仕組づくりに、社員が向かわない。そんな社長が犯している間違いとは?
店舗系ビジネスを展開するK社長は、この1年で、「作業層」を動かす仕組みを作り上げました。その甲斐もあり、全ての店舗の売上げが、昨年対比120%以上で推移しています。
その一方で、この一年、自社に不足するものを痛切に感じるようになっていました。
「仕組みづくりに関わる社員」が絶対的に足りていないのです。そこで、K社長は、次の管理者の育成に取り掛かったのです。
K社長は、矢田に言いました。
「先生、彼らには仕組みをつくれ、仕組みに向かえと伝えていますが、全然その通りにはなりません。」
そして、続けられます。
「やっぱり管理者人材を採用することに、切り替えたほうがいいでしょうか?」
それを聞いて、当然矢田はNOと答えました。
優秀な人とは、「考えられる人」のことを指します。
これを、その真意に少し近づけた表現をすると、次のものになります。
「問いを作り出せる人」
彼らは、仕事をしている時に、頭の中で、絶えず問いを作り出します。
「なぜ、この手順が必要なのだろうか?」
そして、
「もっと効率良くやる方法はないだろうか?」
その生み出した問いによって、その仕事をより高みに昇華させていきます。
彼らは、この「問いを作り出す」ということを、「自然」にする生き物なのです。
この力をこそが、「優秀」である所以と言えます。
そして、同時にこの特性こそが彼らのモチベーションの源泉であり、ストレッサーでもあります。この問いへの探求が満たされた時に充実感を覚え、逆に、満たす機会を奪われた時に強いストレスを感じることになります。
それに対し、世の多くの人は「問いがあれば、考えられる人」と定義することができます。彼らの頭は、「これについて考えてください」と一つの問いを出された時に働き出します。
「この作業をもっと効率良くする方法を考えてください。」
もっと問いを限定することもできます。
「このマニュアルを確認し、不足するものを追記してください。」
学校教育においては、この「問いに対しての答えを考える力」や「問いに対する答えを覚え、正しくアウトプットすること」に重点を置いているわけです。
この効果もあるのかどうかは解り得ませんが、この世の中には、「問いを作り出せる人」は少なく、「問いが在れば考えられる人」はそれなりの数がいます。
そして、残りの少しは、「問いが在っても、考えられない人」になります。
当然会社としては、最初の「問いを作り出せる人」がほしいところです。
しかし、そんな優秀な人は、圧倒的に少ないのです。その人材を求めれば、それだけ大きなコストがかかることになります。
(「全員に優秀さを求めてはいけない」、「サービス提供の現場に、優秀な人が必要であってはいけない」・・・これらの考え方は、このコラムでお伝えしてきた通りです。)
そこで、我々が考えるべきことは、「問いがあれば考えられる人」の活用となります。
そのために、彼らに「問い」を与えることをします。
与えれば、彼らは、頭を使い考えるのです。そして、その何かしらの解決策を提案してくれます。そして、またそれに対しコメントをすれば、進むことになるのです。
そして、それを与えることで、彼らを育てることができます。彼らを「問いを作り出せる人」に変えられるかどうかは解りませんが、少なくとも、「そのレベルや、似たものに対応するための経験値を得ること」はできます。
経験値を得ることで、今後も同レベルの仕組みの改善を依頼することが出来るようになります。
与えることで、育てることができるのです。
与えることで、初めて、育つ可能性を得ることができるのです。
残念ながら、多くの企業は、「与えられていない」のが実状です。
問いを与えられていないから、考えるという行為が引き出されないのです。与えていないから、今日も明日も同じ作業をしているのです。そして、育たないのです。
これが、年商数億円企業の人が育たない根本的な理由なのです。
この説明をK社長にすると、次の言葉が返ってきました。
「先生、私は頑張って与えているつもりです。仕組みづくりをせよと。」
確かに、K社長は社員に「仕組みづくりに向かえ」と伝えていました。
しかし、これでは、「問い」になっていません。
彼らは、何を問われているのか、具体的に解らないのです。そのため、何を考えればよいのかは解らないのです。
「来店からサービス提供までの、待ち時間を減らすための案を考えてください。」
いまのK社の社員には、これではレベルが高すぎるかもしれません。
「長く待って頂いた方への声掛けのやり方を考えてください。」
これなら十分彼らでも何かしらの案を出せるはずです。
問いとは、具体的である必要があるのです。
具体的な対象、具体的なテーマがあることで、初めてそれは頭の中でイメージがされることになります。その描かれたイメージが、脳を動かすのです。
「仕組みづくりを・・・」と言われても、脳の中でイメージが描かれることは無く、脳が動くことも無いのです。
K社長は、笑いながら答えました。
「具体的なテーマを与えていない、当社の根本的な原因はそこですね。だから彼らは、ぽかんという表情をしていたのですね。」
そして、真顔に戻り言いました。
「先生、この具体的なテーマを与えることを、仕組みで行うのですね。」
一年で仕組みの概念を身に付けたK社長の、さすがの答えです。
仕組みにすることで、全社員にその機会を与えることができます。そして、その翌年も同じように、坦々とそれを行うことができます。
私は答えました。
「はい、そうです。間違っても社長が与えていてはダメなのです。」
順番を間違えてはいけません。
やるべきことをやる、つくるべき仕組みをつくる、それを運用してからしか人のことをどうこう言える資格はありません。実際の、彼らの能力を測ることも出来ないのです。
多くの会社では、「問いがあれば考えられる人」も使えていないのです。
人間の中で、最も多い層の人間を使えていないのです。
現にそんな会社を見れば、すべての社員が作業をやっています。昨日と今日と同じように体を動かしています。そんな彼らの頭は、全く働いていないのです。
そんな会社に限って、「人が大事」と謳っています。
そして、その社長は、「企業は人次第」と言ってしまっています。
その行き着く先として、成果がでないと「優秀な人を採用したい」となるのです。
「人が大事」とは、すべてを放棄した発言であり、すべてを社員の能力のせいにしている言葉なのです。そして、今の社員を見切ったという宣言なのです。
あくまでも、人が活躍できるかどうかは、基盤が在ってこそなのです。
仕組みと言う基盤があるからこそ、多くの社員が力を発揮することができるのです。
良い企業というのは、少数の「問いを作り出せる人」と、沢山の「問いがあれば、考えられる人」によって、構成されるものなのです。
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