第52話 10年間本当に書きたかった本
「先生、お客さんが、うちの商品のパッケージを見るなり、試飲もしてくれないんです」
ある飲料メーカーの社長が、百貨店のバイヤーに商談に行ったときの話です。味に自信があったその社長は、がっくり肩を落として、当社に相談に来ました。
※カテゴリーキラーとは、競合他社を圧倒する差別化された強い商品・サービス・事業のこと。
こういったご相談は、本当に多くあります。
これは、サービスでも同じで、「当社のサービスを使ってもらえれば、その良さを理解してもらえるのですが、試用もしてくれません・・・」とお話しされる方もいます。
このような話を聞くたびに、残念な気持ちになります。
実際に拝見すると、商品そのもの、例えばパッケージデザインから、その商品の良さがまったく伝わってきません。
また、サービスであれば無形のものである以上、それを伝えるためのパンフレットなど、特に重要な説明資料からも、その良さがまるで伝わってきません。
その商品やサービスの魅力が、商品やパンフレットなどから伝わってこないのでは、買い手も、手に取ろうとしません。
残念ながら存在感のない商品やサービスが日本中にあふれています。
そして、その商品やサービスが魅力的に伝わっていないことや、そのことがお客様に購入してもらうために大切であることの重要性を認識できない方も多くいます。
少なくともこのコラムを読んでいただいている方は、魅力的に伝えるためのブランディングが課題であるということを少なからず認識されていることでしょう。
本当は、その課題認識さえもできていない方に気づいてほしくて、10年以上書きたいと考えてきた、ブランディングの書籍を出版しています。
私たちは、10年以上事業を行ってきた中で、いまだに、中小企業のフィールドにおいて、ブランディングの大切さがなかなか知られていかない、ということにもどかしさを感じます。
そのためには、これからも私たちの努力が必要なのだと思います。
これまで、どれだけの商品やサービスが開発されて、結局、日の目を見ずに、ひっそりとなくなっているのでしょうか。
多くの場合、食品であれば、食べれば本当に美味しかったり、サービスであれば、使ってみれば本当に良いサービスだったりするのに、です。
作り手がこだわってつくっていることが、本当に伝わってくるものもあります。話をじっくりと聞くと、そんなにすごい商品なんだ、ということがよく理解できます。
しかし、その商品やサービスの良さが一瞬で伝わらず、本当にもったいない、と感じてしまうことが多々あります。
お客様は、そんなにゆっくりと時間を取って理解してくれようとはしません。一瞬で、その商品の良し悪しを判断し、他のものへと目移りし、本当に自分が必要だと思うものを選びます。
おそらく作り手も買い手になると、この行動を自然としているはずなのです。
しかし、こと作り手、売り手になると、お客様の視点を忘れてしまい、商品やサービス開発には力を入れるものの、お客様に魅力的に伝えようとすることを怠ってしまいます。
試食やお試しなどで使ってもらったり、食べてもらう機会を増やす活動は大切です。その体験によって、広まる機会もあるからです。
しかし、そもそもお試しをしてもらうこと自体も、商品やサービスの価値が魅力的に伝わらないとなかなか興味を持ってもらえません。
無料が当たり前のように、どこでもかしこでもプロモーション手法として使われてしまう昨今、そのことに魅力を感じることも少なくなっています。
ですから、お試しなどのプロモーションを行う前に、商品・サービスそのものの魅力を徹底的に考えて、ブランディングしていく必要があるのです。
BtoB(Business to Business:企業間取引)の場合、特に気をつけなくてはいけないのは、新規の商談で会ってくれるチャンスが少ないということです。
会社や商品を紹介して、魅力がないと一度でも思われたら、2回目に会ってくれる可能性はかなり低くなります。そのために、できる限り初回から魅力的に伝えていく工夫が必要です。
ところで、マーケティングやブランディングという商売柄、海外へ行く機会があります。
以前、アメリカで開催された食品系の展示会へ視察に行ったことがあります。大きく陣を取っている有名な企業から、本当に狭く小さなブースで展示している、まだスタートアップのベンチャー企業・中小企業などさまざまな規模の会社の商品が並んでいます。
それらを視察して気づくことがあります。
それは、日本で行われる展示会との違いです。日本では大企業の展示会ブースは、お金もかかり、豪華にアピールすることを意識されてつくられています。
しかし、中小企業はどうかというと、そのブースはなんとも地味で、パッとしない飾り付けと商品サンプルが乱雑に置かれている様子を目にします。スタッフもつまらなそうに立っていたり、椅子に座って横のスタッフと話をしています。
しかし、アメリカの展示会では、小さな企業のブースでも商品を絞り込み、しっかりとその価値や良さが伝わるように、「言葉」や「ビジュアル」を工夫して、本当に価値あるものとしてのアピールが上手です。フラッと寄ったブースの女性担当者は、おそらく社長なのだと思いますが、目をキラキラと輝かせて、必死に商品をアピールしてきます。
これらの違いは、商品の良さをいかにして魅力的にアピールするか、その姿勢があるのかないのかの差なのだと思いました。
おそらくアメリカの文化として、個という自分をいかにアピールするか、という教育を受けてきたから、また欧米でこれまで培われてきた文化との違いがあるからでしょう。
一方で、日本の文化は、どちらかというと謙虚、あまり目立たずに、出る杭になって打たれないような文化で、成り立っているところがあります。
個人レベルで見ると、それは美徳としての良さがありますし、どちらが良いとか悪いとかを結論づけるつもりはありません。
しかし会社や商品は、それではいけません。
目立ってなんぼ、売れてなんぼの世界です。
もちろん人を不快にさせるような下品な方法までとって目立てばよいということではありません。
ただ、人の目を引くようなアピールができていなければ、その存在はないのと同じだということを言いたいのです。
せっかくつくった商品・サービスが埋もれて、相手にされないのは悲しくありませんか?
良いものを良いものとして理解してもらいたい、扱ってもらいたいと思いませんか?
残念ながら、商品やサービスが魅力的に伝わらなければ、その商品やサービスの存在は、お客様に認識されません。
さて、冒頭でご紹介させていただいた飲料メーカーの社長が、「先生、お客さんが、うちの商品のパッケージを見るなり、試飲もしてくれないんです」と、百貨店のバイヤーに商品採用を断られてしまったことをお伝えしました。
その後、商品の差別化から見直して、大幅にブランドリニューアルをしました。
ここでも、商品名やパッケージのデザイン、またパンフレットなどの各種ツールも見直しました。
それから数ヶ月経って、社長から報告を受けました。
「あの後、百貨店のバイヤーと商談に行ってきましたが、その結果、商品が採用されました!ありがとうございます。商品をパッと見て、パンフレットなどもお見せして、商品コンセプトを説明したところ、そのバイヤーが、採用したい、と言ってくれたのです! まだ試飲はしてくれていないのに・・・」
結局、試飲もせずに百貨店のバイヤーが採用してくれた、とその社長は苦笑していました。
いかがでしょうか?
商品・サービスの価値がまったく魅力的に伝わらないということは、キツい言い方をすれば、ないものと同じ、つまり、「存在感のない商品・サービス」だということです。
いま一度、自社の商品・サービスは、魅力的かどうか、ブランディングができているかどうかを確認してみてください。
株式会社ミスターマーケティング
代表コンサルタント
吉田 隆太
【追伸】
当社では、毎月、商品開発や事業開発、そしてブランドづくりについて、セミナーを行っております。
自社の事業が今ひとつ伸び悩んでいる、競合環境が悪化し、価格競争に陥っている、新商品、新サービスを開発したが、売れ行きが芳しくない、と感じている経営者の方に向けて、どのように、戦略を組み立てるべきなのか、といった内容を、具体的な実践事例とともにお伝えしています。
もし、何かそのような課題を少しでも感じているようでしたら、一度、当社のセミナーにご参加ください。
必ず、あなたにとって気づきやヒント、そして今後の取り組む方向性を掴むことができます。
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