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Vol.7:感情と勘定のバランス

SPECIAL

「信託」活用コンサルタント

株式会社日本トラストコンサルティング

代表取締役 

オーナー社長を対象に、「信託」を活用した事業承継や財産保全、さまざまな金融的打ち手を指南する専門家。経営的な意向と社長個人の意向をくみ取り、信託ならではの手法を駆使して安心と安全の体制をさずけてくれる…と定評。

「よく分かりませんので、主人に聞いてみます」とS社長の奥様の回答です。
S社長は3兄弟の長男です。冒頭の会話は、「今後の会社経営のことを考えて、今のうちに色々見直しておきたい」という次男の専務の申し出に対するものでした。

先代が創業者で、社長は2代目になります。会社は大手メーカーの下請けとして加工業を経営していましたが、すでに加工業は撤退して、今では会社が保有する不動産の賃貸業をしています。

J Rの最寄り駅から徒歩10分もかからない場所に本社兼工場がありました。郊外ではありますが、相応の資産価値があります。今は敷地の一部に本社の建物があるだけで、大半は駐車場として貸しています。

近年は、S社長が体調を崩しがちでしたので、会社経営の実務は弟二人が取り仕切っていました。先代の相続時に自社株式をS社長50%、次男30%、三男20%という微妙な割合で相続しています。

同族企業(ファミリービジネス)の場合、家族と会社経営者と株式保有者との関係が相互に絡み合い、複雑な状況になることがあります。特に、創業から代替わりをするにつれて複雑さは増していきます。

S社長の不在が長引く中、次男の専務から冒頭の申し入れが、S社長の奥様にあったのですが、内容は「会社の定款や土地の関係を見直したい」ということでした。結果的に何の対応もすることなく、S社長はご逝去されました。

同族企業(ファミリービジネス)で大きな問題が生じるタイミングは事業承継の時です。S社長のご相続手続きも、S社長の兄弟や相続人を交えてドタバタとすることになりました。そのタイミングで取引銀行さんのご紹介でお手伝いすることになりました。

S社長のご家族は奥様と娘が3人です。S社長のご希望(遺言)としては奥様に全財産を渡したいということでした。このシナリオであれば相続手続きは楽ですが、奥様にもそれなりの資産がありましたので、相続税を考えると得策ではありません。

S社長の遺言どおり奥様に全部ということであれば、一時的(一次的)には税金負担は軽いのですが、奥様の相続が発生した時の負担が重くなりますので、分割協議で修正するほかありません。

ここからは相続人の感情と勘定のバランスが崩れないように進めていくことになります。相続発生から10ヶ月以内に、なるべく感情のしこりが残らず、かつ、勘定のバランスを良い塩梅に分割協議を決めるだけでも大変です。

ようやく遺産分割の方向性は見えましたが、決まった分割内容で相続税を計算すると子供3人の納税資金が足りず、一部の不動産を売却せざるをえません。不動産の共有を避けるのが良いとは言われますが、一部は共有という結果です。

S社長の保有する自社株式は奥様が全て相続しました。もし、次男の専務が意図していた定款の見直しをしていたら、自社株式の全部を相続できなかった可能性があったことを知り、奥様も驚いていました。

実は、これまで難しいとされてきた不動産の共有、自社株式の承継などの対応も方向性が決まれば、信託を使って良い塩梅で流れを作っていくことができます。未来に向けた設計図に合わせて、信託で仕組みを作っておくということです。

もっとも、ただ信託を作れば良いという問題でもありません。信託は目的を達成する手段でしかないからです。近年では専門家が関与した信託でも裁判になっている事例も増えているので注意が必要です。

奥様に相続が発生したら、その次の分割をどうするかは、頭の痛い問題です。3人姉妹の誰が社長となるのか、それともならないのか。自社株の承継とその他の承継をどうするのか、現時点で方向性は出ていません。

科学的な根拠がある訳ではないのですが、経験則として3姉妹の相続は話が難しい方向に行くことが多いのです。特に、母親が亡くなる2次相続のタイミングは要注意ですので、S社長の奥様と今から準備を始めています。

オーナー社長に何かがありますと、一度は治まったように見えた問題も、時間や世代を超えて再度トラブルになる場合があります。いざという時のために、「後は、よろしく」と言えるアドバイザーを持っておくことを強くお勧めいたします。

 

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