中古マンションの闇【構造・メンテナンス編】
中古マンションの闇【法律・管理組合編】 からつづく
「鉄筋コンクリートの長寿命化」にカモフラージュされた問題
マンションはどのくらい持つのか?という事を考える際に、主要構造に用いられる鉄筋コンクリートの寿命についてよく語られます。最近ではコンクリート躯体の寿命を100年と言ってはばからない風潮がありますが、希望的な理論値であって自然環境化での実績は未だどこにもないのが現実です。
日本国内では台東区にあった同潤会上野下アパートが築84年で建て替えられましたが、これが鉄筋コンクリート造集合住宅の最長記録だそうです。この建物は、関東大震災の復興住宅として4階建で2棟71戸の住戸構成で建てられました。現在のマンション物件に比べて建物の単位としては小規模でした。
何しろ完成当時は昭和4年です。鉄筋コンクリートもその時代のものに比べて現代のものは強度も増していますので、100年は持つような感じはします。しかし、マンションの寿命というものは、構造上の強度だけではなく最終的には「利用価値」で決まるものなので、そこは冷静に捉える必要があります。
専門家によると、マンションの利用価値の限界は、構造強度ではなく維持管理コスト負担の仕組みが破綻することによって現実化すると言われています。物件の大規模化、それによる維持管理コストの高額化が、長期的に継続できるかが疑問視されているのです。
↑最近のタワーマンションのテクニカルパンフレット
↑さかんにコンクリート強度がアピールされています
葬られていく「施工不良」
2015年に横浜のマンションで杭工事の不備から建物が傾き、解体して建て替えるといった不祥事がありました。事業主、設計・施工、杭工事の一次・二次下請けともに有名な大手・大手系列の企業です。
原因は杭の一部が強固な地盤(支持層)に届いていなかった事です。杭打ち施工に必要な地盤データに他の現場のデータを流用していたのです。ひどいことに、このデータ流用はこの物件『パークシティLaLa横浜』だけにとどまりませんでした。
調査の結果、全国で約300件もの杭のデータ偽装の疑いがあり、50人近くの現場責任者の関与も判明しています。つまり、データ流用が既製コンクリートぐい業界で広く行われていたということです。
杭は施工後見えなくなってしまいますが、建物の構造を成立させる「前提」となる工事です。言わば自然相手である杭工事は、マンション建設の現場においてもかなりの工期を要するのが普通ですが、諸々の大人の事情によって予算的にも時間的にも大きなプレッシャーがかかっているようです。
実際の施工現場を良く知る方によると、杭工事が適切に行われない要因として以下のような要因が挙げられるそうです。
①「設計図書どおり施工すればOK」との同調圧力
②「地盤調査」段階と実施工段階での必要杭長の不一致
③「想定外」が発生した場合の工期・予算増を認めない空気
①は相次ぐ不祥事による法律改正によって「設計図と現場施工の整合性」が厳しく問われるようになってからの傾向で、技術者は基準や告示に適合する部材や施工方法をただただ選択するようになっています。これを「ハンドブックデザイナー化」というそうです。
②は現場では当たり前のことですが、地中の支持地盤は必ずしも同じ深さに水平に存在するわけではないということです。しかし、設計上は少ない測点によるデータによって杭の設計がされていますので、必ずと言っていいほど現場施工では本来必要な杭の長さに差が出るということです。
③そういったありがちな「想定外」も「予め設定された予算と工期で収められる範囲で対応せよ」となると、どうしてもそこが不正の温床になるということです。下請け業社が利益を削って対応するか否かの選択になってしまうからです。そもそも工期的に、期日までの重機撤収を後ろにずらすという事に承認が得られないのです。
建設業界は「政官学」が一体となった見事なまでの重層的な組織構造です。この構造は戦後、急速な復興を遂げるための大きな貢献をしてきましたが、いっぽうでは「大臣認定どおりの施工を行っておけば大丈夫」という風潮が定着してしまい、責任意識まであいまいになっています。
↑パンフレットに掲載されている「水平な支持層」の説明イラスト
横浜のマンションのように、平常時に建物が傾いてくれば「発覚」する訳ですが、地震災害時においては果たしてどうでしょうか?阪神淡路大震災の際には神戸市民であった私ですが、当時を振り返ってみてもまず望めないと思われます。
地震災害後の解体・除却工事は「先を争っての片付け仕事」です。当時、三宮界隈では素人目で見てもおかしな倒れ方をしている建物がありましたが、あっという間に「産業廃棄物」として次々にどこかに持ち出されてしまいました。さながら「証拠隠滅大会」とも言え「調査」どころではなかった事を思い出します。
↑解体後に十分な調査がなされることは稀なことです(ましてや地面に埋まっている杭工事となれば尚のことでしょう)
「長期修繕計画」とはどのような性質のものなのか
マンション販売時には、必ず「長期修繕計画」なるものが用意されています。なにやら安心感の漂う名称ではありますが、売買時の「長期修繕計画」は修繕積立金の算定根拠に過ぎません。そういうことを理解していないと、後々管理会社や事業者との意見が噛み合わなくなることがあります。
一般に、事業者は管理費の負担を少なくして売れやすくすることを考えます。マンションの販売時の時点では、せいぜい10年毎の長期修繕計画を20年後程度しかたてていない物件も多いものです。多くの場合、入居後に管理組合総会資料などで30年先の修繕会計を目の当たりにして、びっくりすることになります。30年先、つまり3回目の修繕積立金が大幅に不足するのです。
最近では「段階増額積立方式」といって、入居後一定期間経過すると修繕積立金が増額されることが、予め決まっているマンションが主流になっています。それでも、そういったことは最小サイズのフォントで小さく謳ってありますので、見逃して購入している人もいるかもしれません。(これまでそういうお施主様にも多数お会いしてきました)
日本は長らく「デフレ経済」などと言われて物価が安定してきた社会です。分譲時に想定された工事価格で大規模修繕工事が実施できなくなることの方が自然ではないかと思われます。「デフレ時代」に作成された「長期修繕計画」には低水準のインフレ率が見込まれているはずだからです。
そもそも「長期修繕計画」を作成しているのは多くの場合、売主企業の息のかかった会社です。まずは「完売しやすいこと」が最優先されるのは当然と考えておくべきです。また、マンション管理のプロに言わせれば、分譲前に作成された「長期修繕計画」は売主が定めた管理会社にとって、将来の「長期売上計画」のようなものだそうです。
本当にその時期にその金額でその内容の大規模修繕工事が必要なのかどうかは、第三者を入れて十分精査する必要があると警鐘を鳴らす専門家も多数おられます。大規模修繕工事を、売主が定めた管理会社に「おまかせ」でやっていると、貴重な修繕積立金の枯渇を早める結果になることもあるのです。
↑新築マンションの「長期修繕計画」は修繕積立金の算定根拠
一般に工務店ではマンション物件を建設することはありませんが、マンション特有の潜在的な問題については知っておくべきです。おそらく今後多くの物件で顕在化するはずですから。
中古マンションの闇【入口戦略編】 につづく
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