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中古マンションの闇【入口戦略編】

SPECIAL

住宅・工務店コンサルタント

株式会社 家づくりの玉手箱

代表取締役 

住宅・工務店コンサルタント 。規格住宅を高付加価値化させ、選ばれる工務店となる独自の展開手法「シンボルハウス戦略」を指導する第一人者。
営業マンとして自分が欲しいと思わない住まいをお客様にお勧めする仕事に疑問を持ち、ある工務店でどうしても家を建てたくて転職、鹿児島へ 。15年間で173棟の住まいづくりをすまい手目線で担当。そこから編み出された、選ばれる工務店となる具体戦略を、悩める中小住宅会社ごとに実務指導中。

中古マンションの闇【入口戦略編】

中古マンションの闇【構造・メンテナンス編】  からつづく

 

マンション購入の「入口戦略」

 

ここまで、シリーズでマンションにまつわる闇の部分を各分野に分けて紹介してきました。 マンション所有も物件により様々な問題が潜んでいる可能性があることが分かってきました。今回は、マンション購入時点でのリスク防止策についてお話します。

新築マンションの場合何でその物件を知るかといえば、まずは広告です。ネットやマンション特集雑誌などで見ることが多いのではないかと思います。最近では広告時の情報は「予告広告※」ということにしておいて最低限にしぼり、専用サイトなどで個人情報を入力させて資料請求してもらうつくりになっています。

※予告広告:予告広告とは、分譲宅地、新築分譲住宅、新築分譲マンション、新築賃貸マンション・アパートにおいて、販売価格や募集賃料が確定していない等の理由で、すぐに取引することができない物件について、その「本広告」に先立ち、その取引開始時期をあらかじめ告知(→予告)する広告のこと。

そして、資料も郵送よりもメールでパスワード付きのリンクを送ってくるスタイルが多くなっています。大手販売会社であれば、そのユーザーがその時点でいつ、どの物件に興味を持ってウェブサイトのどこを見た人か?ぐらいは把握できるようになっています。そのためにメールアドレスをはじめ個人情報を入力させることが、セールス自動化の第一歩なのです。えらい時代です。

そういう事情もあって、とにかく注意を引こうとキャッチコピーも個性的になっています。しかし、何を言いたいのか分からないものは要注意です。マンション物件のアピールポイントの王道は立地です。その場所の地位・利便性・環境・眺望などからかけ離れたテーマの広告は、王道であるアピールポイントが何もない場合によく見られます。

そういった「雰囲気広告」の代表格として、芸能人の登場する広告があります。過去にも多数実例がありますが、本当に何が言いたいのか分からない内容です。このあたりは物件としての魅力に欠け、相当苦しいのだと理解するべきかと思います。

また、大規模物件によく見られる豪華な共用施設を売りにしている物件も要注意です。エントランスの噴水・屋内プールや大浴場・バーベキューガーデン・スポーツジム・バーラウンジ・パーティルーム・ゲストルームなどなど。住まいとしてはいささか過剰な共用設備は、長期的には管理費や修繕費の負担に耐えられなくなる可能性が高いです。販売促進コストを未来永劫、区分所有者が負担させられる仕組みなので、危険です。

 

https://ganbaru.mcury.jp/157/2

↑「伝説的」な芸能人広告が載っていました

 

新築マンションの価格は、以下のような構成で決まっています。

 

土地取得費+設計料+建築費+販売手数料+諸費用+事業主利益

 

事業主(デベロッパー)の事業利益はマンション価格の15〜20%とされていますが、高いところでは某旧財閥系大手では40%、実質的には出資だけして共同事業に乗っかる系の事業主では5%程度のケースもあるようです。通常マンション販売の世界は竣工時までに完売するのが至上命題です。残り住戸が少なくなると、やれ「購入サポート(値引き)」だ「家具付き」だとサービスして完売にこぎつけます。

 

↑「購入サポート」とはよく言ったものです(1軒あたりは200万円ではなく100万円です。紛らわしくもこざかしい表現です)

 

↑「家具付き」と表示されているマンションは、値引き交渉も可能な場合が多いようです

 

しかし、40%もの利益率を誇る某旧財閥系大手では、竣工時完売にはこだわってらないそうです。竣工時点で少々売れ残っても高い価格のままで販売することで、事業利益水準とブランド価値を守るという方針のようです。計画段階から竣工後の販売を前提としているので、外観デザインとエントランスホールはかなり豪華な仕様になっているのだそうです。見込客に竣工後の現物を見てもらうと、これまた売れるのだそうです。(住戸内はぜんぜん普通だそうですが)すごいですね。

都市圏ではマンションの高層化が特に進んでいます。事業主としては従来ルールでは収支が合わなかった場所でも高層化することで、販売住戸数が増やせるので利益確保が見通せるケースがあるのです。

また、その場所の自治体としても大幅な税収増が見込める高層マンション誘致には積極的なのです。「ふるさと納税」などでも見られるように人口減少時代には自治体間で「税収」の奪い合いが始まっているので、背に腹は替えられないのです。

そうして出来たタワーマンションですが、何階あたりが「買い」なのでしょうか?

高層階ほど価格が高いし「災害時のことを考えると低層階がよい」という意見もあります。タワーマンションはどうしても管理費や修繕積立金が割高になります。その割高な維持コストを負担しながらも低層階を所有するのはコスト面でもったいないので「それなら最初から低層物件を買った方がいい」という意見もあります。自分たちが使いもしない高層用エレベーターの高い管理費や修繕費を負担すべきでないというのです。

いっぽう「20階以上を買っておかないと将来は思うように売れなくなる心配がある」という意見もあります。「タワマンから高さと眺望、優越感を取ったら何が残るのだ」というのです。何れも一理ある意見です。「出口戦略」を考えると後者かもしれませんが、タワーマンションのような大規模物件では災害時に停電になると水も使えなくなります。災害時には別の避難先でしばらく生活できる人向けと言えます。(「出口戦略」については次回にまとめます)

 

中古マンションの入口戦略

 

マンションを購入して区分所有者になる場合、中古で購入するケースもあります。この場合はどうでしょうか?この場合は新築にはない「切り札」があります。管理組合の「総会議事録」です。購入前に「総会議事録」を見せてもらうのです。

「総会議事録」には、これまでの大規模修繕や会計、理事の選任などについての決議の記録がされています。築年数の古いマンションほど、この内容により管理状況や理事会の雰囲気が読み取れます。マンション内での不具合、揉め事、長期修繕計画の実施や修正履歴なども遡って確認できるのです。

「総会議事録」については管理組合として利害関係者の閲覧に応じるルールになっています。しかし、管理組合内の揉め事や問題が外部に漏れる恐れがあるので、問題を抱えている管理組合ほど見せたがらない傾向があります。そういう物件はやましい点があるのかもしれません。

数年前のことですが、築20年のマンションで大規模修繕の見積もりをゼネコン5社が辞退というケースがありました。購入検討者が疑問に思い、「総会議事録」の閲覧を仲介業者を通じて請求したところ、「閲覧は過去1年分のみ、コピーや撮影は不可」との回答だったそうです。区分所有法には「閲覧」としか定められていませんが、このような対応には明らかに「怪しさ」が漂います。この物件に関しては新築工事段階での瑕疵を疑うべきかと思われます。

このように「総会議事録」の閲覧は仲介業者に頼んでも、なんだかんだ理由を付けてなかなか対応してもらえない場合が多いかもしれません。しかし、決して買ってはいけない「やばい物件」を見分ける「切り札」であることは確かです。あわせて「長期修繕計画」「修繕積立金の残高」などは必須の確認事項です。

実は、そのマンションの「やましい点」は、住民に聞いても教えてくれない場合も多いのです。なぜなら、外部の人に口外することでそのマンションの「資産価値」を下げる結果になり得るからです。区分所有者どうしは「運命共同体」です。不都合な「秘密」は守られるのです。このことは、中古マンションを買う際には理解しておかないといけない「現実」です。

 

↑総会議事録を見せてくれないマンションは怪しいです

 

 

 

「新しいもの」には売り手の「錬金術」あり

 

海外の先進国に行くと古い建物の多いことに驚かされます。また、その多くが「現役」で活用されており、新築物件よりも高額の評価であったりします。国土交通省の推計によると、日本の住宅が平均30年で建て替えられるのに対してアメリカは55年、イギリスは77年だそうです。また、人口に対する新築住宅建設の割合は、日本がアメリカの約1.5倍、イギリスの約2.5倍になるのだそうです。

日本の近代住宅の原点は「戦後の復興」にあります。「復興期」はもうとっくに過ぎていますが、国内特有の事情として災害の多さがあります。その影響で今でも大きな災害のある度に、建築物に関するレギュレーションが改定され続けています。そのことによって、かつての新築物件が次々に「既存不適格※」の烙印を押されるのが、わが国の社会構造です。

 

※既存不適格:既存不適格(きぞんふてきかく)は建築・完成時の「旧法・旧規定の基準で合法的に建てられた建築物」のことで、その後の法令改正などにより現行法に対して不適格な部分が生じた建築物のことをいう。

 

そうして結果的に新しい建物でないと安心できないような風潮が、官民一体で醸成され続けているとも言えます。確かに技術革新もあり、新しい建築物にはアドバンテージもあるのでしょうが、こういった社会環境が「家余り」の時代に高水準の新築数の維持を支えているのも確かです。

新築マンションはあらかじめ管理会社がセットされて販売が始まります。管理会社は、後に区分所有者の集団である管理組合から管理料をもらって仕事をする立場です。よって本来なら区分所有者(購入者)の味方であるはずの管理会社ですが、売主企業または施工会社のグループ会社であることが多いのです。それゆえに、表面上は区分所有者の味方であっても「その心」は親会社の方を向いています。

そういう構造なので、もし施工不良があったとしても購入者たちは自力でその証拠を見つけ出さなければならない訳です。その上、管理組合の理事たちは、そのマンションの資産価値を落とさぬよう極秘のうちにそのミッションを実行しなければなりません。酷いケースでは売主や施工会社側から管理会社を通じて「あんまり騒ぎ立てると資産価値に響きますよ」などと囁かれるようなこともあるそうです。こわいですよね。

マンション購入の際の最善策は一筋縄ではいかない問題ですが、現在の法律と業界のしくみを理解しておくことで、一定の予防手段は講じることができます。しかし、幾分リスクの度合いを減らすことは出来ても、決してゼロにすることはできません。

これまでご紹介してきたように現在の法律や制度を見る限り、トラブルの確率を減らす有効な手段は「小規模物件の選択」でしょう。小規模物件は比較的低層物件が多く、維持管理コストが大規模物件に比べると割安で済む傾向にあります。大規模修繕工事の発注先も施工難易度が高くないので多数の選択肢があります。

また、区分所有者の数も少ないので、理事会の運営や合意形成を行うにあたっても大規模物件よりハードルが高くなりすぎるような事は少ないはずです。タワーマンションに代表される大規模物件になればなるほど、区分所有者の構成も複雑になりがちです。「節税目的」「投資目的」と純粋な「自己居住目的」の区分所有者の利害が一致しづらいことは、ちょっと考えればイメージできる話です。

 

 

 

たいていの場合、社会的規模の「新しいもの」には売り手の「錬金術」が潜んでいます。表面上は同じに見えても、その実態は変容しつつあります。

 

 

 

中古マンションの闇【出口戦略編】  につづく

 

 

 

 

 

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