第61話 次の有効な打ち手が見つからない経営者へ。
「現在、当社の業種全体の市場が年々縮小していき、当社も厳しい状況になりつつあります。これまでは、BtoBでの事業展開を行ってきまして、ここ数年は、BtoCでの取り組みも始めましたが、思ったような成果につながっていません。どのように、これから展開していくべきなのでしょうか。」
先日、当社へいらっしゃったある経営者のご相談です。
このようなご相談を受けるとき、いくつかの検討すべき方向性が考えられます。
そして、この会社も例外なく、これらの検討すべき方向性の中で、1つのカードを引きます。私自身は、この会社が、今後どのようにしていくべきかについて、相談しながら、ある程度イメージすることができました。
これらの検討すべき方向性については、実は、衰退産業に置かれている企業のみならず、ほとんどすべての企業が、これから考えていかなければいけないことです。
このいくつかの方向性をお話しする前に、とても有名な事例として、衰退産業を目の当たりにし、そして、その産業からうまく次の成長へとつなげていった会社と、その衰退の波に飲まれ、あえなく倒産してしまった会社についてお話しします。
それは、富士フィルムとコダックです。2000年代初頭に、カメラフィルムの市場が、100あったとすれば、わずか10年の間に、つまり2010年には、その市場が50分の1になってしまったそうです。
そして、コダックは、2012年倒産しました。
一方で、富士フィルムは、矢継ぎ早に、新事業を立ち上げ、カメラフィルム事業に頼らずとも、大きく売上を下げることなく、むしろ売上を伸ばし続けました。
この2つの会社の取った行動の違いは何だったのでしょうか。
このカメラフィルム市場の衰退の原因は、紛れもなくデジタルカメラの出現でした。紙からデジタルに変わることによって、フィルムがまったく使われなくなってしまったのです。
実は1980年代ごろ、コダックも富士フィルムも、電子機器メーカーなどに先駆けて、デジタルカメラをいち早く開発していました。しかし、当時の両社とも、カメラフィルム市場が右肩上がりだったことから、その開発から、さらに事業として取り組むことを継続せずに放置してしまいました。
当時のデジタルカメラは、それまで培ってきたフィルム技術を無きものとし、さらには、カメラフィルムとのカニバリゼーション(事業の共食い)が起きるといったように、フィルム事業にとっては、目を背けたくなるような存在です。
そのため、どうしてもデジタル化への対応が遅れ遅れになりました。
しかし、デジタル化の足音が急速に近づいてきた、2000年前後に、実は、日本では先駆けて、富士フイルムがデジタルカメラを市場に投入し、当時では、先行者利益を得ていました。
一方でコダックは、デジタル化を静観し、あくまでもフィルムにこだわるがあまり、倒産の憂き目に遭いました。
このように、わずか10年で一気に産業が、なくなるということが本当にあります。
その後、富士フイルムは、医療分野、化粧品分野、健康食品分野など、様々な分野への進出によって、売上を大きく落とすことなくデジタル化の波を乗り切ることができました。
これほど急激に、産業自体が無くなることはなくとも、じわりじわりと市場が縮小していくケースはあります。
冒頭ののご相談頂いた企業も、そのような環境下に置かれておりました。
ここで絶対に間違ってはいけないのは、どの戦略カードを引くかです。間違ったカードを引けば、当然、お金と時間をロスして、どんどんジリ貧になっていきます。
そもそも問題なのは、戦略カードがいくつかあることを検証せずに取り組みを始めてしまうことにあります。
さて、冒頭にも書きましたように、いくつかの検証すべき方向性や、その戦略カードとは何でしょうか。
その1つは、富士フイルムがそうであったように、新規事業の取り組みです。現在の既存事業自体が厳しくなる場合、新しい事業を立ち上げることは、1つの選択肢となり得ます。
もちろん、何でも新規事業を始めれば良いというわけではありません。特に中小企業は、新規事業の進出は、その体力を消耗することもありますから、始める際にも、十分に検討した上で、始めることが必要です。
ここで必ず考えなければいけないことは、その会社の強みを活かすということです。富士フイルムの場合には、例えば医療分野であれば、乳がんを調べる際のマンモグラフィーを開発しましたが、そこには、デジタルカメラの技術なども含めて、撮影するという技術が活かされていました。
また化粧品分野においても、フィルムをつくる際に使われる技術が活かされています。
そのように強みを軸にした新規事業展開を考えないと、競合にすぐに真似されたり、競合よりも優位に立って展開することができなくなります。
次に考えるべき方向性は、新しい市場への展開です。例えば、国内での展開のみに終始していた会社が、海外へ展開するといった具合に、日本で衰退しつつある産業であっても、海外では、これから伸びていくケースもあります。
富士フイルムが開発した、チェキなどのインスタントカメラは、海外の新興市場で売れています。
そして、もう1つの方向性は、現在の事業や商品、サービスに、新しい意味づけや価値づけを行うということです。
同じ商品であっても、時代にあうように、意味や価値を再編集していく、今の顧客や消費者のニーズにマッチするように、コンセプトを変えていく、など、切り口を変えることによって、新たな需要を生み出すこともできます。
さらには、もう1つの方向性として、業種によっては、残存者利益といって、衰退産業といっても、市場がいきなりゼロになることもない場合には、生き残ったもののみで、体力のない同業他社が倒産していくのを待つことによって、残ったパイを分け合い、利益を得ることができる場合もあります。
現在は、人手不足や後継者不足によって、仕事を受けるに受けられなかったり、廃業を選ぶ中小企業も多いことから、その会社に、体力や人手がまだ残っている場合には、残存者利益を得ることができる場合があります。
しかし、多くの中小企業、このように待ちの姿勢で生き残っていくことは、至難の業です。そのため、残存者利益を得られるケースは、そう多くはないでしょう。
このように、いくつかの方向性がある中で、その企業が、今選ぶべき最適な戦略カードは何か、このことを見定めて、決めたとなったら、一気呵成にやり抜く覚悟で取り組む、成果につながるまでやめない、最後は、その経営者の想いの強さにかかってきます。
あと、よくあるケースで、事業や商品、サービスのコンセプトが、時代や顧客のニーズにマッチしていないにも関わらず、営業やウェブマーケティングなどの「売り方」に一生懸命、取り組んでしまうことがあります。
売れないモノを売らなければいけない販売担当者は、非常に辛い思いをします。売れるモノを開発していくのは、事業であれ、商品であれ、サービスであれ、特に中小企業の場合は、経営者が取り組むべき仕事です。
次の「売るモノ(事業、商品、サービス)」を常に考え続けること、衰退産業に置かれた企業のみならず、あらゆる企業の経営者は、そのことから目を背けた瞬間に、その企業の衰退が始まります。
しかし、次の売れる「売るモノ(事業、商品、サービス)」=カテゴリーキラーを見出すことができれば、そこはまた、儲かる右肩上がりの成長が待っています。
次の絵をどのように描いていくのか、今まさにあなたは、有効な打ち手となる戦略カードを引くチャンスが目の前に訪れているのかもしれません。
株式会社ミスターマーケティング
代表コンサルタント
吉田 隆太
【追伸】
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儲かる仕組みとは、売り方に頼らずとも、売れるモノをつくることです。
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