仕組みづくりに社員を巻き込めない社長の特徴
健康系店舗型ビジネスを展開するM社長からの相談のメールが来ました。
「先生、社員を仕組みづくりに巻き込もうと考えております。彼らをどのようにモチベート(動機付け)すればよいでしょうか?」
Mは、事業モデルの変革が終わり、いよいよ組織づくりに取り掛かろうとしていました。その一環として、「仕組みづくりに社員を参画させる」段階に移ろうとしています。私は、その人選基準とその流れについてお伝えしておりました。
そのM社長からのメールの続きには、「そのために、会社のこの先のビジョンの説明と、仕組みづくりの意義を説明しようと考えております。」とあります。
そして、「また、彼らの役職や報酬をどのようにすればいいでしょうか?」とあります。
私は、返信を打ちだしました。
「モチベートなど必要ありません。役職も必要ありません。なぜならば・・・」
組織では、全員が仕組みの恩恵を受けることになります。
一般社員はもちろんのこと、主任も部長も、そして、社長も、その例外ではありません。
仕組み、すなわち、ルーチンになっているからこそ、毎日の仕事を坦々とこなすことができます。また、その時に忘れずに、それに取り掛かることができます。
では、一般社員と主任、部長、社長の何が違うかというと、それは「仕組みづくりに割く時間の多さ」となります。それは、データシートやマニュアルを作る以外に、方針を決めること、そして、その方針を決めるための調査、また、その作成の指示出しや打ち合わせまでを含みます。
その仕組みづくりに割く時間は、一般社員より主任、主任より部長という形で、上に行くほど多くなります。そして、それと反比例するように、ルーチンワークが減っていくことになります。(会議などは一見、ルーチンに見えますが、その内容は、仕組みに関する議論であったりします。)
そして、社長は、その多くが「仕組みづくりに関する時間」ばかりになります。その一方で、ルーチンは減り、残すは「進捗の確認」とその修正としての「方針の明確化と次の行動の確認」だけになります。
年商数億円企業では、この役割分担ができていません。社長や部長に、営業や製造という『量産』のルーチンワークが残っています。それどころか、時間の多くを、それに割かれている状態です。
皆さんもよくご存じの通り、その状態の「悲劇」とその「脱し方」をお伝えしているのがこのコラムであり、私の書籍になります。
何にせよ、この規模で「仕組み」というものを会社に取り入れる必要があるのです。それに取り組まなければ、悪循環に入り、益々、社長は現場を離れられなくなるのです。
上に行くほど、「仕組づくりに割く時間は増え、量産に関するルーチンは減る」のです。
この状態をつくる必要があります。この状態に速やかに移行する必要があります。
そのために行うことの一つが、「社員を仕組みに巻き込むこと」なのです。
彼らに仕組化のテーマを与え、それに取り組ませるのです。
最初は、当然出来ません。その出されたものを見て、愕然とするかもしれません。
それでも、与え、フォローを繰り返していきます。そうすると、徐々にですが、その出来は良くなり、スピードも速くなってきます。
このようにして、社員と組織に、「仕組み」を植え付けていくのです。そして、それを忍耐強く続けることで、仕組みは、花開くことになるのです。その効果を発揮するようになるのです。
冒頭のM社は、その段階にありました。そして、その相談のメールを矢田に送りました。
「先生、彼らをどのようにモチベートすればよいでしょうか?」
私は、その相談に対し、メールですぐに返すことにしました。
「モチベーションを与える必要は在りませんよ。」
そして、続きを打ちます。
「それどころか、絶対に与えてはいけません。」
本来、「仕組みづくりは、社員の仕事」なのです。
ここを勘違いしている経営者が多くいます。そのような経営者は、仕組みづくりを社員に振ることに遠慮したり、躊躇したりします。
『社員の定義』が低すぎるのです。
年商数億円の社長は、まずは、自分の中にある『社員の定義』を変える必要があります。
・飲食業1店舗でやっている時は、一緒にそこで働く料理人やホールスタッフが「社員」でした。それが、チェーン展開するとなれば、「社員」とは「本部で動く者」を指し、その彼らの主な役目は、仕組みづくりとイレギュラーへの対応になります。その一方で、店舗で働く者のことを、「社員さん」や「スタッフさん」と呼ぶようになります。
・小さな工場では、現場で一緒に汗水流して働く社員が「社員」です。これが、メーカーになると、本社事務所で設計や生産計画を担う者が「社員」であり、工場で働く人達は(露骨に呼ぶことはないですが)、「作業員」や「工員」になるのです。
社長の中で、この変化がなかなかできないために、「社員の定義が低すぎる」ままなのです。その結果、社員に遠慮して、マニュアルを自分でつくることになっているのです。
そして、モチベートする必要がある社員であれば、その彼らを、仕組みづくりに参画させることはできないのです。させたところで、使い物にはなりません。
仕組みづくりを担う者には、自頭が良いことはもちろんのこと、探求心や成長意欲、そして、プラスアルファの働きを惜しまない、という素養が必要になります。
もし、その相手がモチベートを必要とするような社員なら、それは、間違いなくこの素養が無いことになります。
優秀な者には、モチベートなど全く必要が無いのです。優秀な社員は、社長からのその誘いに、待っていましたとばかりに、喜んで協力をしてくれます。
ましてや、そこに金銭や上の役職という見返りを求めたりすることは、決してありません。彼らは、そんなことを微塵も考えていないのです。
また、彼らは、その体の中に、「見返りは後」という思考をおぼろげながら持っています。
見返りが無いと動かない、働かない、それはダメな奴です。
しかし、その多くは、「そういう風に考えているこちら」、すなわち、社長に問題があるのです。社長がそう考えてしまっているのです。「人は見返りがないと動かないものだ」と、自分の経験などから、その先入観で社員を見てしまっているのです。
多くの社員は、その社長の誘いを、何とか受けようとするはずです。彼らは、経験もなく、自信もないだけなのです。
だから、まずは、与えてみることです。
与えてみれば、はっきりします。
その社員が、前向きか、後ろ向きか。協力的か、そうでないか。
まずは、その姿勢を見たいのです。
その姿勢さえあれば、能力はある程度は後からついてきます。また、こちらも、彼らを「好き」であることができます。
そのうちの何名が応えるかは解りません
また、その何名にその能力があるかは解りません。しかし、振ってみないと解らないのです。
私がお手伝いしてきた会社の中で、5割は応える者が出てきます。
残りの5割が、応える者が全くいないという会社です。
「やっぱり、そんなに少ないのか」と驚かれたかもしれませんが、これが現実です。
それでも、このタイミングでやってみるべきなのです。
やるだけのことをやって、ダメなら、採用に力を入れるという方針に、切り替えましょう。
仕組みづくりに取り組む、社長の中の「社員の定義」を変える、仕組みづくりに社員を巻き込む、仕組みをつくれる人材を採用する。そして、社長は、現場を離れ、経営に専念する。
会社は、スピードある成長と展開を始める。
坦々と、進めていきましょう。
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