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奇跡の庭

SPECIAL

住宅・工務店コンサルタント

株式会社 家づくりの玉手箱

代表取締役 

住宅・工務店コンサルタント 。規格住宅を高付加価値化させ、選ばれる工務店となる独自の展開手法「シンボルハウス戦略」を指導する第一人者。
営業マンとして自分が欲しいと思わない住まいをお客様にお勧めする仕事に疑問を持ち、ある工務店でどうしても家を建てたくて転職、鹿児島へ 。15年間で173棟の住まいづくりをすまい手目線で担当。そこから編み出された、選ばれる工務店となる具体戦略を、悩める中小住宅会社ごとに実務指導中。

鹿児島にしかない『場所』

 

鹿児島にクライアントが来られた際には、たいてい自宅を見学していただく予定になります。築20年を迎え「住まい」としての「理想形」を感じる場として相応しい時間を経たからです。

また、その経過や変遷をずっと見てきていますので、途中のことも遡ってお話できる事も大きな理由です。一冊まるごと自宅ネタの本(書籍 家づくりの玉手箱)では新築後約10年間の内容が見ていただけるのですが、あれから更に10年も経ってしまった訳です。

ぶっちゃけ書籍発刊の折には「お客様に見ていただけるのはここまでかもしれない」との思いでした。内心は何とか頑張って10年はもたせれば、それ以降は後に続いて新築した「後輩たちの自宅を順次見ていただければいい」という感覚でした。そこまでメンテナンスに自信がありませんでしたし、10年過ぎれば家は劣化する部分が目立ってきて「見学価値」を失ってしまうと考えていたのでしょう。

しかし、実際には違っていました。確かに劣化する部分はたくさんありますが、その部分を差し引いても余りあるほど築20年の家には「語りかけてくるもの」があるのです。こういった事は頭で考えていてもわからない分野であり「体験」をもって「確信」に至る類いのものです。

鹿児島県の、いちき串木野市というところにすごい居心地のカフェがあります。おそらく鹿児島にしかない『場所』といって差し支えない居心地です。営業マン時代に担当させていただいた建物です。

何年かぶりに現在のクライアントとご一緒させていただきました。もうここも20年です。敷地は2400坪ほどあります。自宅の45倍です。建物もさることながら庭の魅力がすごい場所です。「今はどうなってるかなあ?」という気持ちとともに訪ねてみたのですが、驚くべき「場所」になっていました。

 

 

↑20年を経て円熟味を増す『庭カフェ』

↑写っている範囲ほぼ敷地です(葉っぱひとつ落ちていません!)地面からニョキニョキ出ているのは湿地が好きなラクショウの木の呼吸のための根「気根」

 

↑「安定」カボチャのプリン(なつかしい味です)

 

 

細長い形状の敷地の手前側には駐車場があり、車を駐めると岩清水のちょろちょろ流れる音が迎えてくれます。右手に里山と岩清水、左手に沢の流れを感じながら歩みを進めると尾瀬沼のようなアプローチを渡って店内にたどり着きます。

その店内の奥には、さらに想像以上の広さの芝生の庭が広がっています。そこは少しずつ登っていっています。そしてずっと奥のほうが狭まっているので、ゴルファーにはグリーンがあって旗が立っていそうに見えます。

ラクショウの大木が何本か立っていますが、何れも新築時にこの場所にあわせて選んで植えたものです。現在では建物より大きくなっていて、元々この場所に生えていたようにしか見えません。湿った土が好きな木ですが、呼吸のための根(気根)が点々と出てきている風景は「ムーミン谷」のような不思議さがあります。

新築前にはオーナーの手作りスイーツの「試作品」を打合せの度に試食させていただいたものです。まさに「役得」と言えるものでしたが、現在でも変わらぬ味が楽しめました。それほどに「開店前」からルセット※は完成されていたのです。

 

※ルセット:【仏:recette】調理や製菓の配合や作り方、写真などが記載されているもの。レシピ【英:recipe】と同義。

 

ご一緒させていただいたクライアントは「落ち葉ひとつ落ちていない!」と驚嘆されていました。確かに。雨上がりにもかかわらず、本当に落ちていない。大きな木、低木や下草にも行き届いた手入れもさることながら、毎朝の掃除の徹底ぶりには私も驚きました。もう20年ですから、我が家同様「少しは荒れてるかな」などと思っていましたが。

 

 

「ローマ」は一日にして成らず

 

ここは、まぎれもなく広さ最高記録の敷地でした。ゴルフ場のミドルコースぐらいの広さですから、どこに建物を建てるのか?すぐには見当がつかず、何度も測量作業に通った思い出があります。現在建物が立っているのは、里山や岩清水、新たに植える木との関係性を探りつつ、ようやく決まった位置です。

測量しているときは、正直「仮に建物が建ったとして管理できるのか?」といった印象を持ちましたが、お施主様と話しているうちに「ここは人が集まってくる場になる。時間と共に魅力を増す居心地になっていく」と確信するようになりました。そのぐらい確固たる「価値観」と「意思」を感じさせる人柄でした。

ここは里山の麓の沢に沿った土地で、里山からの岩清水がほぼ年中流れてくる湿地でした。現在ある池は新築時に造園の一環としてつくった池です。水源は岩清水で、オーバーフローした水は沢に流しています。訪れた際にも、20年前と変わらぬ水音を立てていました。

ある方がここの岩清水を見て「素敵。目黒雅叙園みたい」と評しておられました。目黒雅叙園は東京都目黒区にある、結婚式場・ホテル・レストランなどの複合施設で木造の旧館は「昭和の竜宮城」とも呼ばれ、東京都指定の有形文化財(建造物)に指定されています。

映画「千と千尋の神隠し」の湯屋のモデルにもなったもので、昭和初期における芸術家達の求めた美と大工の高度な伝統技術が融合した素晴らしい装飾となっているそうです。その方曰く、そこにある庭園の空気感だと言われるのです。

目黒雅叙園よりはずっと自然のままの場所ですが、行き届いた手入れがその方にそう言わしめたのでしょう。これも、決して一朝一夕にそうなるものではない事です。

 

 

↑最近の様子(本当にミドルコースみたいです)

 

↑建築前の様子(測っても測っても終わらない測量でした)

 

↑ある方が「目黒雅叙園みたい!」と言われた天然岩清水

 

 

「20年」は長いのか?

 

ゆっくりと居心地を満喫して、この場を発つ際にオーナーから呼び止められました。「吉岡さん、今年の夏休み期間を利用してデッキの塗装をやろうかと思うのですが…」と、塗料や道具・手順についてのご質問でした。

ほぼ『同級生』の家を持つオーナー同士、使っている材料も塗料も同じなのです。また、私なら「可能な範囲で楽で効果的な方法を実践しているだろう」と踏んでのご質問だったようです。なんとも光栄な事です。

店内の床もいい具合に年季が入ってきてましたし、外部のデッキも雨風で洗われていい感じになっていました。「塗装すると、木目が消えてしばらくのっぺりになりますよ」と、「耐久性」と「風合い」が両立しにくいことをお話しました。

何しろここでは、夏場でも網戸もしないで開け放しているのです。室内と屋外の床が同質化して、京都の清水寺のような様相になっていました。私には、塗装するのが少しばかり「もったいない」ぐらいに見えました。

来店客は皆さん、遠方から遥々とこの場所のために走ってきた人たちばかりのようでした。それゆえに滞在時間は長めです。庭で自由に散策して過ごす時間も楽しんで帰られます。そして、たくさんの写真を撮ってそれぞれネットにあげて思い思いにコメントしてくれるのです。

 

 

↑京都清水寺のような雰囲気になった床とデッキ

 

↑愛車ボルボ(92年式)がよく合います(オーナーの車と勘違いされ来店客にバシバシ撮影されていました 笑) 

 

 

建物が出来て20年経つこの場所が、シンケンの「新たなお客様」を産み続けていることは間違いのない事実です。

 

 

社長の会社では築20年以上経過した「OB様宅」はありますか?その「住まい」は、社長の「理想」を世に放つものになっていますか?

 

 

 

 

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