新規事業はポジショニングを間違えるな!
「コロナ禍でいろいろと考えさせられました。これまでは、一般消費者だけを対象顧客として頑張ることだけを考えていましたが、それだけでは生き残っていくのが精一杯です。今後は、一般消費者だけではなく、法人や海外消費者を対象顧客にしてゆきたいのですが、どのように対応していけばいいのかアドバイスをいただけませんでしょうか?」──先日のセミナーにご参加いただいた食品関連事業の社長からのご相談です。
【新規事業のご相談増加の背景】
1.ターゲット顧客の拡大
このようなご相談が最近増えてきました。今回ご相談の社長は国内の一般消費者から、法人や海外消費者への対象顧客拡大ですが、逆の場合ももちろんあります。これまで国内法人のみを対象にしていたのを、国内および海外の一般消費者へ対象顧客を拡大するためにはどうすればいいのか?
2.下請けからの脱却
他にも、大手企業の下請けを中心にしていたが、もう下請けだけでは生き残っていけないと、脱下請けを目指すためにはどうすればいいのか?
中小企業を中心に営業していたが、大手企業にも営業を仕掛けたいのだが、どうすればいいのか?など…
3.コロナ禍での経験
コロナ禍がひと段落して、人流や物流がコロナ禍前に近い水準まで戻ってきています。
しかし、これまでの常識が通用しない現実を経験してきたことで、経営者として何をどうするべきなのか?ビジネスモデル自体をどうすればいいのかを真剣に考えられてのことと思います。
これまでは、従来のやり方を継続し、若干の修正さえしていればよかったものが、それでは通用しなくなり、ビジネスモデルそのものを見直さないとこれから生き残っていけない…
という不安が、新規事業展開を考えざるを得ない状況に経営者であるあなたを追い込んでいるのです。
【新規事業を検討する際に効果的な質問】
このようなご相談では、次のような質問が効果的です。
「あなたの商品・サービスの強み・売りは何ですか?」
「ひと言でいうと?」
「キャッチフレーズをつけるとすると、それは何ですか?」
1.ご相談事例の回答
この社長の場合は、
「本格的な伝統製法で作られていて、とにかく美味しいんです。」
「これほどこだわった商品は他にありません。」
「100年を超えて愛され続けている伝統食材。」
…とのことでした。
いかがでしょうか?
経営者としての立場ではなく、一般消費者として購入を検討する立場だったら…もしくは法人取引を新規で仕掛けられたとしたら、どのように感じられますか?
「どこの商品だって、美味しいに決まっている。」
「どこの商品だって、こだわって作っている。」
「100年はすごいが、伝統食材なんてそんなもんだろう。」
となるのではないでしょうか?
2.第三者の視点で考える
ご相談いただいた社長ご本人としては、「とにかく美味しくて、こだわっていて、伝統もある」と三拍子揃っているように思っておられるのですが、第三者の視点で考えてみると…
そうなんです!
当事者だと、どうしても商品やサービスへの思いが強いので、強みや売りが平凡なものにしかなっていないことがわからなくなってしまうのです。
あなたが経営している会社で扱っている商品・サービスについて、今一度、第三者の視点で考えてみてください。
実際に、経営者として強み・売りとして考えていることを、紙に箇条書きで書き出してください。
また、従業員に「(自社の商品・サービスとは言わずに)これが強み・売りという商品があるらしいけど、売れると思う?」と質問してみてください。
どんな反応があると思われますか?
3.第三者の視点で考えた結果は?
これまでの私の経験では、半分以上が「どこにでもあるような感じ…」といったところで、「これは凄い!」とか「これは買いたい!」となるのは1割あるかないか、あとは「こんなので売れるの…?!」といった感じです。
えっ、1割しかないの!?と驚かれるかもしれませんが、新規事業についてご相談があった企業での割合ですので、残念ながらこれくらいが妥当な水準となります。
あなたが経営している会社で扱っている商品・サービスでの反応はいかがでしたでしょうか?
残念な結果だったとしても、大丈夫です。
現時点でわかったのですから、これから改善していきましょう。
4.既存の商品・サービスでも同じ質問をしてみる>
新規事業を検討する際に効果的な質問ですが、既存の商品・サービスにも同じ質問をしてみてください。
特に、経営者であるあなたが考えていた売上・利益が出ていない商品・サービスについては、なぜ考えていたような売上・利益が出ていないのかの原因がわかるかもしれません。
先ほどもお伝えしましたが、「当事者だと、どうしても商品やサービスへの思いが強いので、強みや売りが平凡なものにしかなっていないことがわからなくなってしまうのです。」
「あなたの商品・サービスの強み・売りは何ですか?」
「ひと言でいうと?」
「キャッチフレーズをつけるとすると、それは何ですか?」
【新規事業を収益の柱にするために】
1.競合他社との戦い方
「これは凄い!」とか「これは買いたい!」と顧客に感じてもらい、実際に購入してもらうためには、競合他社との競争を勝ち抜かなければなりません。そして、その戦略には大きく2つのパターンがあります。
1つはその顧客市場で最高の商品・サービスを提供し、市場シェアを獲得する競争、そしてもう1つは顧客利益重視(提供価値重視)で顧客の多様なニーズを満たすための独自性を目指す競争です。
前者の市場をレッドオーシャン(血で血を洗う苛烈な競争の状態)、後者の市場をブルーオーシャン(澄み渡った青い海のように競争がない状態)といわれています。
できることなら、青い海原を気持ちよく航海して、新規事業を成功させたいものです。
2.ポジショニングマップの活用
このときに活用したいのが、ポジショニングマップです。
ポジショニングマップとは、ブルーオーシャンに近い市場を探して新規事業展開を考えていくための地図、集客の方向性を考えるためのマーケティングツールととらえてください。
顧客の気持ちになって様々な軸を用いてポジショニングマップのトライ&エラーを繰り返すことで、ブルーオーシャンを見つけ出すことができるようになります。
今回ご相談事例(ブルーオーシャン)
今回、ご相談いただいた社長の場合、「価格(高価格−安価)」、「用途(お祝い事−日常使い)」の2軸でポジショニングマップをつくると、次のようになりました。
日常使いのための安価なものは、競合他社がひしめいているのですが、お祝い事のための高価なものはどこも作っていなかったのです。このため、これまでの5倍以上の高価格でお祝い事のための商品を新規事業として展開していく方向性で検討を開始しました。
これまでの5倍以上の高価格で販売するのですから、この2軸以外にも50項目以上の評価軸で比較・検討することで、この会社だけのブルーオーシャンを探すのです。
好ましくない事例(レッドオーシャン)
もし、ポジショニングマップを作成していて、このようなマップになっていたら、間違いなく競合他社と血で血を洗う熾烈な戦いをしなければなりません。
既存の商品・サービスで経営者であるあなたが考えているより売れない場合は、このようなマップしか描けないかもしれません…
我々のような中小企業は企業体力や経営基盤が十分ではないので、レッドオーシャンでの戦いは極力避けなければなりません。ブルーオーシャンのポジショニングマップを描けるように商品・サービスの見直しをしましょう。
3.3C分析
評価軸を選定する際に必要となってくるのが、3C分析です。
Company(自社)
Customer(市場・顧客)
Competitor(競合)
の3つの「C」を分析する方法で、あなたの会社と取り巻く環境(市場・競合)を照らし合わせることで、自社の「強み」「弱み」を抽出。単に分析するだけでなく、「何の商品」を「誰に」対して「どのように」販売すべきか、マーケティング戦略の策定にも活かすことができるのです。
Company(自社)
自社分析のポイントは現在の自社の状況に関する指標です。人材や資本と言った経営資源、営業基盤などの強みや弱みを洗い出してください。商品・サービスには直接関係ないかもしれませんが、自社の数値的な事実を洗い出すことで、自社の強みや弱みを再認識します。
これらを踏まえた上で競合他社と比べて優位性のある自社の差別化ポイントを洗い出していきましょう。ブランド力や知名度は数値的に把握しにくいため、差別化ポイントとして置きましょう。
Customer(市場・顧客)
顧客だけではなくターゲット市場全体の分析も行いましょう。市場全体の状況、商品の市場規模の推移、業界構造の変遷など、広い視点で捉える必要があります。
顧客に関しては、「購買の意思決定者」を確認します。購入者は必ずしも本人や代表者とは限らず、家族、会社での使用者などのケースもあるため、「この商品は誰が買うのか」をよく見極めましょう。
意思決定者が分かれば、顧客が商品の購入を決める際に重視する要素、「購買決定要因:KBF(Key Buying Factor)」を抽出していきます。ポジショニングマップは2軸でマッピングしますが、絞り込むまで軸となり得る項目を絞り出せるだけ出してください。
Competitor(競合)
競合他社の分析では、絞り込んだターゲットを元に選出した競合他社における購買決定要因(KBF)を抽出していきます。ここで出た購買決定要因(KBF)を比較評価することで、ブルーオーシャンで競合商品に勝つことができる2軸を見つけ出しましょう。
競合他社が取り扱う商品・サービスには、明確に訴求しているポイントがあるはずです。それらを漏れなく拾い上げて、ポジショニングマップに反映しましょう。そうすることで、市場全体をより的確に把握することができます。
新規事業を成功させるためには、何よりも商品やサービスのポジショニングを正しく決めて、ブルーオーシャンで勝負することが重要です。新規事業で成功したいのであれば、社長としてポジショニングの重要性を強く認識していただく必要があります。
【ポジショニングを成功させるポイント】
我々のような中小企業経営者は、競争の激しい市場で自社の商品・サービスを差別化し、新規事業で成功を収めるために、独自のポジショニングが求められます。以下、ポジショニングを成功させるためのポイントをいくつかご紹介します。
1.ビジョンの明確化
新規事業を成功させるためには、明確なビジョンを持つことが重要です。 ビジョンとは、事業の将来像や目指すべき方向性を示すものです。従業員、取引先や仕入先、株主や金融機関などの利害関係者との共通認識が容易になり、全社一丸となって目標に向かって進むことができます。
2.社長の覚悟
ポジショニングを成功させるためには、社長自身がそのビジョンに対して強い覚悟を持つことが求められます。社長が率先して進んで新規事業に挑戦し、困難を乗り越える姿勢を示すことで、従業員もそれに続いていこうという動機付けにもなります 。
3.ターゲット顧客の明確化
ポジショニングを成功させるには、ターゲット顧客を明確に定義することが重要です。新規事業を展開する場合、ターゲット顧客のニーズや課題を深く冷静に、収益特性や付加価値を持った商品サービスを提供する必要があります。顧客のニーズや課題を正しく認識することで、競合他社との差別化を図り、市場での独自性を確立することができます。
4.心理的安全性の確保
新規事業の立ち上げは、経営者の皆さんご認識の通り、うまくいかないリスクや不確実性があります。このため、従業員が自由に意見を出し合える環境を作り、失敗を恐れずにチャレンジできるように心理的安全性を確保するとともに、社長が率先してアイデアの提案や意見交換を提起し、失敗を学ぶ機会と考える姿勢を示すことで、組織全体が成長し、新規事業の成功に繋げることができるようになります。
5.定期的な見直し
ポジショニングマップは、市場環境や競争状況に応じて修正する必要があります。定期的な市場調査や競合分析を行い、顧客のニーズや競合他社の動向をフォローしましょう。必要に応じて商品・サービスの販売戦略を見直し、改善を行うことが重要なのです。
以上が、新規事業のポジショニングを成功させるためのポイントです。
経営者の皆様は、これらのポイントを参考にして、自社の新規事業のポジショニングを見直してください。既存商品のポジショニングも重要ですので、お忘れなく!
新規事業で展開しようとしている商品・サービスを、競合他社との競争を勝ち抜けるブルーオーシャンのポジショニング設定にしましょう!
あなたは経営者として、新規事業でどのようなポジショニングを設定し、新しい収益の柱をつくられますでしょうか?
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