変革の手順。社歴50年のH社、何をするにも社内の「静かな抵抗」に遭った。
建設業H社長が当社の事務所に相談に来られました。
この時の年商は12億円、その地域のその分野では、一番の規模を誇っています。
H社長は、言われました。
「先生、うちのような会社でも可能でしょうか?」
私は、同じ言葉を繰り返します。
「はい、大丈夫です。」
H社長は、手元にあった目線を上げ、言われました。
「一番気になっているのは、社内の抵抗なのですが。」
この後、このH社長の予測通り、改革は猛烈な抵抗に遭うことになります。
私は、答えます。
「それを解ったうえでの大丈夫ですよ。」
『目標』とは、「何を達成するか」ではありません。
「何を変えるか」です。
この定義のほうが、より目標というものを正しく理解することができます。
単年度目標とは、「今年は、何を変えるか」を表現したものになります。
そして、
単月度目標とは、「今月は、何を変えるか」になります。
このように表現をすると、より「目標を持つこと」の重要性を理解することができます。
逆に「目標を持たない」ということは、「今年は、何も変えない」、「今月は、何も変えない」と表明している状態を意味することになります。
「何を変えるか」を明確にすること。そして、共有すること。
組織においては、それが、すべてのスタートになります。その結果、各部署や各担当は動くことができるのです。
これは、完全に『個人』にも当てはまることです。
個人の目標においても、「何を変えるか」なのです。
「住む場所を変える」、「パソコンを変える」、「英会話を勉強する(英会話の能力を変える)」、「早寝早起きをする(習慣を変える)」
個人においても、この「目標との付き合い方」が、その人生を決定付けます。
・しっかり時間をつくり今年の目標を考える。
・それを文字に起こす。忘れないように手帳に入れる。
・毎月、毎週、やることを確認する。
・そして、忙しい毎日でも、一つひとつ実行に移す。
・それを実現するまで、それが習得できるまで、それが習慣になるまで、諦めずに続ける。
その一方で、次のような人がいます。
・考える時間をつくらない。
・「自分の規律や目標など」文字に成ったものが無い。
・実行しても、数日で忘れる。
・その結果、何も変わらない。
この後者のような生活を送れば、その人材はやはり「並」のものになります。
そして、この後者のようなことをやっている法人も、「並」のものになります。
前者のような個人における「目標との付き合い方」を、そのまま、「法人」に当てはめるだけなのです。会社だから、何か特別なことをやっているわけではないのです。
「何かを変える」ということには、必ず「何かしらの不快」が伴うことになります。
その変えるものが大きいほど、また、長く続けてきたものほど、その不快は大きくなります。
その「不快」も、個人でも法人でも同じとなります。
「引っ越しをする」、「パソコンを変える」、「英会話を習う」、「早寝早起き」
これらすべてに不快が伴います。その先に「快適さ」や「充足」があると解っていても、その「移行期間」は不快なのです。
法人でも、同じなのです。
「本社を移転する」、「システムを入れ替える」、「新技術を開発する」、「始業時間を変更する」
すべてに不快を伴うのです。
ロジックに考えれば、そこに合理性があるのは解ります。それでも、「不快」は否定できないのです。
個人と法人とでは、違いがあります。
それは、「それで済むかどうか」にあります。
個人は、何も変わらなくても、すなわち、その不快に向かわなくても、出世はできないかもしれませんが、十分生きて行くことができます。自分が満足であれば、幸せなのです。
法人は、それでは、済まされないのです。
変化しなければ、生き残れないのが法人です。それをやらなければ、徐々にお客様に飽きられていきます、また、競合に負けるようになります。世の中についていけなくなるのです。そして、いつか「淘汰」されることになります。
法人は、「変化」が前提であり、「変化」が習慣なのです。
そして、その変化の号令を出すのが、『社長』になります。
「ここを変化させるぞ」、「こうするぞ」と。
すると、社員が抵抗感を示すことがあります。そうです、「不快」だからです。
慣れ親しんできた自分のやり方を変える必要があります。ツーカーでやってきた同僚や業者と離れる必要があります。意識しなくてもできる作業手順を捨て、別のやり方を新たに覚える必要があります。そう、不快なのです。
前向きで成長意欲の高い人は、「はい」と気持ち良い返事をして、すぐに動いてくれます。
その不快な素振りを見せず、「楽しそう」に、「成長出来そう」という気持ちでやってくれます。また、彼らは、変化しないと会社は生き残れないことを、感覚的に理解してくれています。
しかし、それが出来ない多くの社員は、また、その不快度数の高い人(成長意欲の低い人)は、抵抗感を表すことをします。その抵抗とは、主に「指示されたことをやらない」というものになります。忙しいと言い訳をします。また、「言われたことだけをやる」という仕事のやり方です。
そのようにして、遅れを「演出」します。そして、社長が、根負けしたり、忘れたりするのを待ちます。
この抵抗こそが、変革の大きな敵となるのです。
次のような傾向があると、その抵抗は、より強化されることになります。
1.保全型の個性(コツコツ型、攻めより守り、作業が好き)の社員が多い。
2.変化への免疫が無い人が多い。
3.全体的に年齢が高め。年齢が高くなるほど、変化を受け入れる力は衰える傾向がある。
冒頭のH社は、田舎にあり、創業から50年その地で事業をやってきました。
事業は昔からの〇〇工事業で、官公庁関係の仕事が半分以上を占めています。
長く勤めてくれている社員も多く、60歳、50歳が主力となっています。
そして、仕組みづくりという概念もなく、全員が作業ばかりをしています。
このような会社です、完全に「変化」する力も、その免疫も弱いことが予測されます。
これから改革を進めるうえで、「静かな抵抗」にあうことは、H社長は想像できてしまうのです。現にいままでも、多くの取組みの導入が阻害され、導入されたものも、「なあなあ」な運営になってきました。
H社は、長い歴史の結果、完璧な「変化のできない会社」になっていたのです。
社内には、良く言えば「コツコツ型の守りに強い」人が多くいます。その多くが、この田舎から出て生活したことがありません。そして、年齢の高い人が多いのです。そして、営業しなくても、入札で仕事は取れていきます。
H社では、仕事のやり方が変化しないことが「常」になっています。こんな状態を長く続けてきたのです。
H社長だけが焦っていました。地域の急激な過疎化により、公共工事の予算は確実に減っています。また、民間工事も、件数の減少と単価の縮小が止まりません。そして、材料や燃料が高騰し利益を圧迫しています。
H社長は、その状況を朝礼や会議の場で話します。また、各部で「やってほしいこと」を伝えました。しかし、彼らにその危機感は伝わりません。また、動くこともありません。
H社長だけが勉強しています。セミナーや展示会に出るため月に数度は東京にいきます。やり手の経営者の話を聴きにいきます。そして、経済紙やビジネス本を読みます。
その一方で、彼らは、毎日そこで生活しているのです。出張が全く無い者がほとんどです。そして、他の業界の人や立派な人に会うこともありません。小説は読んでも、ビジネス書などは一切読まないのです。
H社長と彼らのその意識の差は、開くばかりです。H社長も、これはまずいと思い、いくつも手を打ってきました。高名な方を呼び講演会をしました。人事評価制度も変えました。
しかし、何も変わりませんでした。
H社長は、「これは、会社の根本からつくりかえないと無理だな」と気づいたのです。そして、当社に相談に来られたのです。
H社長は、再度、矢田に訊きました。
「当社でも変われますかね?」
私は、答えます。
「はい、それでも、変われますよ。」
それをすべて踏まえて、変われると言っているのです。
当然、その道は楽なものではありません。
(やはり、社歴が浅く、社員が若い会社の方が変わるのが、早いのです。)
H社には、長い「変わってこなかった」という時間によって、出来上がった強力な『社風(習慣)』があるのです。その根本には、やはり「社長という個人の習慣」のマズさがありました。
しっかり考える時間をつくらない、文字で社員と共有しない、その実行を確認しない。
その結果の今のH社なのです。
その変革には、大変な苦労が伴います。それ以上に、H社長の覚悟が問われることになります。
しかし、その「正体」は解っているのです。そして、そんな組織を相手にしてきた沢山の経験があります。経営における原則と目指すところは、はっきりしています。そして、どのように「組織の心」を誘導していくかも解っています。
そこでの進め方は、やはり「個人」のそれと同じになります。
・しっかり目標を考え、目標を決める。
・成文化する。手帳や冊子にして説明する。
・毎月、毎週、やることを確認する。
・そして、その実行の進捗を確認する。
・それを実現するまで、それが習得できるまで、それが習慣になるまで、諦めずに続ける。
今、H社長が、この取組みを始めて2年が経ちます。
H社長と食事に行った時に、言われました。
「最初の1年は、孤独との闘いでした。しかし、この一年は、本当に会社が変わりました。今は、会社に居るのが嫌でなくなりました。」
H社長(笑)
矢田(笑)
成長企業は、変化が常。
衰退企業は、変化が嫌。
「変化」が「常」の会社をつくりましょう。
そのためには、社長が変化するしかないと言うことです。
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