会社の本当の強みとは何か?事例:やりたいことが見つかったと辞めていく社員・・・
この日は、建設業F社を訪問してのコンサルティングです。席に着くなり、F社長は、現状の報告に入りました。
「先生、半年前に採用した社員が辞めたいと言ってきました。」
私は、訊きました。
「何が理由ですか?」
F社長は、答えます。
「本人は、やりたいことが見つかったと言っています。」
建設業F社長のその表情から、「・・・なら致し方ない」という気持ちが読み取れます。
それどころか、「一人の若者が人生の目標を得たことが喜ばしい」というニュアンスまで感じられます。
これは大きな間違いです。私は、言いました。
「やりたいことが見つかったのではありません。会社がつまらないから、他にやりたいことを探したのです。」
会社の強さというものは、『仕組み』にあります。
マネジメントという仕組みです。
仕組みが整備された会社では、次のような状態を生み出します。
・社員が業務の問題を発見します。そして、それを、社長や上司に報告します。
・社員がお客様へサービスを提供します。そして、要望に対し、適切に回答しています。
この「社員が気づく」や「適切な対応」も、仕組みによって生み出されていきます。
また、組織全体では、次の状態をつくり出します。
・問題が起きると、関係者が集まり、チームができます。そして、その対策をします。
・その対策としての仕組みがつくられます。そして、その定着も早いのです。
この「チームが出来る」も「定着が早い」も仕組みなのです。
これを正しく認識する必要があります。
この状態は、「作れる」ということです。いえ、正しくは、「作らなければならない」のです。
作ることができなければ、どうなるかは皆さまも承知の通りです。社員からの自発的な発言も提案もなければ、チームもバラバラ状態になります。その結果、社長は、現場に囚われることになります。
そんな会社の経営計画書には、『弱み』の欄に、「仕組みがない」や「マネジメントが出来てない」という文言が並ぶことになります。そして、その記載は何年も継続することになります。
「仕組みを作らなければならない」、そんなことは、解っているという声が聞こえてきそうです。そう、多くの経営者は仕組みの重要性を、十分に解っているのです。
では、なぜ、多くの会社でその仕組みの整備が進まないのでしょうか。
その理由は大きく二つあります。
一つは、「仕組みに向かっていないから」です。
その重要性が、解っているか解っていないかは、関係ありません。日々の時間の中に、仕組みに向かっている時間が無いのです。その時間が無いから、当然、一向に仕組みづくりが進まないのです。
そんな会社では、その代わりに、「社長」は朝から見積作成や業者の手配に追われています。また、会社内に、定例の会議がありません。社員は、今日も明日も変わらず作業をこなしています。そこには、「仕組みに向かっていない」という現実があります。
もう一つの理由は、「仕組みの作り方が解らないから」となります。
多くの社長は、「何から手を付けていいか解らない」という状態であり、「どのようにつくれば良いか解らない」という状態にあります。
はっきり言うと、仕組みづくりは、難しいものなのです。この難しさは、多くの中小企業ができていないことを観れば明白です。また、それを提供する私が、十分な報酬を得ていることからもそれは計り知れることです。
その仕組みのレベルが、「社員が日常業務をこなすレベル」でよければ、できるかもしれません。しかし、「社員が日常的に業務を改善しているレベル」となれば、更に難易度は高まることになります。
仕組みづくりも、全ての社長にとって、初めてのことになります。それは、自然にできるようになりません。それを習得するためには、それを集中して学ぶ期間が必要になります。それも、正しく、最短で行うなら猶更です。
仕組みの作り方も、その道のプロか、それを商いにしている人から教わり、身に付けるのが、確実で最速になります。そこには、自分では達することが出来ないレベルのものがあります。
一年前に、私が、ゴルフを始めようかと人に相談した時のことを思い出します。その相談した相手全員から「しっかり習った方が良い」という答えが返ってきました。その中には、「自分は習った経験が無い人」もいました。今になり、彼らのアドバイスに従って良かったと本当に思える状態になっています。
これと同じです。仕組みについても、教わり習得するのに限るのです。「マーケティングの仕組み」、「在庫管理の仕組み」、「人事制度という仕組み」。
これらのものはお金で手に入るものです。そのスピードと確実性を、買っていきます。それにより、より大きく儲けることができます。自分(と社員)の時間と労力を使わなくて済みます。かつ、本当に良いものが手に入るのです。そして、何よりも、自分自身の迷いが無くなるのです。
冒頭の建設業F社長が、仕組みづくりの習得に向かい、2年が経過しています。
社内の仕組みは整備されてきており、F社長は、完全に現場を離れることができています。営業も施工も、その業務は、しっかり管理者と社員の手によって回されています。そして、彼らが中心になって、仕組みの改善が継続的に行われています。
年商も、順調に推移しています。4億円が、4億4千万円、5億2千万円になりました。そして、今期は期の始まりで受注残が4億円あります。今期は、7億を見込んでいます。
この日のコンサルティングは、F社が移転したばかりということで、新事務所で行うことになりました。真新しい事務所を、一通り見せていただき、会議室に通されます。
席につくと、すぐにF社長が話を始めます。
「先生、半年前に採用した社員が辞めたいと言ってきました。」
コンサルティングの場では必ず社長から話をして頂くようにしています。それは、「その時の社長の一番の感心事」が知れるからです。その時の一番の感心事が、やはり、いの一番に口から出ることになります。
F社長は、彼から訊いた理由を述べました。「やりたいことが見つかったと。」
そして、その言葉に、「それは彼の人生にとって、良かった」というニュアンスを載せています。
私は、少し間を置きます。間違いを指摘しなければなりません。
「F社長、彼は、やりたいことが見つかったのではありません。彼は、会社がつまらないから、他にやりたいことを探すことになったのです。」
勇気を出して入った会社を、すぐに移りたいという社員などいません。それも、自分が望んだ職種です。少なくとも半年前には、やる気を持ち、この会社で頑張ろうと思っていたのです。そんな彼が、たった半年で、「やりたいこと」を探さざるを得なくなったのです。
私の説明を受け、F社長は、素直に反省をしました。
「また、同じ失敗をするところでした。完全に問題を間違えて認識していました。」
この間違いも、「仕組みに向かうのではなく、人に向かってしまった」という事象の一つです。
「彼に本当のやりたいことが見つかった」という認識であれば、仕組みに関する反省が無いことになります。
「彼は、他にやりたいことを探さざるを得なかった」という認識であれば、仕組みの問題になります。問題を正しく認識できれば、仕組みという対策を取ることができます。
F社長は言いました。
「先生、では改めて、半年前に入社した彼が辞める理由を一緒に考えていただけますか?」
私は、「はい、ではさっそく・・・」。
そして、F社長は、また仕組みの改善に向かったのでした。
(この採用された社員が半年で辞める理由とその対策については、今後のコラムで)
まとめです。
仕組みが担うものが「再現性」にあるだけあって、それは、いつも同じ結果を与えてくれます。良い結果も悪い結果も、同様にです。
この仕組みのつくり方を社長は、何としても身に付ける必要があります。
それを身に付ければ、会社は再び成長し始めます。そこで、社員は力を発揮できるようになります。
この先、その状態は、そう簡単に崩れることはありません。後戻りは無いのです。もし崩れたとしても、短期間で持ち直すことができます。それは、社長の中にあるのです。仕組みづくりが、社長の強みになるのです。
そして、数年もすれば、それは、会社の力になってきます。社員全員が仕組みの発想で仕事をするようになります。その結果、仕組みこそが『会社の強み』になるのです。経営計画書の『強み』の欄に、それは記載されることになります。
仕組みこそが、当社の強みです。
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