人口縮小エリアにある企業の生き残り策:設備工事業I社は都市への進出を決めた
山間にあるA市に、設備工事業I社はありました。
その時の年商は12億円、売上は年々落ちる傾向にあります。
I社長は、この先の方針を決めかねていました。
この地域の過疎化の勢いにはすごいものがあり、民間の設備投資も公共の予算も、今後も減少が続くことが予測されます。
この状況を打開するためには、営業エリアを拡げるのか、他の事業を行うのかを考える必要があります。しかし、社内の体制も不安定な状況にあります。定着率が悪く、万年の人不足状態です。
そこで当社に相談に来られたという経緯です。一つの決断に至る顛末を確認しましょう。
日本経済が、急激に縮小していることを感じることができます。
日本は、物が行き渡り成熟社会にあります。そして、高齢化が進んでいます。
サラリーマンの平均所得は、この二十数年間で、2百万円下がっています。
そして、このコロナ禍です。コロナ前と今では、完全に変わってしまいました。
東京の夜の街でも、一部の駅前で活況であるものの、少し離れると、夜9時には、誰もいない状態です。感覚で言えば、この2年半で経済規模は、2割ほど縮小したと感じられます。
(そして、あれの被害が拍車をかけています。毎月2万人の超過死亡によって加速する人口減少、これから増える病人とそのための社会保障費。そして、増税。)
私は、コロナ明け後、アセアンでの活動を再開しています。そこで感じることは、「勢い」です。それらの多くの国は、まだ成長社会であり、平均年齢も若いのです。ベトナムは、人口1億人、平均年齢30歳です。そして、それらの国では、総じて税が軽いのです。
「伸びるところで、ビジネスをやれ」という原則通り、アセアンには、世界中から多くの企業家が集まってきています。本格的な高度成長期がやってきています。
この伸びるところでビジネスをやれという原則は、当然、日本国でビジネスをやる企業にも当てはまることになります。日本国全体としては衰退に向かっているとしても、すべての地域(分野)でそれが言えるかと言えば、そんなことは無いのです。
ITやシステムを使ったサービスは、拡大しています。自動化や効率化はどんどん進んでいます。
また、高齢者は当面増え続けることになります。低所得者も増えることになります。その割合や傾向も地域によって違うことになります。
そして、大都市圏に一層の人口集中が起きています。また、人気の観光地では、更に行きかう人が増えることになります。
日本全体で考えるのではなく、「ビジネスはあくまでも地域(ローカル)」という認識を持っておく必要があります。
そこで衰退地域(分野)の企業が考えるべきことは、次の2つが基本になります。
一つは、「エリアを拡げる」です。
自社の事業の顧客となる人がいる地域(分野)に営業エリアを拡げます。広告をかけたり、営業所を作ったりします。それにより、対象人口を倍にすることもできます。
そして、もう一つは、「別の事業をやる」です。基本は同じエリアでのビジネスを考えます。その際には、今の事業の周辺で考えることを優先します。同じエリア同じ業界だけあって、そのニーズや慣習もわかっているのです。新規ビジネスゆえ、それでも、大きな苦労が伴います。やはりその事業が軌道に乗るまで、3年はかかることになります。
ここで考える必要があります。
ビジネスにおいては、登場人物が3名いるということをです。自社と顧客、そして、競合です。
エリアを拡大するにしても、そのエリアには、先行する競合が必ずいるのです。
自社のエリアよりも大きな都市であれば、猶更です。その会社は、その地域で、いままで信頼を築いてきているのです。やはり参入はそう容易くはありません。
また、「別の事業をやる」にしても、そこにも競合がいることになります。彼らのその商圏を、奪いにいくことになるのです。
いずれにせよ、何かを選ぶ必要があります。確実に自社のマーケットは縮小をしているのです。このまま、何もしなければ、利益は無くなり、いよいよ手が打てなくなります。
競合と戦う、その時の考え方の基本は次の2点になります。
一つは、「差別化要因をつくる」です。もう一つは、「隙間を突く」です。
競合の調査をすると、相手のビジネスが見えてきます。何に特色があるのか、ターゲット層やコンセプトは何か、どうやって集客しているのか、弱いエリアはどこか、など。
そこから、自社の勝てるものを見つけます。また、付け入る隙を見つけるのです。
また、その競合企業の経営者の年齢や志向性も確認するといいでしょう。高齢や元気が無い経営者であれば、こちらの攻勢に対抗してこない可能性も高くなります。
そして、できるだけ静かに侵入します。気付かれ、対策を打たれる前にできるだけ拡げるのです。
この競合に対する意識が薄い企業が多くあります。逆に、相手は、こちらを研究してくるのです。それでは、やる前から負けが確定することになります。
自社がその競合より大きい時(規模、資金力)には、これらとは異なるもう一手の選択ができます。それは、その規模にものを言わせた戦い方です。大量の広告を打ちます。短期間に複数の営業担当を投入し、安売り商品で営業をかけます。その安売り商品で入り込み、競合を追い出したのち、徐々に価格を戻していきます。
(小企業が、これをされると非常につらい。だからこそ、中小企業は、時代の先を読み、特色のあるビジネスを築くことが必要になるのです。)
「エリアを拡げるか」、「別の事業をやるか」です。この決断を迫られることになります。
これは、市場が拡大している時には、必要が無い概念です。拡大する市場では、皆がそこそこの頑張りで、十分な益を享受することができます。そこでは、熾烈な戦いも、淘汰される企業も少ないのです。それが、いまのアセアンの状況です。
その市場の大きさに比べ、企業と物が溢れた時に、不景気に突入します。そして、その市場自体が縮小していくのです。それが、日本の多くの地域(分野)であるということです。
冒頭の設備工事業I社は、すでにこの地域では、一番大きな会社になっていました。
公共工事は、これ以上増やしにくい程度に、シェアも取れています。また、民間の工場などの工事がある際には、声がかかるようになっていました(直、または、ゼネコンから)。
それでも、市場の縮小の波の影響を強く感じています。
案件数の減少、そして、一つひとつの案件が小さくなっているのです。そして、競合との価格競争です。競合2社のうち1社が、「あり得ないほどの価格」で営業攻勢をかけてきます。それによって、相場も崩れています。
そこで、当社にご依頼をいただきました。I 社長と共に、自社が生き残るための策の検討に入ったのでした。その結果、I社長が出した答えが、「B都市への進出」でした。
そのB都市は、その地方では最も大きい街になります。その地方では、唯一、人口が減っていない地域です。その分、公共工事も民間の投資もまだまだ活況なのです。そして、その地域では、工事をこなす業者不足の状態が確認できています。
また、I社長は、人材の採用力アップの狙いも持っていました。今のままでは、自社の人材不足は永遠に解決されないと考えたのでした。
I社長は、決断を行動に移します。さっそく営業所となる貸オフィスを探しにいきます。するとやはりその家賃の高さに驚きます。坪単価にすると、いまの地域の5倍以上はするのです。めげそうになります。
そして、自社の仕組みが全く出来ていないことにも、気づきました。
新規営業を開拓する仕組みがありません。顧客をコンスタンスにフォローする仕組みも、案件の進捗を管理する仕組みも無いのです。そして、何よりも、それを管理する管理者を動かす仕組みが無いのです。今までは、一か所に全員がいるから何とか回ってきたのです。
このまま、社員や管理者を営業所に配置しても、何も動けないはずです。
仕事が受注できたとしても、大変なことになるのは目に見えています。最近でも、1億数千万円の工事で、大きなマイナスを出したばかりです。それで今期の利益が丸々吹っ飛びました。
本社で出来ていないものを営業所で運用できるはずがありません。半年後に営業所を開所するという目標を立て、その整備を急いだのでした。
長年この地域だけで事業をやってきただけに、社内の抵抗もありました。しかし、I社長は「このまま行けば、会社を存続させることは無理であること」を粘り強く社内に発信しました。それにこたえる形で、若手エースを含む数名が営業所への転勤に手を上げてくれたのでした。優秀な彼らも、挑戦する何かを求めていたのです。
半年後、営業所オープンと同時に動き出しました。すると、I社長の予測通り、案件は多く在ることが解りました。また、業者不足の状況も確認できました。すぐに複数件、見積もりをさせてもらえることになります。
しかし、なかなか受注までには至りません。やはり、競合がいるのです。参入を阻むために、当社の見積額に合わせてくるのです。そして、多少多く払ってでも人や外注業者をかき集めます。それでは、発注者側に、リスクを取ってまで新規企業を使う理由はなくなります。相手も必死なのです。
それからポツポツ小さな工事は取れるものの、望む規模の工事の受注はありませんでした。
約一年後、やっとその1件の受注が決まりました。それは、I社にとって、過去一番の請負額の工事になりました。
(まとめ)
人口縮小エリアにある企業の生き残り策
- 生き残り策の基本は、「エリアを拡げる」か「別の事業をやる」かである。
- ビジネスでは競合の存在を認識すること。競合との戦いは避けられない。「差別化要因をつくること」、「隙間を突くこと」を必死に考えること。
- エリアを拡げる、別の事業をやる、いずれにせよ、今の事業が仕組みで回っている状態にすること。それが前提。
- その先に、自社が生き残り、発展する道は必ずあると信じ行動すること。
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