経営者は銀行に事業性を評価させるべし!
「最近、銀行の融資スタンスが厳しくなってきたような感じがするのですが、何かきっかけになるようなことがあったのでしょうか?融資を依頼したところ、今後の業績見込みなどについて、これまで以上に細かくヒアリングされて驚きました。」──とある製造業の社長からのご相談です。
特に、地銀、信金などから融資を受けられる際、これまで以上にヒアリングをされる場合が少しずつですが増えてきているようです。もちろん、これまでと何も変わらないという金融機関も多いのですが…
【融資スタンス変更のきっかけ】
融資スタンスが変わるきっかけといえば、なんといっても2019年12月の金融検査マニュアルの廃止です。もう3年半以上経過していますが、これまでの担保や保証に頼った融資ではなく、銀行が企業の事業性を評価し、将来性を見据えた融資をするように求められるようになりました。
1.時系列
時系列で見てみると、次のようになります。
1991年:バブル景気の終了(2月)
1997年:三洋証券、北海道拓殖銀行、山一證券が破綻(11月)
1998年:金融安定化二法成立(2月)、早期是正措置導入(4月)、整理回収機構発足(4月)、新日銀法施行(4月)、金融監督庁の発足(8月)、金融システム改革法施行(12月)、日本長期信用銀行破綻(10月)、日本債券信用銀行破綻(12月)
1999年:大手行に対して、3月末に7兆4,500億円公的資金を投入、金融検査マニュアル制定(7月)
2000年:金融庁の発足(7月)
(全国銀行協会HP、金融政策等の変遷(年表)より抜粋)
2.金融検査マニュアル誕生
バブル崩壊後、金融機関の相次ぐ破綻により公的資金の投入、金融検査マニュアルの制定、金融庁の発足により、不良債権処理をするために金融機関の資産査定などの基準を統一・管理を強化したのです。
金融検査マニュアルの制定・金融庁の発足以降は、箸の上げ下ろしまで監督官庁が事細かに指示をする体制となり、金融機関は公的資金の投入により言われるがままの状態でした…
各金融機関でこれまで独自の資産査定をおこなってきたものが、基準を統一・管理を強化されたために、自分の頭で考えずに、金融検査マニュアル通りに対応するとともに、不良債権を新たに発生させずに削減することが最優先されたのです。
3.金融検査マニュアルの功罪
このため、金融検査マニュアル制定後は、①担保や保証を必要以上に重視、②事業の将来性よりも健全性を重視、③企業の資産査定(格付け)を重視するようになりました。
実際に銀行内部では、過去融資を実行した企業の倒産などにより、減点評価を受けた方々が次々と出向・転籍されてしまい、果敢に新規融資をまとめるような能力のある方が居なくなってしまったのです。
残ったのは、リスクを取らない、あくまで担保や保証などの範囲内での融資しかしない・できない人材だけでした。バブル崩壊前のように、現場を回ってその企業の事業内容、強みや弱みを把握するとともに、将来性や経営計画を評価して融資できる人材はもういません。このため、バブル崩壊から30年が経過した現在では、そのノウハウを承継することが上手くできていないのが銀行の実情なのです。
バブル崩壊後の債務整理が終息したとのことで、制定から20年が経過した2019年12月に、金融検査マニュアルが廃止されました。
【金融検査マニュアルの廃止で何がどう変わったのか】
金融検査マニュアルの廃止により、中小企業オーナー経営者には以下のような変化が生じます。
1.融資の評価基準の変化
従来は金融検査マニュアルに基づいて、担保や保証に頼った融資が行われていました。しかし、廃止後は銀行が企業の事業性を評価し、将来性を重視した融資が求められるようになります。つまり、銀行は事業の持続性や成長潜在力、リスク管理能力などを重視するようになります。
2.経営者の責任と役割の強化
金融検査マニュアルの廃止により、経営者自身が銀行に事業性を評価させる責任が強化されます。経営者は自社のビジョンや戦略を明確にし、事業の成長性や安定性を示すための努力が求められます。銀行に対して、具体的なビジネスプランや財務計画の提出、リスク管理策の提示などを行う必要があります。
3.銀行との関係構築の重要性
廃止後は銀行との関係構築がより重要となります。経営者は銀行との対話や信頼関係の構築に努める必要があります。定期的な報告や情報提供、透明性の確保などを通じて、銀行に自社の事業性をアピールし、信頼を築くことが重要です。
4.リスク管理体制の強化
金融検査マニュアルの廃止により、銀行はリスク管理能力をより重視するようになります。経営者はリスク管理体制を強化し、予防策や危機管理体制の整備を行う必要があります。リスク要因の分析や対策の策定、財務状況の透明性の確保などが求められます。
以上のように、金融検査マニュアルの廃止によって銀行の融資評価基準が変化し、経営者の役割と責任が強化されます。経営者は自社の事業性を銀行に認めてもらうために、より具体的で緻密なビジネスプランの策定やリスク管理の強化、経営陣のスキル向上などに取り組む必要があります。
廃止後の変化は、従来の担保や保証に頼った融資から、事業性や将来性を重視した融資へのシフトです。これにより、経営者は単に担保や保証を提供するだけではなく、自社の事業の魅力や成長潜在力を銀行に積極的に伝えていかなければなりません。
また、銀行との関係構築や信頼関係の構築がより重要となります。経営者は銀行との対話やコミュニケーションを通じて自社のビジョンや成長戦略を共有し、銀行側に事業性を認めてもらう努力を行う必要があるのです。
さらに、リスク管理体制の強化も重要です。銀行は事業のリスク管理能力を評価し、融資の可否を判断します。経営者はリスク要因の分析や予防策の策定、危機管理体制の整備などを通じて、銀行にリスク管理能力をアピールする必要があります。
【経営者として取り組むべきこと】
金融検査マニュアルの廃止によって、経営者自身が銀行に事業性を評価させる責務が強化されました。これをチャンスと捉え、経営者はビジョンの明確化、具体的なビジネスプランの策定、リスク管理体制の強化などに取り組むことで、銀行からより有利な融資条件や資金の提供を受けることができるようになります。
重要なのは、経営者自身が経営のリーダーシップを発揮し、銀行に自社の事業性を認めてもらうための努力を惜しまないことです。これによって、中小企業オーナー経営者は将来の成長と安定に向けた融資を確保し、事業の発展を実現することが可能となります。経営者は以下の具体的な活動を通じて、銀行に事業性を評価させることができます。
1.ビジョンと戦略の明確化
経営者は自社のビジョンと戦略を明確に定める必要があります。将来の成長目標や競争戦略を明確にし、銀行に対して自社の事業性と将来性を説明できるようなビジョンを持ちましょう。
2.ビジネスプランの策定
具体的で緻密なビジネスプランを作成しましょう。事業の目標や戦略、市場分析、財務計画などを含め、銀行に対して将来の事業成果や収益性を示すことが重要です。また、事業計画の進捗状況を定期的に報告し、成果を示すことも効果的です。
3.財務管理の強化
銀行は事業の安定性や収益性を重視します。経営者は財務状況の透明性を確保し、適切な財務管理を行う必要があります。財務諸表の適切な作成や予算管理、キャッシュフローの見通し確保などを通じて、銀行に対して財務面での信頼を築きましょう。
4.リスク管理体制の整備
銀行はリスク管理能力を評価します。経営者はリスク要因の分析や対策の策定、危機管理体制の整備を行う必要があります。リスク管理の徹底や内部統制の強化に取り組むことで、銀行に対して事業の安定性と信頼性をアピールできます。
5.経営者の情報提供と対話
定期的な報告や情報提供を通じて、銀行とのコミュニケーションを活発化させましょう。経営者は事業の進捗状況や課題、将来の展望などを銀行に的確に伝えることで、事業性を評価されやすくなります。また、銀行からのアドバイスやフィードバックにも積極的に耳を傾け、双方向のコミュニケーションを図ることも重要です。経営者は銀行の担当者との対話を通じて、事業の進捗状況や経営課題についての意見交換を行い、相互の理解を深めることができます。また、銀行の提供するサービスや支援制度についても積極的に情報を収集し、適切に活用することで事業の成長やリスク管理に役立てることができます。
経営者が銀行に事業性を評価させるためには、ビジョンの明確化、具体的なビジネスプランの策定、財務管理の強化、リスク管理体制の整備、銀行とのコミュニケーションの活性化などが重要な要素です。これらの活動を通じて、銀行に自社の事業性と将来性を認めてもらい、より有利な融資条件や資金の提供を受けることが可能となります。
経営者は金融検査マニュアルの廃止をチャンスと捉え、自社の事業性を銀行にアピールするための努力を惜しまないことが重要です。中小企業オーナー経営者は、将来の成長と安定に向けた融資を確保し、事業の発展を実現するために、銀行に対して事業性を評価させる責務を果たすべきです。
【リレーションシップ・バンキングについて】
失われた30年とよく言われますが、本来、銀行が果たすべき「リレーションシップ・バンキング」を今一度問い直す時期にきているのではないでしょうか?
1.リレーションシップ・バンキングとは?
「リレーションシップ・バンキング」、略して「リレバン」と呼ばれますが、企業と密着した関係性(リレーションシップ)を築き、事業内容の深い理解に基づき、企業の課題に対して、銀行が付加価値を伴う解決策を見つけ出すことをいいます。
2.中小企業にとってのリレーションシップ・バンキング
いかに優れた中小企業でも、ヒト(人材)・モノ(商品・サービス、生産設備)・カネ(資金)・ジョウホウ(情報、DX)などの経営基盤は脆弱であり、このことが成長を妨げる要因(=ボトルネック)になっていることが多いと思います。
「コロナ禍」、「原材料の高騰」、「経営者の高齢化・後継者難」などの要因もあり、中小企業の課題解決に「リレーションシップ・バンキング」が求められており、これこそが我々中小企業と銀行が共存共栄するために必要なことなのです。
馬鹿の一つ覚えのように、低金利だけを強調した融資の押し売りなど全く必要ありません。また、ゼロゼロ融資のように、100%保証がついている制度融資で、銀行直接のプロパー融資を肩代わりさせるような銀行などもう不要!
中小企業オーナー経営者にとっては大きな転機なのです。これまでの担保や保証に頼った融資ではなく、銀行が企業の事業性を評価し、将来性を見据えた融資を行う銀行と取引をしましょう。
3.経営者がリレーションシップ・バンキングを活用するために
最高経営責任者であるあなたが、銀行のリレーションシップ・バンキングを活用するためには、前述した【経営者として取り組むべきこと】に加えて、何がボトルネック(=成長を妨げる要因)になっているかを、銀行にきちんと説明・相談してください。
① ヒト(人材)
- 経営者自身のリーダーシップとビジネススキルの向上。
- 経営チームの構築と組織の強化。
- 銀行との対話やコミュニケーション能力の向上。
② モノ(商品・サービス、生産設備)
- 自社の商品やサービスの魅力を明確にし、競争力を高める。
- 生産設備や技術の改善、効率化の推進。
③ カネ(資金)
- 財務管理の徹底と資金繰りの最適化。
- 銀行との信頼関係の構築と信用力の向上。
- 適切な資金調達戦略の策定。
④ ジョウホウ(情報・DX)
- 経営に関する正確でタイムリーな情報の収集と分析。
- デジタル技術やDXの活用による業務プロセスの改善と効率化。
- 銀行との情報共有とデータの活用による相互の理解の深化。
これらの要素を総合的に取り組むことで、経営者はリレーションシップ・バンキングをより効果的に活用することができます。経営者は自身とチームの能力強化、事業の競争力向上、財務管理と資金調達の最適化、デジタルトランスフォーメーションの推進などを通じて、銀行との信頼関係を築き、より良い融資条件やサポートを得ることができます。
【まとめ】
金融検査マニュアルの廃止は中小企業オーナー経営者にとっては大きなチャンスです。自社のビジョンと戦略を明確にし、具体的なビジネスプランを策定しましょう。経営陣の強化やイノベーション、リスク管理の強化など、事業性の向上に向けた努力を怠らないことが重要です。
経営者自らが銀行に事業性を評価させることは、社長の責務であり、将来の成長と安定に欠かせない要素です。これまで私が法人4,000社超を担当させていただいた経験からも、事業性の高い企業は「リレーションシップ・バンキング」を活用することで、さらなる成長への道を切り拓くことができます。
中小企業オーナー経営者の皆様には、この機会を活かし、銀行に事業性を評価させる取り組みを率先して行っていただきたいと思います。
あなたは経営者として、どのように「リレーションシップ・バンキング」を活用していかれますか?
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