ここが難しい!機能要求の伝え方
「何回話をしても理解してくれないんですよ・・・」とは、先週初めてご相談にいらっしゃった会社の取締役の弁。お話を聞いてみると、
システム会社を探した
類似システムの開発事例も豊富で、ここにお願いすることにした
見積りも決まり、まずは要求機能の定義の作業をお願いすることにした
と、ここまでは極めて着実に進めていらっしゃる様子です。ところが、その要求事項定義の議論の中で、「2回、3回と話をしているのに、次に同じ話をするとやはりどうも話が噛み合わない」という思いをされているそうです。
ご自身の話し方がいけないのではないか?と疑い、社長にも出席してもらって同じ話を社長なりの表現で説明してもらったのに、やはり次に話をすると認識が食い違う…。これではいつまでたってもらちがあきませんし、要求通りのものが仕上がってくるのか心配が大きくなってきてしまい、当社にご相談に来られた、という経過でした。
この会社は、10年ほど前にもシステム化を実施しており、その際にはきちんとうまくいったらしいのですが、ソフトウェア自体の老朽化とビジネスの変化に対応できなくなったこともあって、作り直しを図ることにしたそうです。もとの開発会社が人材難で対応できないために辞退してしまったので、新しく会社を探して開発を委託することになったのですが、アサインされたプロジェクトマネージャーとの会話がうまくいかず困り始めている、という状況です。
この「プロジェクトマネージャーとの会話がうまく行かない」という状況は、私にも多くの経験があります。まれに会社自体が顧客との会話を重視せず、「注文をもらったのだから、とにかく入れてしまえ」主義の会社もあるのですが、大半の会社は顧客との意見交換に真摯に対応してくれています。それでもなお「あの人たちは何回言っても理解してくれない」というレッテルを張られてしまうので、IT業者側もこれでは気の毒です。
このような場合の原因は
(1)プロジェクトマネージャーが顧客の業務や業界についての基礎知識が無く、表面上のことしか理解できない
(2)プロジェクトマネージャーが使える時間が制限されており、顧客の話を分析する余裕が無い
(3)そもそもプロジェクトマネージャーと性格が合わない
といったことが原因と考えられます。(3)は人間同士のコミュニケーションなのでどうしても避けようがありませんし、当社ではこのようなことが無い様に、提案段階からプロジェクトマネージャーとの人間的相性を確認するようにご指導差し上げています。しかし(1)と(2)については工夫をすることで解決する課題です。ただ、これらの事象を明確化する方法が難しいため、なかなか対応に乗り出すことができないのです。
対策についてはケースバイケースなので、このコラムで全部を解説することはできませんが、一つの方法としては「こちらから説明したことを、説明仕返してもらう」というアクションがわかりやすくて有効だということは言えます。
具体的には、「こちらから説明したことをどのように受け止めたか、逆に説明してもらう」という方法です。このやり方の威力は絶大で、この「逆説明」によって誤解されてしまっていることとか、重要な説明事項の理解が漏れてしまっていることを発見できることがかなり多いので、お勧めのやり方と言えます。当然、漫然と説明を聞いているだけではだめで、いくつか注意するべき点があります。
一つは、(当然ですが)「説明に窮していないか」という点です。これはどちらかと言うと、相手であるプロジェクトマネージャーの「復習」に相当するものであり、説明が止まってしまう様であれば再度復習をお願いしてから再説明してもらった方が良いでしょう。
もう一つは、「用語の違いの発見」です。会社の中では多かれ少なかれ「社内でしか通用しない方言の様な用語」が存在します。もしくは、一般的な単語であっても、その解釈がその社内特有のものだったりもします。ある会社では、「加工した商品」のことを「品物」と呼んでいました。しかし、その品物という単語は解釈がかなり広いですし、「製品」や「商品」との違いも曖昧です。それを理解しないまま機能要求を把握してしまうと、たいていの場合は「機能誤解」を招きます。
もう一つの着目点は、「順番の違い」です。業務プロセスの可視化が業務デジタル化の大前提であることは何回もここでお話していますが、プロセスである以上「順番」が存在します。例えば、「顧客登録」と「受注登録」の順番です。顧客登録してから受注登録するのが順当ですが、不特定のお客様を相手にリアルタイムにやりとりしている場合には、受注を先に登録しないといけない場合もあります。顧客登録の手間をかけていると受注チャンスをロスする可能性があるからです。このようなクリティカルな「順番の違い」をきちんと理解してもらっているか、ということがチェックすべきポイントの一つになります。
それ以外にも、「逆説明」によって発見できることは数多くあります。逆説明は相手の準備時間が必要で、そのため手間がかかりますから面倒ではありますが、この面倒をかけてまでも効果があることです。
また、「逆説明」については、IT業者とのコミュニケーション以外にもさまざまな場面で使える技法です。特に新人に仕事を教える場面では、絶大な効果を得ることができます。ただし、、、立場をわきまえずに連発すると嫌われてしまうので、それが唯一の欠点かもしれません。
是非、この逆説明という技法をうまく組み合わせてシステム導入の各段階におけるIT業者とのコミュニケーションを正確なものにしていただければ、と思います。
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