経営に必要な理念の再構築
「異次元緩和の節目に、異次元の少子化対策が出てきたね。」とF社長。都内で複数の店舗を持つ小売業のオーナー社長です。少子化対策の話から家族の話となり、何やら色々と考えさせられました。
1.少子化問題より結婚問題?
「少子化対策もいいけど、そもそも結婚しない子が多いよ」と経営者らしいコメント。対策の財源に社会保険料が検討されていると聞くと、「税金よりもしんどいよね」と一言。
確かに、少子化の前に婚姻の問題があります。1940年代は7割弱がお見合い結婚でしたが、今では9割弱が恋愛結婚。職場結婚も恋愛結婚に分類されるので、見合い結婚と職場結婚の減少がそもそもの婚姻数減少の原因であるという調査があります。
そもそも歴史を紐解きますと江戸時代の庶民は夫婦別姓、共働き、夫婦別財産制です。さらに、江戸時代から明治時代の前半まで庶民の間では世界有数の離婚、再婚大国でした。この状況が変わるのが明治民法の制定です。
明治民法では家制度を採用します。江戸時代の武士階級の仕組みをベースにしていますので、庶民の結婚観とは違います。家制度では家父長が婚姻や養子縁組の同意権などを有する権力集中型の仕組みでした。
この家と家を結びつけて「家を存続させる仕組み」が「お見合い」です。法律で「家制度」を強制することにより婚姻率が向上するのと同時に、離婚率も低下します。結果として、人口が大幅に増えることになりました。
2.企業経営と家制度
戦後に民法が改正され家制度は廃止されます。婚姻は「両性の合意によるもの」に変わりました。しかし、「家制度」の影響が完全になくなるわけではありません。「家制度」の影響は世代、地域などによって濃淡はありますが、日本社会の中に残っています
平川克美氏はその著作において、日本の会社は「家制度」を模倣して作られている、婚姻は家と家を結ぶことで「家の存続」させるための手段であって個人の自己実現の手段ではない、と論じます(「路地裏の資本主義」)。
婚姻が「家と家の結びつき」から「個人と個人の契約」に変わりました。今でも、結婚式や戸籍の作成では「家」というものを意識しないわけではないですが、それほど強い者ではありません。
同族企業(ファミリービジネス)経営にも大きな影響を与えています。「家制度」の呪縛がなくなり、「家業を継ぐ」という観念が弱まります。弱まっただけで、無くなってはいない、というところだと感じています。
戦後に生まれた団塊の世代(1947年〜1949年)を育てた親世代は「家制度」の人達です。団塊世代に育てられた団塊ジュニア世代(1971年〜1974年)になると「家」という観念は更に薄くなります。
数年前になりますが、上場企業の「お家騒動」が世間を騒がせました。創業者である父親と子が対立した結果、株主総会における委任状争奪戦となった事案です。この時の両親の年齢が団塊世代の少し前で、子供達が団塊ジュニアの少し前の世代でした。
ここでの対立の構造は単に経営方針をめぐる対立だけではなく、「家制度」に影響が見て取れます。つまり、同族企業であったが故に、後継者の地位をめぐって親の意向と子世代の総意に食い違いが生じたということです。
明治民法の家督相続と現行民法の均等相続では方向性が正反対です。明治民法であれば相続とは後継者に財産を集中することでしたが、現行民法では相続人に均等に株式を相続させることとなります。
3.ルール模索の時代
同族企業(ファミリービジネス)のあり方も模索の時代ではないでしょうか。ビジネス面では、日本企業の中に色濃くあった「家制度」の名残も薄くなり、一世を風靡した日本的経営も否定され、今では欧米流の経営が主流です。
ファミリー面でも変化の様子が見て取れます。イマニュエル・トッドは家族を「父親が権威主義的(同居)か」と「兄弟間が平等か」の軸で分類していますが、この分類でも変化の傾向が伺えます。
日本の家制度は、家督相続として長男が財産を相続して、親と子が同居するので「直系家族:親と同居して、兄弟間は不平等なシステム」です。しかし、現行民法や社会の実勢は違います。
今の日本では核家族化が進んでいますので、親と子が別居するのが珍しくありません。更に、家父長制の時代に比べ、父親の権威は弱くなっています。また、兄弟姉妹間の関係も平等が原則ルールです
仮に兄弟姉妹間が不平等であった場合、この不平等を是正するための場となるが事業承継や相続のタイミングです。この2つが同時に発生すると兄弟姉妹間の溜まっていたエネルギーが最高潮に達します。さらに、法定相続割合が強い影響力を持ちます。
ちなみに、英米はトッドの分類によれば、「絶対核家族」というシステムです。核家族を前提に、遺産の分配は親の意思によって決められる仕組みになります。
【まとめ】
「家制度」という国家により作られた仕組みから解き放たれて、ビジネスもファミリーも次の「あり方、ルールのようなもの」を求めているのではないでしょうか。
企業が続くか否かは、継がせる人、継ぐ人の意思によります。企業も家族も続いていくものだとすれば、今この時は、長いプロセスの中の一部分に過ぎません。
長い時間軸を支える理念や価値観を改めて見つめ直すことが求められているのだと思います。
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