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時短の御旗のもとに大切なものを切り捨てないためのささやかな提言

SPECIAL

マインドポジション経営コンサルタント

株式会社アトリオン

代表取締役 

マインドポジション経営コンサルタント。社員と顧客の心に占める貴社の位置づけ―「マインドポジション」をアップし、業績向上を目指す仕組み構築のスペシャリスト。30年にわたる中小企業のブランディングと組織開発の経験を背景に、マインドポジション経営実践プログラムをオリジナル開発。時代に合わせて組織を刷新したい経営者や、2代目、3代目社長、社員の力を引き出して社内の体制を再構築したい経営者に高く評価されている。新しい切り口に基づく事業の見直しと組織の再開発を通して業績の2ケタ成長を実現するなど、持続可能な企業の成長に向けた力強い支援に定評。株式会社マインドポジション経営研究所代表取締役

「最近の若い社員は、定時になるとさーっと帰っちゃうんだよな」と、これは先日お会いしたある会社の50代の社員さんのぼやき。うらやましさと非難がましさがないまぜになったその口調に、「心中お察しします」と思わずつぶやいてしまいました。

日本人の勤務時間はここ数年で短くなっているという記事が日経新聞にも掲載されています。いわく「男性の一人あたり年間就業時間を2022年と13年で比べると、25~34歳は8.6%減ったのに対し、45~54歳は5.7%減だった」。働き方改革やらワークライフバランスやらが浸透した成果ともいえますが、注目すべきは、世代間で労働時間の減り具合が異なるという点。上の世代ほど、「残業が当たり前」の感覚から抜け出せない様子が垣間見られます。

かくいう私もサラリーマン時代は残業、ずいぶんとやりました。あれはあれで充実感が感じられて悪くはありません。でも、今振り返ってみれば、周囲の若い社員たちは「早く帰んないかな~」と思っていたに違いありません。彼らは「上の人が働いているのに、自分が帰っちゃうと、まずいかな」と思っていたに違いありません。ああ…悪いことをしました。

とまぁ昔のことを振り返っていたところ、件の記事の続きが目に入りました。そこで言われていることは2つ。

一つは、労働時間は短くなったけど、ワークライフバランスの充実には結びついていないということ。もう一つは、労働時間が短くなったことが即ち、働く人の労働生産性が上がったということではないということ。

労働生産性が上がっていないのに、労働時間が減ったということは、単純に、こなす仕事の量が減ったということです。つまりは切り捨てている仕事があるということです。もちろん不要な仕事を盲目的にやり続けるのは愚の骨頂ではありますが、本当は必要な仕事まで切り捨てられている可能性があります。

どう見ても生産性の向上に貢献していないように見えるものも、実は、非常に大きく貢献している、というときがあります。

たとえば、休憩時間の雑談。これがあるとないとでは、仕事の成果に大きく差が出るという調査結果もありました。どうでもよいようなことを仲間内で話すことが結果として集中力の向上に結び付くとか、人間関係がよくなることから仕事の目的が仲間への貢献になって力が出しやすくなるとか、なんらかの因果関係があるようです。

以前、とある研究所にお邪魔したときに、意図して雑談の時間を設けているのを見て、なるほどなと思ったことがあります。時間を決めて、決まった場所に集まり、そこにはお菓子や飲み物が置いてあって、みんな好き好きに自分の研究テーマを話したり、アドバイスをしたり、してもらったりしています。これが何の役に立っているのか「エビデンスを示せ」と言われても、明確な証拠は出せないのでしょうが、巡り巡ってどこかで成果を生み出すはずの場と時間です。

さて、例の新聞記事の続きです。

「日本企業は労働時間を減らす一方、効率よく魅力的なサービスをつくって付加価値を上げることがおろそかになっている」

そりゃ、できるなら、やりたいです、と経営者の皆さんおっしゃるに違いありません。効率よく魅力的なサービスをつくって付加価値を上げる――言うは易しの典型例です。

特にまったく新しいサービスを開発しようとなると、一筋縄ではいきません。必要なのは、お客さんをよく知る現場の知恵を集めること、仮説検証を繰り返して金脈を探し当てる忍耐力です。うまくいっている他社の例をマネするのも手ですが、ただマネするだけでは魅力的になるかどうか。オリジナルを追求するにも時間がかかるし、ある程度の投資も必要です。だから、これが最終的に労働時間の減少に結び付くかというとまた違う話しになります。

ただ一つ言えるのは、仕事に没頭しているときと没頭していないときでは、生産性が全く違うということです。当たり前ですが、没頭しているときの方が集中力が高いから処理できる量も多い。物事も深く考えられますから魅力的なサービスをつくれる可能性も高まります。

だから考えなければいけないのは、労働時間の削減ではなく、どれだけ生産性に結び付く環境を作れるかであって、この後者は目に見えないものであるがゆえに、「労働時間の削減」という御旗の元に切り捨てられてしまう可能性があるということです。

さて、貴社はいかがでしょうか。

 

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