中古マンションの闇【販売・供給編】
買う時点の「危うさ」
新築マンションを購入する際は、そもそも建物は未完成であり現物を見ることはできません。そのため、従来から販売センターでは模型などで位置関係を確認したりできるようになっていました。最近ではCGで部屋ごとの日照条件などを見せてもらえるようになり、より便利に分かりやすくなりました。
しかし、今も昔も変わらないのは販売サイドのダークな体制やメンタリティです。先着順や抽選などの方式に限らず、販売現場では必ずしも公正でない場合もまだまだあるようです。要するに「必ずしも欲しい人が欲しい部屋を買えている」とは限らないということです。
今の時代でも、新築マンションの人気住戸では抽選になることがあります。しかし、抽選の場合でも販売側が「この人には当たって欲しくない」という人にはまず当たらないのです。そういう人が申し込みをすると、わざと架空の申し込みを入れて確率を低めたりするのだそうです。
先着順の場合でも、人気住戸には予めダミーの申し込みを入れておいてブロック、より売りにくい住戸へ誘導するという姑息な手段が取られる場合もあります。販売サイドが、いかに最短日程で全住戸を完売させるかということに邁進すると、そういうことも常態化しがちなのです。
先着順でも抽選でも、買い手は知らず知らずのうちにコントロールされている可能性があるということです。誠実そうに見える商談プロセス自体が買わせたいお客に、より確実に契約してもらうための「儀式」となっているとも言えます。これは、財閥系の大手事業主の物件であっても必ずしも例外ではないようです。
↑そもそも、建築中で買うのですから。。。
新築マンションの広告には「予告広告」というのがあります。これは建前としては「まだ販売価格が決まっていないので販売できませんが、物件の内容をお知らせしておきます」というものです。オフィシャルサイトでは予告広告が表示されているが、モデルルームに行くと価格表を見せられて購入を迫られることがあたりまえのようにあります。
販売価格、管理費や修繕積立金を「未定」と表示しておいて、モデルルームに現れた買えそうなお客を詰めていくのです。この手法は、大型物件で何期かに分けて販売する場合でも使われています。例えば、完成後2期の契約者が入居しているのに、3期が「予告広告」で出されて管理費や修繕積立金「未定」というケースすらあるそうです。この時点で管理費や修繕積立金が「未定」であることは現実的に考えにくい話です。
販売会社は、可能な限りネガティブ情報を伏せた状態で顧客とコンタクトを取り、いろいろ考えさせずに契約させたい訳です。最近では資料請求しても詳しい情報掲載はなく、ネットでパスワードを入れないと価格などの情報が見れないサイトも出現しています。サイトは、それでも多くの疑問が残るようにつくってあり、その上でモデルルームへの予約を促するつくりになっています。まるで熱帯ジャングルの食虫植物のようですね。
「不公正」の温床いろいろ
どうして、そういった「不公正」な販売が無くならないのでしょうか。まず、マンション事業の構造的な面があります。一般的にマンション分譲事業は以下のような複雑な構造になっています。
↑マンション分譲事業の全体像(多くの場合、管理会社は事業主や建設会社の子会社だったりします)
マンションの広告などを見ると、設計・監理、施工会社、管理会社、事業主、販売提携(代理)と、様々な会社名が連なっています。事業主や施工会社が数社連名であることもあります。これは、JV(joint venture、ジョイントベンチャー)と呼ばれる形態で、大型物件でよく見られます。
※JV(joint venture、ジョイントベンチャー)とは、建設業における共同企業体。 資金力・技術力・労働力などから見て、一企業では請け負うことができない大規模な工事・事業を複数の企業が協力して請け負う事業組織体を指す。
通常、売主の中でも出資率の最も多い企業が幹事会社(代表者)となって取り仕切ります。サラリーマン時代の経験では、幹事会社以外の公正企業は実質的に出資だけして事業に乗っかるというイメージでした。そして、多くは企業グループの子会社であり、親会社向けの実績づくりのために名を連ねています。意外にも実質的な利幅がそれほどなくても参加しています。
どうして利幅が少なくてもいいのか?それは、親会社からの出向先としての存続意義があるからです。親会社としては、儲けて成長してもらわなくてもいいから、存続はして欲しい訳です。世の中、そういう成り立ちの会社もあるのです。そういう意味では、それほど儲からなくても一流どころが参加する大型プロジェクトに名を連ねることには十分な意義はあるのです。それが、親会社の意向である場合だって多々あるのです。
施工会社はいわゆる元請け会社であり、実際の工事は重層的に下請け会社のさらに下請けとなる会社が行います。この多層構造は元請け、一次下請け、二次下請け、三次下請け……と構成されるもので、実際に工事を担当した業者は四次下請けになるようなケースは普通にあります。当然ですが、各層の段階で各企業の利益が乗せていかれますので、当然工事費は高いものになっていきます。
また、設計についても構造・設備は複数の設計事務所で分担する場合もあります。平成18年12月改正建築士法により一定規模の建築物の設備設計については、構造設計一級建築士、設備設計一級建築士が自ら設計を行うか、若しくは他の有資格者に依頼して設備関係規定への適合性の確認を受けることが義務付けられました。
これは、相次ぐ建築士の不正の発覚による制度改正で、これにより、設計業務の専門化・分業化が一層進むきっかけにもなりましたが、ものづくり組織がより複雑化したり一部では「設計図書どおり施工しさえすればよい」という風潮が強まってしまいました。(杭工事などは設計図書どおりではなく、現場の状況によって調整すべきケースが実際には多いのですが)
販売提携(代理)というのは売る専門の会社で、分かりやすく言うと最近ニュースでよく出てくる「ワグネル」のような民間軍事会社みたいな存在です。本コラム冒頭のような、とにかく完売するためのなりふり構わぬ「工夫」をする人たちが多数在籍する会社です。
彼ら販売部隊は完売すると次々と次の物件に移っていきます。彼らの中ではお客様に「買っていただく」というより「買わせる」というムードです。身内同士の会話では「ハメ込む」=(意図した住戸に申し込みさせること)とか、「殺す」=(案内した物件の契約にこぎつけること)とか普通に言うそうです(恐)
↑マンションの概要欄の例(読みにくいレイアウト、小さい文字でたくさんの会社名が並んでいます)
売る時点もまた「危うい」
買ったマンション物件を中古で売る段階でも「危険」はいっぱいのようです。不動産業者さんたちは、基本的にはワグネル風「販売会社」の人たちと気質は同じです。報酬制度が「売ってなんぼ」のシステムだからです。基本構造は昔から変わっていません。この段階でも、この人たちの業界内での恐ろしい「慣習」とそれを表す「隠語」があります。次に例を挙げて紹介します。
物件を売りたい場合、不動産業者を決めて「専任媒介契約※」を行うことが多くあります。この場合、契約締結した不動産業者はレインズ(不動産流通標準システム)への登録義務があります。レインズに登録されると、その物件は不動産業者なら誰でも閲覧することができ、自社の購入希望者を紹介することが可能になります。そのことにより、多くの購入希望者に物件情報を知ってもらう機会を拡げることができるのです。
※専任媒介契約:専任媒介契約とは媒介契約の一種で、依頼者(売主や貸主)が他の宅建業者に重複して依頼できない媒介契約をいいます。営業活動の報告義務が2週間に1回あります。
しかし「悪い人たち」はレインズを見て紹介される他社の顧客に対して「ただいま商談中ですので」と断ってしまうのです。これを業界では「囲い込み」と表現します。そして、何週間も購入希望者を案内せずに「問い合わせが少ないのです」などと報告することを「干す」と言うのだそうです。そうやって販売価格を大幅に引き下げる提案をすることを「値こなし」と呼んでいるのです。
恐ろしいですね。
なぜ、せっかくの購入希望者を断ってまで、そのようなことをするのでしょうか?理由はまず報酬にあります。他の不動産業者の顧客に売ってしまうと手数料(物件価格✖️3%+6万円+消費税)が売主からだけしかもらえないのです。(これを「片手」と言います)自社で買い手もお世話すれば受け取る手数料は倍になるのです。(これを「両手」とか「両直」とか言います)販売価格が下がると手数料も減りますが、両手になれば自分たちの取り分は増えるので関係ないのです。
そして「さらに悪い人」はこのような事を画策します。
そう言う理由で、売り手も買い手も自社で取り扱いたい訳ですが、買い手に買取業者を連れてくればその業者からの謝礼も期待できます。買取業者は安く買い叩いてリフォームして高く売るのが専門です。仕入れが安くできるのなら、その分利幅が大きくなりますから仲介手数料に加えて個別の「謝礼」を支払うのは何と言うことはないのです。
本当に恐ろしいです。
東京のタワーマンションの販売サイトを見ていると、昨年完成したばかりですが「中古物件情報」「売却相談」「賃貸物件情報」といったメニューが出来ていたサイトがありました。さすがタワマンという感じがします。いかに自己居住用ではない投資用の成約が多いのかを物語っています。
販売サイトを活かした、この手法で販売終了後の「売りたい・買いたい」「貸したい・借りたい」の手数料を取り込む戦略です。1000戸超の大規模物件ですから、こういう手法も成り立つ訳です。1物件というよりひとつの村や町みたいな単位ですから。
個人的には、このような「事業主がらみの人たち」とのお付き合いは出来るだけ遠慮しておきたい気がしますが。。。
社長の会社はマンション物件の取り扱いはありますか?顧客がマンションを購入されていたり、売却される際には業界特有の事情にもある程度通じておく必要があります。なぜなら、顧客は我々を業界の諸々に通じた「プロ」だと思って頼ってこられるのですから。
中古マンションの闇【法律・管理組合編】 につづく
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