ヒトごとではないヒト問題
「モノ、カネの対策は十分やっているけど、ヒトのところは難しいね。ましてや…」とT社長。そうなのです。経営に一所懸命ですとそうなります。「灯台下暗し」といいますか、ヒトのことが後回しになりがちなのです。生涯現役で働くのが理想ではありますが、人間である以上、いつかは誰かに何かを譲る時が来る、という現実もあります。
1.社長の思いが伝わるか
T社長と話していたのは、もし自分に何かあったら後継者をどうするか?という問題です。長男は会社員として別の会社に勤務しています。社内を見渡しても役員はいても後継者にはなり得ないという状況。さて、どうしたものか?
色々なデータがありますが、経営者の外部の相談先として多いのは、税理士・会計士、金融機関、他の経営者の3つです。ただ、相談先として存在感を高めているのが金融機関です。
しかし、相談する相手が金融機関などの営利企業であれば、商売上の思惑と無縁ではいられません。顧問契約がある税理士であれば中立的な立場での意見を聞くことができるかもしれませんが、税務の範疇を超えています。
T社長の状況は、どちらの方向に舵を取るか判断材料が欲しい状況です。自分が引退するまでに後継者を育成できるか見極めたいという思いがあります。自分の育てた会社を任せる決断ですので簡単なことではありません。
先日、税理士法人とM&A会社で共催したセミナーに参加しました。驚いたのは、今やM&Aの相談先のNo.1は金融機関です。税理士・会計士に相談する割合は金融機関の1/3にすぎません。
相談先の第2位はM&A専門仲介機関です。確かに、M&A会社からT社長の元にも毎週のようにDMが届き、ひっきりなしに電話があるようです。人も会社も商品化されるという資本主義の凄さに圧倒されます。
帝国データバンクの調査結果では、今や親族内承継は約1/3でしかありません。内部昇格が約1/3、M&A関係が約2割です。選択肢が多様化したのは良いことではありますが、逆に迷いが生じることにもつながっています。
2.やるべきこと
M&Aによる譲渡をする企業の目的もトップ3は、「従業員の雇用の維持」「事業の成長・発展」「後継者不在」です。一方で買い手側の目的は「売上・市場シェアの拡大」「新事業展開・異業種への参入」という成長戦略が背景にあります。
誰に承継するにしてもやるべきことは企業価値の向上であり、成長戦略の推進です。親族に承継する場合、家業であったとしても将来性のない会社であれば承継には二の足を踏むでしょうし、M&Aでは買い手がつかないという事態もありえます。
成長戦略を考えた場合、当社はM&Aの売り手側であった企業が、買い手側に変わることもありえます。親族に承継するという価値観に捉われなければ、M&Aという選択肢がある限り後継者問題が解決していると言えるかもしれません。
最も、業界そのものの状況が成長期か、安定期か、衰退期かの見極めも必要です。成長期であれば売り手が優位であり、衰退期であれば買い手有利であることは自明だからです。
これまでの事業承継対策では、企業価値の向上という観点よりも、税務に重きを置いた対策が多かったように感じます。提案内容によっては、税務上の意味もなく、提案者にはビジネスのメリットがあるが、長期的に企業価値を毀損する提案も散見されました。
いざとなったら自分の会社は売れるのか、売るためには何をすれば良いのか、という点は押さえておく必要があります。ただし、M&Aの世界にも闇があるようですからお気をつけください。
3.まとめ
人によって濃淡はありますが、日本人は伝統的な価値観として「家」意識があります。ましてや、「家業」となれば「引き継がせなければならない」「引き継がせたい」という思いがあるかもしれません。
ただ、時代は変わり、人の意識も変わります。100年ほど前の日本は、世界一の「離婚の数件数」「私生児の数」大国でした。「家」という意識も変わり、「家族」のありようも変わっています。
同族企業(ファミリービジネス)の土台には家族(ファミリー)があります。家族対策(ファミリーガバナンス)を実施した後でないと結論の出ないことがあるかもしれません。
家族対策(ファミリーガバナンス)で気になることはありませんか?
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