「こんな凄い結果をどうやって出したの?」とび抜けた人が次々に生まれるチェーンにできる社長の視点には「皆狂い」?
「社長、これはいいですね」
「つい何度も利用したくなります」
会社のイチオシをご紹介された後、私がお尋ねするのは
「これを劣化なく、純度100%で売る工夫はありますか?」
劣化とは販売の状況によって、売り物本来の価値が下がってしまったまま、売りつけてしまうことを意味します。
チェーンビジネスにおいては、せっかくお客様を感動させられるほどの商品やサービスを売っていたとしても、何も手を打ってなければこんな反応をいただいてしまいます。
「食べたかった料理を注文したが、さんざん待たされた上に謝罪も無い」
「前から欲しかった商品を買いに来たが、販売員の雑な扱い方にショックを受けた」
「サービス内容が勝手に端折られてるのでは?」
など
「当社はそうならないように、こんな工夫をしています」
各社いくつかの対策を挙げますが、残念ながら「それは効きますね!」と言える工夫に、いきなりお目にかかったことはありません。
多いのは2つで、管理側がすこぶる大変になってしまう方法。
そしてもう1つは、とても工夫とは言えず、表現を変えればただの現場任せ。その時の店舗スタッフのさじ加減によって売り物の品質がブレ放題となってしまっているケースです。
会社にイチオシがあって「絶対にご満足いただけますから」「まずは来てください!」と、どんなに社長が集客意欲に溢れていたとしても、実は店舗では「また客がきた・・・今、忙しいんだから、買いに来ないでくれ」などといった非ウェルカム状態となっていることも。
より良い売り物ほどお客様から高い期待を抱かれますが、その期待を裏切られた際の精神的苦痛も大きくなります。
それがいつまでも改善せず何度も続いていますと、いつの間にか世間に定着してしまうのは「あちゃ~、あの店で買っちゃったの?」「あのチェーンはねぇ、・・・売り物自体はいいんだけどねぇ~・・・」などです。
私はただ脅したいとか、意地悪を言いたいわけではありません。なぜなら
私のチェーンビジネス経営者に対しての質問
「これを劣化なく、純度100%で売る工夫はありますか?」
は、飲食事業を営んでいる経営者に対して
「御社の秘伝のレシピを遵守してもらう工夫はありますか?」
と尋ねていることと同じだからです。
飲食事業において重要なのは「いかにレシピを守ってもらうか」です。
会社の看板メニューが、創業者が命を削ってまで生み出した一品で「これぞ至高」「むこう100年は稼ぎ続けられるぞ」と言えるほどの完成度であっても、肝心の各店の料理人がそのレシピを守らずに「いやいや、こうしたらもっと良くなるんじゃないの?」とか「俺がバンバンアレンジしちゃる」「今日は疲れたから、このくらいでいいっしょ」などと、勝手にひん曲げられていたらどうなるのか?
そんな企業の未来が暗くなることは誰にも想像できることでしょう。
飲食企業が「この一品を多くのお客様に、純度そのままで味わってもらいたい」と願うのであれば「まずはこれを準備しなければならないよね」とか「これも必要だ」「こういった制度も要るのでは?」など、レシピを遵守させるための、いくつかの仕組みが確立されていて当たり前なのです。
そしてそういった仕組みは存在感がありません。仕組みを創った社長以外の人達は、レシピを勝手にいじれないように社内体制が既に出来上がっている為、誰もその仕組みの効果やありがたみに気が付くことさえできないのです。
また、そういった仕組みが会社に確立していれば「もしかしたら、店舗では勝手にレシピをアレンジしているのでは?」など、社長が常にハラハラと心配を抱え続けることもありません。社長は何にも縛られることなく「こうしていきたいんだ」と自分で考え、自由に行動できるようになっていきます。
ところが、チェーンビジネスの「人」、つまりマネジメント面となると各社、その意識は一変します。
飲食では「店舗によって、レシピを勝手にアレンジされてはいけない」と仕組みが機能してて当り前なのに、マネジメント面では「店舗によって、販売員の対応に差がある」という課題は後回し、ほったらかしが散見されます。
中には、「それではイカン」と、社長なのに自ら動きまわってどうにか社員やスタッフのモチベーションを高めようと、常に汗を流している熱い方もいらっしゃいますが、店舗がドンドン増えていくチェーンビジネスでは相性が良い方法とはいえません。物理的限界はやがて訪れます。
チェーンビジネス全体でそういった状況が長く続いてしまったせいか、ついにはお客様側にこんなやりとりが発生してしまっています。
「それは君があの有名な地雷店に入ってしまったからなんだよ」
「え~あの店、そんなヤバくて有名な店だったの?」
「しまった~・・・そうだったのか」
さて、そんな各店の人の問題に対して、お客様までもが「しょうがない、チェーン店なんてそういうものなんだから・・・」と期待されていない方もいるのに、いまだチェーンビジネスが廃れることなく各社やっていけている理由はどこにあるのでしょうか?
それはおそらく
「いや・・・それでも私はこの会社のこの商品、このサービスが大好きなんだ」
「販売員によってブレがあるのは仕方が無い事なんだ」
「だから私は店や曜日、来店時間を変えてまた利用しよう」
と捉えていただける、神様のようなお客様が多数いらっしゃるからなのかもしれません。
ある社長がおっしゃいました。
「伊東さん、20年以上前は
『一体どうなってる!』
『その態度は何だ』
というお客様からのお叱りもあちこちの店舗でいただいていましたが、今ではそういったこともなくなってきています。
それどころか逆に
『あの店のこの曜日は避けよう。 ひどいスタッフが入っているから』
『なんだこの店員達は・・・! しまった、もう1時間待って、彼らが別のスタッフと交代してから買いに来るべきだった』
という寛大?なお客様の方が多くなっていると実感してます」
しかしこのチェーンビジネスの売り手と買い手の
「そんな店で買ったお客様の運が悪かったんだ」「確かにそうですね」
という不思議で危険な関係。
はたしてこのような形の商売が、今後ももっともっと繁栄していける・・・と言えるのでしょうか?
ここでこんな疑問を持った方がいるかもしれません。
「それでも各チェーンがやっていけてるんだから、別にいいんじゃないですか?」
「何も問題視することは無いでしょ」
商売をどう捉えようが、それは経営者の自由です。正解、不正解などありません。
ただ、「何が問題なんだ、いいじゃないか」とは逆に、別の視点で捉える経営者がいらっしゃることを無視することはできません。
「だったら、めちゃくちゃチャンスじゃないか!」
「当社だけが、どの店舗も劣化無く、純度100%で売れる体制になったら独壇場になるんだから」
実際にそんな企業にかかりはじめる声は
「うちの商品を御社のチェーンで売ってもらえませんか?」
「劣化無く売れる御社だからこそ、この好立地に出店してもらいたいんです」
など、引っ張りだこです。
チェーンビジネス経営者が会社を飛躍させていきたいとするのであれば
「どうしたら人を介しても、売り物の劣化を防げるのか?」
これを放っておくわけにはいきません。
真正面から向き合い、解決、確立する必要があります。
厳しい事を言いますが、そんな意識が無ければチェーンビジネスからは手を引いた方が良いでしょう。
せっかくの会社の売り物の価値、ブランド力が低下していくだけです。
人を介さずに売れる他の業態での商売をお薦めします。
しかし、私がこれまでチェーンビジネス経営者と接して来て言えることですが、こんな想いを抱いている方が多いです。
・人を介して売ると、価値が下がってしまうかもしれない
・しかしチェーンビジネスには不思議な魅力がある
・それが何なのか? ハッキリとはわからない
・だけど私はそれを信じている
企業経営者がチェーンビジネスに感じる不思議な魅力
私が表現するとしたら、おそらくそれは 「人にしかおこせないイノベーション」 ではないでしょうか?
最近のAIの発展は目覚ましいものです。
特にチャットGPTなどは非常に優れた技術かつ、誰もが身近に使えるというポイントを見事に両立しています。
私はこのコラムにそれを使ってはいませんが、ビジネスを加速させられる場面では活用しています。
AIは人に比べて的確で正確で、便利でもありますが「じゃあ人じゃなくてAIに頼ればいいんじゃないか?」となるとそういうわけにもいかない場面があります。
人とAIの決定的な違いは何なのか?
私の答えは イノベーションが起こせるかどうか? です。
「一体何だ、この凄い結果は?」
「君は一体何をどうやったんだ?」
「そうか、その視点、その手があったか」
「さすがだね 〇〇さんは!」
「〇〇さんは社長に認められてるぞ・・・私も、僕も負けてられない」
それまでの常識を覆し、新たな市場を開拓できるような革新は今のところAIに生み出すことはできません。
私はそれが「人」の素晴らしさであり魅力だと考えています。
もしかしたらチェーンビジネス各社の社長は、人が巻き起こせるイノベーションに期待を寄せているのではないでしょうか?
社長が、そんな組織をつくり上げていきたいのであればお薦めするのはひとつです。
自社の売り物を人を介して売っても、劣化無く売れる仕組みを確立する事
一見、ただのマイナス補填策に見えますが、これは「人」を介しているビジネスが前提ですので、必然的にマイナス補填&イノベーション誘発 という攻めと守りが同時に実現できる優れた一手なのです。
確立は簡単ではありません。
特に一番の難題と言えるのは、最初の視点
「そもそもチェーンビジネスって人を介して売ってるんだから、多少の劣化は当り前じゃないの?」
という意識を捨て去る事です。
人は普通、学校や会社という大集団の一人として生きていく経験をしています。
そこでは、誰が口にしたわけでもありませんが 「はみ出し者=悪い事」 意識が根付いてしまいます。
よって人には「皆と歩調を合わせよう」という意識がどうしても根強く体に染みついてしまっています。
その為か、現代のチェーンビジネス全般で、もはやお客様にまで受け入れられてしまっている「人を介しているんだから多少の劣化はしょうがないでしょ」という事態に「いや・・・そういった状況自体がおかしいのでは?」という疑問を持つこと自体が困難です。
では、企業のトップである社長は、どうしたら「誰もが当り前のこととして受け入れてしまっている事態に対して『おかしいのでは?』と疑問を持つことができ、更に自社だけが『こうしたらいいのでは?』と誰も見つけられていない突破口を開き、開拓していけるのか?
伊東さん、何かコツはありますか?
そう聞かれましたら私はこう返します。
「自分は正しい、みんなが狂ってるんじゃないの?」 という視点を持ってはいかがでしょうか?
一見「それは狂人、サイコパスの考え方だ」と言われるかもしれません。
しかし、貴方はこれまでの人生において
「あれ?・・・みんなと同じことをしていたのに、とんでもないことになってしまったぞ・・・」
という経験がありませんか?
1980年、日本では「赤信号みんなで渡れば怖くない」という言葉が流行語となりました。
この文章の問題点はその後です。
みんなで赤信号を渡った後、一体どうなったのか・・・?
果たして本当に車の方が「まったく・・・しょうがないな~」と停まってくれるのでしょうか?・・・
その車は簡単に停まることができる小さな車なのでしょうか?
私は何でもかんでも疑え、流れに逆らえと言いたいわけではありません。
ただ、企業経営者に確実に言える事は、他社と同じような視点を持ったまま、同じ土俵で勝負を続けていても、世の中に革新をもたらすことなどできない。という事です。
これまでの人生において、自分を信じて突き進んできて、社長という座を掴めた努力家が「こうするのが当り前」という流れを受け入れてしまっていることは非常にもったいないことです。
私はどの企業の社長にも「人とは違った視点」を持っていて欲しいと思っています。
なぜなら、それが世に革新をもたらすことになるからです。
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