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「働き方改革」と「AI」考

SPECIAL

住宅・工務店コンサルタント

株式会社 家づくりの玉手箱

代表取締役 

住宅・工務店コンサルタント 。規格住宅を高付加価値化させ、選ばれる工務店となる独自の展開手法「シンボルハウス戦略」を指導する第一人者。
営業マンとして自分が欲しいと思わない住まいをお客様にお勧めする仕事に疑問を持ち、ある工務店でどうしても家を建てたくて転職、鹿児島へ 。15年間で173棟の住まいづくりをすまい手目線で担当。そこから編み出された、選ばれる工務店となる具体戦略を、悩める中小住宅会社ごとに実務指導中。

「働き方改革」に悩むリーダー

 

ここしばらくお会いした経営者・リーダーの悩みには、共通して人材問題があるようです。「みんな俺の話を聴いても反応がない…」といった昔ながらの社長のため息もありますが、深刻なのは「この働き方改革の空気の中で、どうやって育てたらいいのやら」といった新入社員教育に関しての悩みです。

ご存知のように「働き方改革」と銘打って政府から様々な労働法制の改正が打ち出されています。その概要は以下のようなものです。

 

* 時間外労働の罰則付き上限規制
* 年5日の有給休暇取得義務化
* 勤務時間インターバル制度
* 産業医の機能と長時間労働者に対する面接指導等時間の強化
* 高度プロフェッショナル制度の創設
* フレックスタイム制の柔軟性拡大
* 同一労働・同一賃金の原則

 

「一億総活躍社会の実現」というスローガンのもと長時間労働の是正、非正規雇用労働者の処遇改善など、労働制度を抜本的に改善しようという取り組みとされていますが、人材育成や教育機会といった側面がいまひとつフォローされていません。私が出会った社長やリーダーが困っているのはその部分なのです。

若い人たちが入社してきても、昔のように「休日出勤や時間外勤務で実務スキルを身につけてもらう」という手段が取れない。また「厳しく発破をかける」と即時パワハラ上司になってしまうのです。

ある営業系のベテランリーダーA氏は「僕のところには新入社員は来なくなりました。パワハラ系なので(笑)かといって誰も新入社員の実務トレーニングはやってないんです。かわいそうに実質的に彼らは腫れものに触るように放置されています」

A氏の会社は企業イメージを大切にされていて、最近新入社員に対する対応方針に変更があったようです。A氏は「欲しい人材は、中途で探すか外注先を見つけるかの2択になってしまっています。長い目で見るとまずいと思うのですが。」と。世相を表しています。

別の企業の次世代リーダーB氏は「社長からは僕のような人間をあと6人つくれと言われてるんです」と困り顔です。なんとも解釈の余地のある「大きな指示」です。

B氏は若いリーダーですが、最近の会社の業容・規模拡大の対策として進めてきた分業・外注による体制と、高付加価値を実現するための人材育成の両立の困難さを目の当たりにされています。現在の会社の在り方は、労働法制の方向性には沿っているものの「あとの6人をどうつくるのか」は大問題です。

 

↑わが国では、労使の問題に国が介入する部分が大きくなっています

 

 

現代の「若者」は「chat GPT」ではない

 

お会いする経営者の中には「働き方改革」というと「ITツール導入」といった感覚の方も多く見受けられます。建設業では特に現場への移動時間やデスクワークなどが時間外労働の元凶になっているからです。また、この手の「ITツール」は「働き方改革」の一環として公的な補助金の対象となるものが多数あり、すぐに飛びついてしまうのです。

こういった「ITツール」はそもそもよく分からない上に「これさえ導入すれば御社も働き方改革バッチリ」みたいな「打ち出の小槌」のような告知が溢れています。また、補助金によりあまり自分の腹が痛まないので、多くの会社で深く考えることなく導入の運びとなります。

しかし、導入後にいろいろと気づくことになります。(往々にして対処するのは社長ではありませんが…)以下のような運用段階での細かいことが必ず発生してきます。

 

・スタッフや業者さんみんなへの操作説明はどうするのか?
・アカウントは誰が管理するのか?
・応用的な使い方は誰に聞くのか?
・アプリのダウンロードは各自でやるのか?
・課金サービスについてはどうするのか?
・トラブル対応は誰が担当するのか?

 

こういう細かい対応が、ただでさえ過剰な業務をさらに圧迫したり、思わぬ固定費になってしまったりする訳です。社長は補助金で得したつもりでも、実際には高い買い物になることも多い所以です。まず自らの会社の業務実態を把握していないと、何も始まらないのです。安直な「ITツール」導入は対処を間違うと更なる業務を生むばかりか、主たる目的である業務の効率化が果たされないのが、なによりも問題です。

「働き方改革」にまつわる世の中の空気感は、まるで現代の若い人たちが「chatGPT」のようなAIプログラムのように、24時間知らない間に自己学習してくれるようになったかのようです。「働き方改革」なる機運が、結果として人の教育機会の確保を難しくしてしまっているようです。A氏もB氏もそこに同じ違和感を持っておられるようでした。

 

 

↑若い人材が社会で「経験する権利」はどうなっていくのでしょうか

 

 

 

人間的な「プロンプト」とは

 

政府主導の「働き方改革」には、言葉のもつ耳ざわりには感じられない側面もあります。ひとつは労働者保護といった観点だけではなく、経済界の「働かせ方改革」といった側面です。大和総研の試算では「働き方改革」で残業時間の上限が月平均で60時間に規制されると、日本中の残業代は最大で年8兆5000億円減少するのだそうです。

これは、多くの人の収入が減少するということで、支払う側にとってみれば大幅な増益要因であり「悲願」とも言えることでしょう。「働き方改革」関連の会合に出席していた有識者メンバーを見れば、経済界やフリーランス紹介プラットフォーム関連会社など改革により新たな利益を獲得するであろうメンバーが多数でした。

「同一労働同一賃金」という点においても両面性があります。言葉としては至極当然のこと、差別的扱いを無くそうという機運を感じます。いっぽう「同一労働同一賃金(職務給)」が定着しているドイツやフランスなどでは、若年層の失業率が日本に比べて格段に高くなっています。現地で大規模デモなどが増える一因になっています。日本では、こういったマイナス面についてあまり十分議論されておらず、報道などでも取り上げられていません。

現地では業務の内容に応じて給与が決まる制度である「職務給」が主流です。その場合、賃金は年齢に関係なく仕事ごとに決まっています。そのため、雇う側からすると、能力がわからない(期待できない)若者よりも熟練した働き手の方を優先して雇用することになります。その結果若年層の失業率が高止まりしてしまう訳です。若年層でありながらも失業してしまう多くの若者は、必要な能力開発に遅れをとってしまい、さらに不利な状況へと追い込まれているのです。「少子化」と言われつつも、今後の日本がそうなっていく可能性は十分あります。

昨今の技術の進歩は急速であり、入社後教育しても習得した技能はあっという間に陳腐化してしまうものが多くなってきています。そうなると企業は教育に消極的になり、必要な人材を外部で調達しようとします。外部の人材には様々な雇用責任が発生しないからです。さらに「働き方改革」で雇用の流動化が進むと一層その傾向は強くなるはずです。企業の教育投資がどんどん割に合わなくなるからです。

フリーランス紹介プラットフォーム関連会社は国内でランサーズ・クラウドワークスの大手2強と言われています。彼らはマッチングサイトを運営、成約の際には契約金額の5〜20%を差し引いた金額がフリーランスの報酬となります。フリーランス側では多くの人が、仕事内容の一方的な変更やそれにともなう過重労働、不当に低い報酬やその支払い遅延、提案方形式で仮納品した著作物の無断転用など、発注者や仲介事業者であるプラットフォーム関連会社との間で様々なトラブルに直面しています。誰が得をして、誰がリスクを負うのかが、徐々に見えてきているのです。

「chatGPT」に代表されるAIは優秀ではありますが、それは使い方ひとつ「バカとハサミは使いよう」だそうです。「chatGPT」に具体的に指示するのはどこの国であれ何らかの言語です。その質問文や指示文を「プロンプト」というそうです。

AIを活用するレベルはいかに有効な「プロンプト」をAIに繰り出せるかにかかっているのです。また、どのような「プラグイン」(道具)を組み合わせるかも重要なポイントで、人間どうしの世界と根本は同じなのです。AIが「ドラえもん」だとするとプロンプトは「のび太」にあたるものですが「のび太」のように要望を言うばかりでは、未だダメなようです。

あたらしい「ITツール」や「AIツール」を導入するにあたって、その前にはやはり言語化が必要なのです。どうやら、そこは避けては通れないようです。

 

↑「AIツール」が「ドラえもん」のようになるにはもう少し時間がかかりそうです

 

 

 

社長の会社ではあたらしく「ITツール」や「AIツール」を導入されていますか?日頃から、何のために、何を、どのようにして、どのような結果をもたらしたいのか?社長ご自身の言葉で表現できていますか?

 

 

 

 

 

 

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