解っている社長は、マーケティングを絶対に手放さない。年商100億円になっても。
画面の向こうに、M社長の疲れた顔があります。
お話を聴くと、「ネットからの集客がダメになり、売上げが激減している」とのこと。
最近、「大手IT企業が支配するインフラ」に翻弄されている事象を聞くことが多くなりました。彼らの変更により、一度に「自社のマーケティングの仕組み」が崩壊するのです。
顧客にしろ、外注先にしろ、銀行にしろ、「一社依存」の危うさです。
M社長は、その対応に急ぎつつ、急遽リアルでの集客を試すことにしたのです。
そこまでの話をして、M社長は、言われました。
「先生、いつまでも現場を離れることができません。ずーっと集客の問題で追われ続けています。」
私は、お答えしました。
「集客に終わりはありませんよ。これだけは、いつまでも社長の仕事になります。御社が年商100億円になっても。」
どんな組織も、必ず2層構造になります。
それは、『設計層』と『実行層』です。
『設計層』の役目は、『開発』になります。
商品を開発する、売り方を開発する、仕組みを開発する。
それに対し『実行層』の役目は、『量産』になります。これを『展開』と表現することもできます。お客様を増やす。サービスを沢山提供する。仕組みを回しまくる。
其々に求められる成果も、全く異なることになります。
前者に求められるのは、『その時々の成果』です。その成果には、形がなく、その手順も決まったものがありません。その期やその月、その瞬間で、その成果は形を変えます。その手順の開発までをも含めた成果が求められます。
それに対し、後者に求められるのは、『決まった成果』です。その成果には、形があり、その手順も決まっています。そして、その多くの場合で、標準となる品質や納期、価格などが決められています。
会社には、この両方の機能が必要になります。『開発』があることで、サービスを新しく、仕組みをより効率的に高めることができます。そして、『量産』があることで、そのサービスをガンガン売り、それをガンガン作ることができるのです。その結果として、会社は、他社に勝ち、より大きく儲けることができるのです。
よいサービスと仕組みを『開発』する『設計層』
それをガンガン『量産』する『実行層』
この2層なのです。
ここで注意が必要です。
この『2層』という表現を、そのまま「組織(組織図)」に当てはめてはいけません。
確かに、組織の上位職にいくほど『設計層』に成るということは、間違いありません。しかし、もう1層にも、『設計層』すなわち『開発』の機能があるのです。
それが、『マーケティング部』や『商品開発部』など、です。
これらの部には、『決まった成果』がありません。そこには、形がなく、手順もない、絶えず前例がない状態です。
それに対し『営業部』、『製作部』、『管理部』には、決まった成果があります。これらは、『量産』を担う部署となるのです。
組織図で書くと、『マーケティング部』の横には『営業部』が有り、次に『商品開発部』が来て『製作部』、『管理部』と並びます。しかし、そこでの機能は、『開発―量産―開発―量産―量産』となっているのです。
会社が大きくなる過程で、より分業を進め、『開発』と『量産』の機能を分けていきます。それにより、そこでの業務の性質や、そこで求められる人材を、より適正化できるのです。
小さい会社では、その分業ができません。そのため、一つの『部』の中に、開発と量産の両方の機能を持つことになります。それが出来ないと、その開発の機能を『社長』がすべて受け持つことになります。
話が難しくなってしまいました。以下が要点であり、問いかけになります。
Q1.御社では、開発と量産の機能が分かれていますか?
Q2.御社では、開発がまともに機能していますか?
Q3.御社では、量産がまともに機能していますか?
Q1が出来ていない会社は、やはり徐々に『開発』が弱くなっていくことになります。それを専門に担う人間がいないのです。部長や課長、そして、商品開発担当、が居ないのです。売上げが増えるとどうしても、全員が『量産』に向かうことになります。その結果、すべてが後手になるのです。この状態を平たく言えば、「文鎮組織」となります。
この『開発』がまともに機能していない状態の行きつく先は、Q2になります。そして、それを続けるとQ3にも近づくことになります。
このQ3が、組織としては『最低』の状態になります。品質、納期、コストを満たしていないサービスが量産され続けることになるのです。
少し案件が増えるとすぐに、混乱を起こします。お客様からのクレームも定期的にあります。なんせ、サービスが『不安定』なのです。その結果、社長や一部の優秀な社員までが『量産』に囚われることになります。
出来上がるのは、Q1.Q2.Q3の全部が出来ていない状態となります。
この状態を続ければ、いつかは破綻が来ます。その破綻は、「社長のギブアップ(健康を害するか、心が折れるか)」か「社員の大量退職」という形で訪れることになります。
ここで言えることは、「開発が機能していることが、『会社』としての絶対条件」ということです。開発が先で、量産が後なのです。この『開発』の機能も無ければ、その意識も無い会社が多いのです。
私は、M社長に、お伝えしました。
「マーケティングは、一生社長に残るものだと思ってください。」
上記でご説明した通り、マーケティングはその特性が『開発』なのです。そこでは、求められる成果は絶えず変化し、その業務には形や手順が無いのです。
今の時代になり、集客を取り巻くノウハウやツールの変化はより速くなっています。
その変化に他社よりもいち早く適応し、ノウハウを確立するからこそ、他社よりも、多く見込客を集められるのです。
そして、その一つの広告手法は、広まれば終わりを迎えることになります。そこは、当然、競合だらけになります。1件当たりの獲得単価は高騰することになります。その一方で、お客様は「飽き始める」のです。
その結果、広告手法や媒体の栄枯盛衰はすごいものになります。
どんな媒体もいずれ、新しい何かに置き換わることになります。「その会社が大きく、一社独占になるほど」、その衰退は進むことになります。彼らが「傲慢さ」を持つようになると、そのスピードは更に速まることになります。
話を戻しましょう。
よってマーケティングは、他の部門とは違うのです。
この時のM社は、社員10名ほどの会社でした。その社員の多くは、「量産」である営業や製作に従事しています。
開発であるマーケティングは、社長が担っていました。
マーケティング業務の中でも、一部、「量産」の業務はあります。
・フェイスブック広告の、キャッチコピーや画像を入れ替え、反応をみる。
・折込チラシのデザインを変えるためにデザイナーを選ぶ。
・毎月開催しているイベントの内容を考える。
これらの例は「量産」であり、「実行層(優秀な)」に任せることはできます。
しかし、彼ら「並みの社員」には、その『手段』や『経路』を開発することはできません。
「別の媒体を試してみよう」、「リアルな手法を考えよう」と、それが今までとは、全く違うモノであるほど、それは無理になります。
マーケティングの本質は、『改善』にあるのでは、ないのです、それは、『改革』にあるのです。それは、根本的な『事業の作り変え』になるのです。
そこでは、思い切った意思決定が必要になります。訳の分からないモノにお金を投じる必要もあります。だから、『社長の役目』になります。
だから私は、M社長に、「マーケティングは、いつまでも社長に残るものだと思ってください。」と言ったのです。そして、「それどころか、年商100億円になっても、手放してはいけません。」と伝えたのです。
そして、これも付け加えました。
「会社が大きくなっても、マーケティング部は、社長とセンスのある数名の社員で十分です。そして、最新のモノを、コンサルタントや業者からノウハウをどんどん買い入れるのです。」
マーケティングこそが、会社の繁栄と衰退を決めます。
見込客を集められなくなった瞬間、会社は「窒息」します。そして、その変化は、無茶苦茶スピードが速いのです。また、会社の規模とともに、そのやり方も変えていく必要があります。(この「会社規模とマーケティング理論」については、また今度)
今、M社長は、その苦しさを感じているのです。
「いまの規模だからまだ良かったですが、これが社員50名や100名と大きくなっていたらと思うと、ぞっとしますね。」
事実、大手企業でも、『解っている社長』は、マーケティングを手放しません。
マーケティングを社長直轄の部署にします。ここだけは、他の営業部や製作部とは、その特性も、その重要性も、そして、その難易度も『別格』であることを解っているのです。
マーケティングを手放すのは、自分が社長を辞める時です。
そして、勉強や情報収集を続けます。セミナーにも参加します。業者の提案も受けます。
そして、社員や業者などの関係者と喧々諤々の議論をします。最も本気になるところです。
なんせ、自社が『最先端』である必要があるのです。
少なくとも、「その業界のそのマーケティング手法の中では、時代の先端を走っている必要がある」のです。他と一緒になった時点で「消耗戦に入ること」になります。
また、そのノウハウを、「情熱も能力もある個人のコンサルタントに教わること」は有っても、「そこそこの規模のある会社にパッケージで売られること」はありません。売り歩かれた時点で、時代に遅れているということになります。
(実際には、オールドエコノミー業種では、それで十分勝ててしまいますが)
今回のコラムの提言は、この一文になります。
「社長は、マーケティングを直轄とし、自らその勉強に勤しむべき。間違っても、手放したり、社員に任せっきりにしたり、してはいけない。」
以上。
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