中古マンションの闇【法律・管理組合編】
中古マンションの闇【販売・供給編】 からつづく
「天寿」をまっとうしたマンションはない
一般にマンションは鉄筋コンクリートや鉄骨鉄筋コンクリート造です。躯体の寿命は、古いもので50〜60年、最近のものは70年とも100年とも言われています。しかしながら「天寿」と呼べる最期を迎えることができたマンションは未だ1棟もないそうです。「天寿」というのは、本来の寿命まで残存し区分所有者の合意のもと解体され跡地を売却、売却代金を占有面積割合で配分して管理組合を解散という、元の状態に戻るケースです。
日本で最古のマンションは、1953年に東京都が分譲した「宮益坂ビルディング」、民間分譲では1956年竣工の「四谷コーポラス」が第一号です。「宮益坂ビルディング」は2016年解体2019年建替え竣工、「四谷コーポラス」は2017年解体2019年建替え竣工です。実質築60〜62年での解体・建替えとなっています。
↑「宮益坂ビルディング」BEFORE(2016年1月)
↑「宮益坂ビルディング」AFTER(2020年10月)
↑「四谷コーポラス」BEFORE(2016年2月)
↑「四谷コーポラス」AFTER(2020年2月)
2物件ともに好立地であり、容積率に余裕があったので建替えが実現したと言われています。新たに増床できた分の収益により、建替え資金に目処がついたのです。それでも、宮益坂ビルディングでは計画から建て替えまでに25年かかりました。今後、さらに築年数を重ねた建物は増えていきますが、それぞれの立地は決して一等地ばかりではなく「老朽化」と「建替え計画」の狭間で議論が難航するマンションが増加していくものと思われます。
2021年末時点でマンションストック総数は685万戸。そのうち約15%にあたる103万戸が旧耐震建物※です。これらの建物の築年数は既に40年以上経過しています。先の建替え例から、あと20年もすれば老朽化の状況がメンテナンスの限界に近づいてくると考えられます。古い建物では躯体がまだいける状態であっても、ガス・上下水道・電気などの配管類が大規模修繕では十分対応できなくなってくるのだそうです。
※旧耐震建物:建築物の設計において適用される地震に耐えることのできる構造の基準で、1981(昭和56)年5月31日までの建築確認において適用されていたものに基づいて設計・施工された建物をいいます。これに対して、その翌日以降に適用されている基準を「新耐震基準」といいます。 旧耐震基準は、震度5強程度の揺れでも建物が倒壊せず、破損したとしても補修することで生活が可能な構造基準として設定。なお、新耐震基準は震度6強~7程度の揺れでも倒壊しないような構造基準として設定されています。
実際に全国でマンションの建替え事例はどのぐらいあるのでしょう。国土交通省の発表によれば2022年4月1日時点で準備中を含めても未だ316棟だそうです。仮に1棟あたり50戸だとすると15800戸です。旧耐震建物に限定した103万戸に対しても2%にも満たないという水準です。
「とりあえず制度」と悪い人たち
分譲マンションには区分所有者による「管理組合」というものが組織されています。マンションの「町内会」ぐらいに感じている人も多くいますが、その性質は大きく違います。それぞれが区分所有している、マンションという巨大な建物を維持管理するという点です。そして、そのための多額の修繕積立金の管理や大規模工事の発注など大きなお金が、何れは動くという事です。「町内会」では自宅の維持管理はそれぞれ個人の問題のはずです。
お金が動く組織には、必ず「利権」が生まれます。その金額規模が大きければ大きいほど「利権」も大きくなります。ここに目をつけて私的流用や横領などをやってしまう理事長が多数出てきているのです。中には10億円以上の被害を受けた管理組合もあるようです。
そのぐらい管理組合の理事長には権限があるのです。自分の息のかかった業者に発注してキックバックをもらうようなことはいとも簡単に出来てしまいます。私個人も買取り再販物件のリノベーションの際に、そのような揉めごとを目の当たりにしました。正直怖かったです。詳しくは 管理人さんと、悲喜こもごも(その2) をご覧ください。
「管理組合」というものは「自治体・政府」みたいなものです。「管理費」や「修繕積立金」は「税金」と考えると分かりやすいです。みんなが収めた「税金」を適切に使う判断を理事長や理事会が行なっているかを監視・チェックしなければなりません。これは自治体や国の行政とまったく同じなのです。選挙で選ばれたからといって、任せっきりは極めて危険だということです。
「管理組合」でのお金にまつわる不祥事が多発。その割には表に出にくい背景にはマンション特有の法律・制度など構造的な要因が見え隠れしてきます。新築マンションを購入する際、管理に関する重要事項は既に決まっています。それは以下のようなものです。
①管理規約
②管理会社
③長期修繕計画
④管理費・修繕積立金
これらは、長期にわたってマンションを管理を行う上で最重要項目です。言うなれば購入者は「素人」なので、入居後混乱しないように売り出し前に決めてある訳です。ほとんどの管理規約や長期修繕計画などは国土交通省の標準管理規約や長期修繕計画標準様式という「雛形」に沿っています。事実上、国の作った「雛形」のクローンが全国に拡散している状況なのです。
しかし、その「雛形」に不備があった場合どうするのでしょうか?区分所有建物であるマンションの管理実態は、実際には誰も経験のない世界だったのです。最近では、実際に発生したトラブルをもって多くの課題が指摘されているのが現状です。最近になってようやく「雛形」の改正が少しづつですが、行われ始めているようです。
マンション標準管理規約(単棟型)【国土交通省】
https://www.mlit.go.jp/common/001216238.pdf
長期修繕計画標準様式の記載例【国土交通省】
https://www.mlit.go.jp/common/001172738.pdf
管理規約や長期修繕計画は、入居後に区分所有者が話し合って変更することも可能です。しかし、問題に気づくのは入居ご多くの時間が経ってからであることが多く、なかなか合意形成は難しいようです。元々「素人」であった区分所有者が、管理規約や長期修繕計画に疑いを持つに至るのに時間がかかってしまうのは無理もないことかもしれません。
マンションの「理事会」で大きな金額が動き出すのは築10年を過ぎてからです。しかし、その大事な時期には総会への出席、委任状の提出を合わせてやっと定足数の半分を超えるマンションがほとんどだそうです。みんな維持管理の実感がないままに、すぐに10年ぐらいはなんか迎えてしまうのです。もし問題に気づいたとしても規約の変更など、下表の上の4つのような重要な決議は「特別決議」といって全区分所有人数に対しての議決権割合の賛成がないと決議が成立しません。
↑マンション管理組合の決議事項と決議条件
「悪い人たち」はどこを突いてくるのか
悪徳理事長が君臨する管理組合の管理規約には「理事の選任については立候補を妨げない」的な条項が盛り込まれているそうです。上記リンクの国土交通省のマンション標準管理規約にも「再任を妨げない」との規定があります。ということは、特定の人物が半永久的に理事や理事長として居座り続けることが可能ということを意味します。実際にそのようなマンションは多く存在しています。管理人さんと、悲喜こもごも(その1) の中にそのような例が出てきます。
そして、悪徳理事長の手口のひとつに、自己の利益誘導のための意図的な管理規約の変更があります。どうして、そのような事ができるのか?それは、他の区分所有者が関心のないのを良いことに静かに進められます。多くの区分所有者は総会に出席できず、委任状の提出を行います。その際に委任状の偽造を行なって都合のいい議決をやってしまうのです。
具体的には理事長への委任が多数あったことにして、自分の都合で議決してしまうという方法です。これに疑義を持って弁護士に相談「議決権行使書や議長一任の委任状を開示してください」と申し入れをしても「拒否」されてしまうのです。つまり、理事長が委任状を偽造していたとしても、法的には暴けないと言われています。
悪徳理事長も組合の費用で弁護士事務所と顧問契約を行い「区分所有法および当該マンションの管理規約にはそのような規定はないので開示できない」と対抗してくるのだそうです。これは、マンションに関わる様々な法律・規定が「性善説」に立っていて「悪意」のあるケースを前提としていない事に起因します。
区分所有者という「素人」集団が、悪質な被害を回避する上では明らかに「欠陥」とも言えるのですが、現在のところ未だ十分と言える見直しはなされていない現状なのです。そして、分譲マンション特有の最悪な「背景」がもう一つあります。それは、こういった問題は決して少なくはないのに「極めて表には出にくい」ということです。
なぜなら、表沙汰になって損をするのは「当事者である区分所有者」だからです。そうです。そんなことが表に出てしまって他人の知るところになってしまえば、そのマンション自体の資産価値が大きく損なわれることになるからです。だから、理不尽な被害にも泣き寝入りしたり、積極的に戦えない土壌があるのです。メディアへの露出などは「もってのほか」なのです。
「悪い人たち」はそこに目をつけて、大胆な手口で粛々とみんなの共有資産を蝕んでいくのです。
社長の会社はマンション物件の取り扱いはありますか?顧客が分譲マンションにお住まいの場合、ある程度その問題点にも通じておく必要があります。なぜなら、顧客は完全に我々を業界の諸々に通じた「プロ」だと思っているのですから。
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