自ら動かなくても指導力を失わないリーダー達は、常に襲われ続けている
今から40年ほど前の話です。
店に入って来たのはガラの悪い連中。
彼らは「俺はここまで道を踏み外せるんだぞ」と、仲間達との張り合いばかり。
店内の平和な空気は一転し、他のお客様は次々と退店。
会社のドル箱店は、そんな招かれざる客が連日押し寄せてしまう巣窟と化してしまい、売上は下降していく一方となってしまいました。
本部社員や店員達は問題視し、あの手この手を尽くしてはみるものの、なかなか効果が現れず。
それもそのはず、「彼らに直接注意しようものなら、報復されるかもしれない・・・」と、誰もが怖がっていた為、間接的な一手ばかりだったからです。
連中は警察沙汰になる一線を越えないギリギリのラインをついてくるため、通報もできません。
さて、どうしたものか・・・
そんな誰もが逃げ出してしまいたくなる店舗の後任に選ばれたのはH店長。
彼のとった行動は、それまでの人達とは全く違っていました。
彼は、悪い連中が来店する度に急いでホウキを手に取り、まるで「邪魔だ、さっさと帰れ」と言わんばかりに、わざと連中のまわりだけを掃き始めるのです。
その結果は案の定。H店長はすぐに囲まれてしまいます。
普通の店長であれば「他の店員も俺に味方してくれ!」という場面でしょう。
しかし、みんなは怯えたまま。誰も参戦してくれません。
一方のH店長は質問攻め
「テメー、どういうつもりだ?」
「ケンカ売ってんの?」
「名前は?」
名札を見られ
「ふーん、Hね~」
「覚えておくからな」
誰もが怯え、震え上がってしまう場面なのに、H店長が返した言葉は
「仕事が終わったらお前らの相手してやるから、駐車場で待っとけや」
まるで「勝負を後回しにしようとするお前らは臆病者だ」と言わんばかり。
H店長の勇敢なアクションが繰り返される度、その店の悪漢達はみるみる減っていき「この店長についていきたい」という味方も増え、店舗の売上はドンドン上がっていったのです。
これはかつて私が起業前の社員だった頃の話です。
Hさんは私の10年も先輩社員でした。
驚いたのはHさんがムキムキの武闘派ではなかった点。
見てくれは、いかにも悪い連中が真っ先にカモにしたがりそうな人畜無害な優男だったのです。
反社会的勢力に属しているわけでもありません。
ますます疑問が深まった私はHさんにストレートに質問してみました。
「先輩が店長だった時、どうやってあの店を立て直したんですか?」
返答はとてもシンプルでした。
「悪い連中を迎え撃ってきたから」
Hさんは、さも普通の日常を語るように様々な過去のできごとを話して下さったのですが、一番驚いたのはHさんが暗殺されかけた事。
「深夜、仕事を終えて駐車場に入ったら、いきなり俺の近くにコンクリの塊が落ちてきて、割れたんだよね」
「見上げると、その日注意した連中が上の方の階にいてニヤニヤ笑ってやがった」
「コンクリの塊を投げて来たのはヤツらだな?って、めちゃくちゃ頭にきてね」
「『お前ら、そこにいろ!』と叫んで、猛ダッシュで駆け上がって行ったけど、結局逃げられちゃったよ」
あとはまるで「それ現代の話じゃなくて、核戦争後の終末世界の話じゃないですか?」と疑ってしまうくらいの異次元な話ばかりでした。
結果が出せる組織を築き上げるには、リーダーはいくつものマネジメントの壁を乗り越えなければなりません。
壁の中には何人ものリーダーをはね返してしまうひときわ大きな壁も存在します。
その大きな壁の一つが「リーダー自らが動かなくとも、指導力を失わない方法とは?」です。
チェーンビジネスの業績を他社よりも上げていきたいとする場合、やがてリーダーは指揮を執る事に専念しなければならなくなってきます。
そこで重要なのは「なぜリーダーは動かないくせに偉そうなんだ?」というみんなからの不信感とどう向き合うか?なのです。
これがなかなか厄介な壁で、「これぞ正解」という明確な方法がドーンと存在するわけではありません。
その為か「リーダーばかりが常に動き回って、メンバー達が手持無沙汰」という組織となってしまったり、「リーダーは動かないけど、指導力が無く、人を動かせない裸の王様」となってしまったり・・・。
では、壁を乗り越えられたリーダーの違いは何なのか?
その1つに挙げられるのが「一人残らず迎え撃ってやる」です。
チェーンビジネスは他と比べて働く人が多い組織です。
その為、考え方も行動も人によって様々です。
何も言わずとも「リーダーはじっとしてて下さい」という人もいれば、仕事そっちのけで「あのリーダーは動かないくせに偉そうにしてるよな?」と仲間達にせっせと焚きつける人も。中には「リーダー、あなたは動かないくせに偉そうにしないで下さい!」と直接言ってくる人もいるでしょう。
ここで「全員が前者であってほしい」と考えるリーダーもいるのではないでしょうか?
しかし壁を乗り越えられるリーダーは「誰もが前者であってほしい」とは考えません。
仲間達から、リーダーへの不信感はあって当然」と捉え、全て正面から向き合います。
せっせと焚きつけられようが、直接「偉そうにするな」と言われても、全て迎え撃つのです。
まるで道場の師匠と弟子の関係のように。
「隙あらば私からいつでも一本取ってみなさい」と宣言し、師匠が食事してようが、トイレにいってようが、眠っていようが、弟子達が一本取ろうと襲い掛かってきますが、全て迎え撃ちます。
しかし、もし失敗したら非常に危険です。
たちまち「なんだあのリーダー、口だけじゃないか?」「偉そうに指示ばかりしやがって!」などと全員に広まって、組織の結束は弱くなってしまうことでしょう。
ここで
「何故いちいち迎え撃つ必要があるのか?」
「リーダーはそんなことは気にせず、動かずに堂々と指示だけしていればいいじゃないか」
などの意見もあるかもしれません。
さて、なぜリーダーは「自らは動かないけど、指示はするぞ」という事に疑問を持つ人達を迎え撃つ必要があるのでしょうか?
それは 「あなたについていく理由が無いから」 です。
何も言わなくとも動いてくれる人や「リーダーは座っててください」と言ってくださる人達はありがたいですが「その人達のリーダーは誰でもいい」ということになります。
そんな人達はどんな組織でもやっていけます。
別に、あなたがリーダーの組織、あなたが社長の会社でなくてもいいのです。
リーダーは皆からの様々な疑問や不信感、焚きつけなどを見事に迎え撃てるからこそ
「さすが〇〇さんだ」
「この人はスゴイ人なんじゃないか?」
「この社長の、この会社だからこそ頑張っていきたい」
となるのです。
組織の方針をどうするのか?それは自由です。
「部下はリーダーに従うのは当たり前だ」とか
「口を動かす前に手を動かせ」とか
「言われたことには素直に従いなさい」など
掲げる組織もあるでしょう。
また、リーダーという地位に安住し、不信感、不満を持つ人達に一切目もくれず、耳も傾けないという方もいらっしゃるでしょう。
しかしはっきり言える事があります。
それは、そんな組織に
「私はここだからこそ、長く働きたい」
「このリーダーだからこそついていきたい」
という人が増えていくことは無いということです。
実は冒頭の話には続きがあります。
私がHさんに持った疑問はもう1つありました。
「なぜHさんは命を懸けてまで、店の数字を上げられたんですか?」
「下手したら殺されてますよね?」
Hさんはこうおっしゃいました。
「私は昔、社長に命を救われたことがあったからね」
「当時、社長はそのせいで他の役員からは猛反対を受けていたよ」
「それでも、私の味方をして救ってくれたのは社長だけだった」
あなたの組織には 「あなたがリーダーでなければならない」
そんな理由が存在してますか?
そして、それは正しく全員に伝わっていますか?
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