振り返ったら誰もついてきていないという最悪の事態を避けるためのヒント
親しくしている2代目、3代目の社長に「なぜ家業を継いだのか」を聞くことがありました。私の頭の中では、自分のやりたいことと家業とのはざまで葛藤して、そのうえ、先代社長である親との関係でも悩んだ末に家業を継いだといったドラマがあるに違いない、と勝手にイメージを膨らませていたわけですが、聞いてみるほどにいろいろな理由があって、事実は小説より奇なりの思いを強くしています。
ある方は「積みあがってしまった多額の借金をなんとかしなければならなくて」家業を継ぎ、別の方は「小さい頃から創業者である祖父に、創業期の思い出を吹き込まれて、自分の運命を受け入れるしかなった」といい、さらにまた別の一人は「病に倒れた父親の代わりを務めざるを得なかった」といい、また別の一人は「まったく継ぐつもりはなかったけど、この事業の大切さを後世に伝える必要があると感じて」社長になったと語ってくださいました。
家業を継ぐというのは、ひとりで会社を興してきた人たちから見ると、ちょっと羨ましく見えます。なぜならゼロから始めなくていいし、すでにある程度の基盤を確立している。お客さんからも信頼をいただいていて、幸運な場合は、継続的な取引がある。さぁ、明日のご飯をどこに探しに行こうか、と途方に暮れる必要もないように見えます。
実際のところは、そうではないのはよくわかっていますが、英語で「銀のスプーンを加えて生まれた」という表現があるように、生まれつき特典を持っておられるように見えるわけです。
他方、すでに敷かれているレールがあってそこからはみ出すことに躊躇があったり、先代の威光が残っていたり、何かと先代と比べられるといった、いまいましいこともある、とこれもよく聞く話です。先代と一緒でないと銀行が話をしないとか、逆に、自分が継ぐといったとたんに融資が下りたとか。独特のドラマがあるのもこの世界の話し。が、ほぼ一様に、家業を継いだ後、ご自分のカラーを出して新しいことをやり始められます。
会社の組織を変えることもあれば、新規事業を始めることもあります。継いだ会社とは別の新会社を立ち上げるケースも少なくありません。
そりゃそうです。世の中は変わるから新しいことを始めなければ事業は先細り。国だって事業承継ともに新しい事業を始めることを推奨して、補助金も出しています。それは事業を承継するにしても、しないにしても違いはない話。いずれにせよ生き残るためには、新しいことを始める必要があります。
でも、ここで考えないといけないのは、社員の抵抗です。大方の人は変化に対して及び腰です。社長が交代したからと言って、今までのやり方を変えなければいけないとなると、面倒くさがる人も出てきます。下手すると強靭な抵抗勢力にもなりかねません。社長が交代することで、本人の価値が下がるようなことがあればなおさらです。
新社長は会社の成長を願い、自分の成長を期待して新しいことを始めるのに、後ろを振り返ってみると誰もついてこない。これは、避けたい現象です。
社長が交代して新しいカラーを打ち出すのであれば、社員を巻き込む必要があります。社員を甘やかせと言っているわけではありません。社員の意思に従えと言っているわけでもありません。
社員の気持ちの優先順位を会社の新しい方向性に向かせる必要があるということです。でないと、後を継いだ社長が一人で奮闘しなければいけなくなる。
私、最近ゴルフを始めたのですが、ゴルフクラブを力づくで振り回すことほど大変なことはありません。本当は小さな力をかけるだけで、遠心力で勢いがついて気持ちよくボールが飛んでいくのでしょうが、初心者には小さな力のかけ方がわからない。だから、力をかけてぐいぐいいきます。で、翌日残るのは徒労感と筋肉痛。これでは続けられません。
これと同じように、渾身の力を込めて組織を動かすのではなく、テコの原理が働く一点をとらえて小さな力で社長の意に沿う大きな動きを引き起こすことができるのが理想的です。そうすれば社長が楽になり、社員が気持ちよく動いてくれるようになるはずです。
さて、貴社はいかがでしょうか。
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