組織が機能しない会社では、社長がこんな言葉を連発している!?
この日はその地域で他の用事もあり、建設業N社を訪問することにしました。
応接間に案内される間、社内の様子を見ていきます。
壁には、大きな紙で「今月の目標」が張り出されていました。
そこには、「お客様との関係強化、横同士の密なコミュニケーション、整理整頓の徹底」の三つが上げられています。
事前に拝見していた経営計画書から予測していたN社の課題が、確信に変わりました。
席につくなり、N社長は言いました。
「先生、お待たせしてすみません。うちの会社はダメな管理者ばかりで・・・。」
私の予測は、間違いない様です。
「組織ができない」、「組織が機能しない」
こんな課題を持つ社長は、多いものです。
その原因は、いくつかあります。
その一つに、「具体性がない」というものがあります。
目標、指示、それらに具体性が無いのです。
「具体性が必要である。」
これを聞けば当たり前という感想を持たれる人も少なくないでしょう。
しかし、それが出来ていない社長は、本当に多いのです。
私は、組織をつくるためには、「図面」と「工程」が必要です、とお伝えしています。
我々は何をつくるのかを示した図面、そして、誰が何をいつまでにするのかを示した工程です。この二つによって、集団は、ある共有の目的に向かって協力する組織になるのです。
それを、企業では経営計画書や事業計画書と呼んでいます。
その経営計画書がきちんと「図面」と「工程」の作りになっていることこそが、組織をつくり、組織を機能させるための前提となります。
正しく作られた経営計画書が無ければ、組織ができることも、組織が機能することも無いのです。
しかし、世の中を見ると経営計画書は有っても、組織ができない、機能しないという状態の会社は少なくありません。
その理由の一つが、先に上げた「具体性がない」ということになります。
経営計画書に「具体性がない」のです。
代わりに、その経営計画書には次のような言葉が並んでいます。
「強化」、「徹底」、「向上」など。
これらの言葉には、何も具体性がありません。
そのため、構成員である社員は、何を達成すればよいのか、何を行動すればよいのかが、解らないのです。
冒頭のN社は、正にここが出来ていなかったのです。
経営計画書を拝見すると、「強化」、「徹底」と具体性の無い言葉が並んでいます。
「お客様との関係を強化する」
「横同士のコミュニケーションを密にする」
「整理整頓を徹底する。」
読み手には、これらが何を指し、何をするのかが解らないのです。
「お客様との関係を強化する」は、「定期訪問表をつくり、計画的に訪問する」や「見積もり出したら、メールでなく、電話する」など、行動がイメージできるまで明確にする必要があります。
「横同士の密なコミュニケーション」も「整理整頓の徹底」も同様です。「月1回の定例会議を行う」や「毎週、〇〇管理者は現場パトロールを行う」という具体的な行動指示にまで落とす必要があります。
N社のように、この「強化」、「徹底」という表現を使っている、すなわち、具体性がない目標で社員を惑わせている会社は、非常に多いのです。そんな言葉を、経営計画書や会議や朝礼の場で、社長が頻繁に使ってしまっているのです。
そうなると、管理者までその思考に染まり、その言葉を使うようになります。
彼らも部下や現場に対し、「強化」、「徹底」という言葉を使うのです。
「営業部の今期の目標は、販売力の強化です。お客様との密なコミュニケーションを徹底します。」と訳の分からない言葉を、営業部長が会議の場で発表するようになるのです。
そして、それを他の管理者もツッコむことはありません。
「強化」、「徹底」という言葉を使う、すなわち、具体的な行動まで落とさない会社の業績が良いはずがありません。翌日から何か行動が変わるわけでもなく、その後チェックしたり検証したりすることもできないのです。そして、問題はすべてが対処になり、根本的な改善はされないのです。
管理者が「強化」「徹底」という言葉を使うことを、絶対に許してはいけません。
それを許せば、成果責任も行動責任も問われない、緩い会社が出来上がります。
その言葉を使う管理者には、「手助け」が必要になります。
「強化とは何をするのか?」、「徹底とは何をするのか?」と具体的にするための質問を投げかけることが必要になります。それをしないとそれ以上深く考えないのです。
「強化」「徹底」という言葉を使う、この現象のやっかいなところは「その本人は、具体性が無いということに気付いていない」という点です。その本人は、全く自分の言葉(思考パターン)に具体性が伴っていないとは、思ってもいないのです。
そのため「もっと具体的に」と言われても、相手が何を求めているのかが解らないのです。それどころか「この人は何を可笑しなことを言っているの・・・」と相手に非が有るという表情を浮かべることもあります。
自分には「具体性が無い」ということに、気づいていないのです。
具体的な行動に落とし込みができる、これも管理者育成のテーマであり、人選の基準になります。
そして、これは社長も例外ではありません。
N社長も、正に「自分の指示に具体性が無い」ことに、気づけていない状態だったのです。
その後のコンサルティングの場では、何度も「お手伝い」をさせていただきました。
「これはどういうことですか?」、「目で見える行動レベルで表現してみてください。」、そして、N社長は、何度もそれを書き直したのでした。
N社長は、感想を言われました。
「これが、具体的ということなのですね。見返してみると、いままでの経営計画書は何も書いていないのと同じですね。」
自社の経営計画書に「具体性」があるかどうかチェックするのは簡単です。
その目標が、「来年も通用したら」具体性が無いとなります。
毎年何かしら進化をします。それが来年もそのまま使えるはずは無いのです。
これはどんな目標にも当てはまります。「来年も通用したら」それは、今期の目標ではないのです。ただのスローガンであったり、維持目標であったりするのです。それを経営計画書に記載するということは、社員に「現状維持」を命じることになるのです。
「強化」・「徹底」を使っている限り管理者も機能しません。
そして、その部下である社員も育ちません。
「強化」・「徹底」では、組織は出来ないし、儲かることはないのです。
社長は、組織をつくり動かす力を持たなければなりません。
それが、年商数億円、社員数十名までは、無くても何とかなってきました。
しかし、これ以上進むのであれば、その力は絶対に必要になります。
年商10億円、社員十数名という規模のためには、組織をつくり動かす力を獲得するのです。
組織ができるかどうか、組織が機能するかどうかは、すべて社長の能力に掛かっているのです。
その第一歩が、「強化」、「徹底」を排除することになります。
言葉で組織を動かすという能力を身に付けてください。
それが成せた時には、御自身が驚くほどの成果を得ることになります。
組織が組織として機能し、管理者と社員が活躍する会社になっているのです。
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