事業の多様化や変動に対応するためには、しっかりとしたコンセプトを持つことが不可欠です。それによって、企業は一貫性を持ちつつも柔軟に変化する市場に対応することができ、長期的な成長と持続性を確保することができるのです。
さて、貴社はいかがでしょうか。
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