事業承継についての提言。50代・60代の経営者は読んで欲しい。
M社長は、父より会社を承継しました。
ラッキーなことに、M社には、事業、仕組み、そして、組織がありました。これは、社員50名という規模の中小企業では、非常に稀なことです。
しかし、それでも、その多くを理解するには、3年という時間が掛かりました。それと同時に、社長という役割が何となく掴めるようになってきました。
「今後、事業をどのように伸ばしていくのか?」
「今期の重点目標を何にするのか?」
この決定こそが自分の役目であり、それによって会社の未来が決定付けられるのです。
そして、気づいたのです、「社内に相談できる相手が全くいない」ということに。
多く中小企業が、事業承継の問題を抱えています。
「承継できる人がいない」のです。
しかし、この根本は深いところにあります。
「なぜ、承継できる人がいないか」ということを考えなければなりません。
その理由は、『仕組化ができていないから』となります。
(このコラムをお読みの方には、すぐに理解できると思いますが。)
まず、事業が出来ていません。
「クリエイティヴが必要で、個人の能力頼りである」または、「特色がなく、顧客に刺さっていない(昔からの基盤で食べている)」。
そして、仕組みがありません。
「案件がどうなっているのか、訊かなければ把握できない」、「人に業務が付いており、替わりが効かない、採用した人の戦力化に時間が掛かる」。
その仕組みを変えていく、組織が機能していません。
「各部門の管理者が、全く機能していない」、また、「未来について考えている社員がいない、今日を生きる社員ばかり」。
この状態です。
事業承継する相手が、今居るにせよ、居ないにせよ、これらを整備する必要があります。
この状態では、承継する相手が現れたとしても、「その人のその後の苦労が、並大抵でないこと」は容易に想像が付きます。
そして、いよいよという時に、売却という選択も出来なくなります。
それ以上に、この状態であれば、「その相手が現れる可能性」は無くなります。
息子や娘から観ると、全く魅力的ではありません。父親は、社長と言いながら、遅くまで仕事をしています。また、それほど良い暮らしをしている様には見えません。
また、社内から、その候補者が現れることも無いのです。社内を観ると、毎日同じ作業を繰り返す社員と、「名ばかり管理者」しかいません。
仕組みが無いために、能力のあるはずの社員が、力を発揮することもありません。また、社員に、考える機会を提供できていなのです。そのため、育つことも無いのです。そして、管理者に任命しても、その土台となる仕組みが無いので、機能するはずも無いのです。
その結果、「社内から優秀な社員が現れる可能性」は極めて低い状態になっているのです。
では、優秀な人を採用すれば良いのではないか?
残念ながら、それも出来ないのです。
優秀な人は、「良い会社かどうか」をすぐに見極めてしまいます。強みも無い、仕組みの無い会社を、あえて選ぶことをしないのです。そして、万が一採れたとしても、数年で、見切りをつけて辞めていってしまうことになります。
それを、いままで続けてきたはずです。
今できることは、仕組みをコツコツ作り上げることです。それが、最善であり、最速の取組みなのです。
その取組みにより、優秀な人を採れる可能性を高めることができます。また、自社内から育つ(現れる)可能性も高まります。
そして、息子が継ぎたいと言い出す可能性も高まり、息子が継いだ後に苦労する度合いは確実に下げることができます。
奇跡を当てにしてはいけません。事業もダメ、仕組みも無い、組織も機能していない。そして、現状、人も育っていない。この状態で、後継者の出現を望むことは、唯の「成り行き任せ」なのです。
まずは、今の会社を変えることです。まずは、自社を「立派な会社にすること」です。
M社長が会社を継いだと同時に、父は会長になりました。そして、会社と距離を取るようになりました。出社するのは週に数回、後は経営者団体で地域貢献に勤しんでいます。
事業も仕組みも組織もある会社です。
後継者であるM社長が、すぐに何かをしなければという状態にありません。
(それどころか、何もしないほうが良いのです。功を急いで、失敗する後継者が多いのです。)
3年が経過すると、会社のことが、随分解るようになってきました。
事業は、現状の事業モデルのままでも、まだ伸ばせる余地があることが解りました。
その一方で、仕組化も組織化も、それほど出来ていないことも解りました。属人的な業務が多く残っています。また、管理者も社員も、その日の作業ばかりをこなしています。
会長時代にも、経営計画書は有りました。しかし、そのPDCAが回されていない状態だったのです。問題が起きれば、すぐに社長が駆け付け、指示をすることで、対応してきた組織だったのです。
その結果として、対策としての仕組化が進むこともなければ、社員が「考える」という状態にもなっていなかったのです。
それでも、会長がトップであった時には、問題無くやれていました。会長の強いリーダーシップとカリスマ性に、社員も付いて来てくれました。ひとつ号令を出せば、すぐに動いてくれます。
会長と同じ経営スタイルは、当然、M社長には、無理なことです。その個性も、その能力も、そして、その経験も全く違うのです。当然、人間的な厚みもまだ備わっていません。
そして、今の会社の規模で、そのスタイルの限界が来ていたのです。
その時、M社長は、気づくことになります。
「自分には、社内に相談する相手が全くいないのではないか。」
会長はいつでも相談に来いと言ってくれます。実際に、相談に行くと優しくアドバイスをくれます。その中にも、良いものもあれば、それは「会長だから」というものもあります。また、会長に「仕組化」の発想が無いことも解りました。また、社外には、税理士などの専門家もいます。
しかし、肝心要の社内には、居なかったのです。会社の方針や改善の目標を相談できる社員は誰一人いなかったのです。
古くからいる番頭的な幹部は、会長とともに退職をされました。2名いる部長と話すと、協力的ではあるものの、「指示をください」という状態(レベル)だったのです。
M社の実情は、「社員が育たない」、「優秀な社員がいない」という会社だったのです。
その段階で、M社長から当社に相談がありました。
あれから、4年が経っています。完全に仕組みで回る会社に成っています。
会社として、成長サイクルを回せています。その結果、社員が仕組化に参画するまでになっています。そして、その中から、M社長とこの先の方針や目標について、ディスカッションができる社員が複数名いる状態になっています。
M社長は、言われました。
「後継者にとって、協力者がいないという状態は、非常に心細いものです。世の後継者は、皆こんな思いをしているのでしょうか。」
この時、M社長は、「協力者がいない」という表現をされました。
相談する相手もいない、そして、何かを社内に展開する時もなかなか実行してくれない、その状態がつい最近まで、続いたのです。
「その当時は、まるで社員が抵抗勢力のように感じられました。」とも言われていました。
以下、50代、60代の経営者の方への私からの提言となります。
後継者のために、仕組みをつくることは当たり前です。これは、現状の会社を良くし、社員を活躍させるためにも必ず必要なことです。粛々と取り組んでいきましょう。
そのうえで、後者者と一緒に未来について考えられる社員を増やしておきましょう。
それは、1名ではありません。複数名必要です。そして、その考えられる社員が、各階層や各部門に居る状態にしておきましょう。
その状態であれば、後継者が会社を継いだ時に、少なくとも相談する相手はいる状態にできます。少なくとも、何かの意見を求めれば、何かしらの自分の考えを述べる社員がいる状態にできます。
そして、その状態にあれば、それ後数年以内に、後継者と一緒に、経営について真剣に考え行動するメンバーが現れます。彼らは、若く、やる気に溢れています。
後継者とそのメンバーで「経営チーム」を立ち上げることも期待できます。
少なくとも、その可能性を引き継ぐことはできるのです。
一般的に、事業承継の準備には10年かかると言われています。
その通りだろうと思います。後継者を育てることはそれだけ大変で時間が掛かることなのです。
そのうえで、私は、『最短で5年』と考えています。
その根拠は明確です。実際に、それを成してきた会社があるからです。
仕組みの全くない会社が、仕組みで完全に回る会社になるのに3年。
その後は、その仕組みのなかで社員が育っていきます。また、優秀な人がどんどん集まるようになります。そして、いま、その中から、事業部長や子会社の社長が現れだします。
そこまでの最短が5年なのです。
グループ会社内のいち会社の社長を、本当の意味での「社長」と呼べるかどうかは、ここでは触れません。しかし、少なくとも、「会社の未来」については、本気で議論ができるレベルにはあるのです。そして、この瞬間も、その会社では、次の候補者が育っていっているのです。
この状態が「事業承継」の理想形であると言えます。
私は、そんな会社を複数見てきました。
50代、60代の経営者の皆様、今から手を付けてください。
時間がそれだけかかるのです。それは、特別なことではありません。
いまの仕組みづくりの延長にあります。
後継者が現れる可能性を高めてください。
後継者が継いだ後に、うまく行く可能性を高めてください。
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