誰一人取り残さないデジタル化の条件
先日、友人がこんな話をしてくれました。
彼女の父親が口座を持っているとある金融系の会社のはなし。ご多聞にもれずデジタル化が進んでいて、自分の口座を見るにもパソコンやスマホが使いこなす必要がある。ところが彼女の父親はすでに80代。しぶしぶ持たされたスマホで電話することはできるものの、自分の金融口座のマイページにログインすることなど、ほぼ不可能。
それでもチャレンジしようとやってみたものの、まずIDがわからない。パスワードなどさらにわからない。というわけで、コールセンターに電話してみたそうです。
ところがコールセンターのお姉さまの説明が理解できない。「マイページ」とか「ID」とか説明されても、何をどうすればよいかさっぱり。そのうえスマホのアプリだって、どこをどう使えばいいかわからないので、「郵便で書類を送ってほしい」と伝えたのですが、相手は、オンラインで疑問を解決するべく、ぐいぐい話を続けてくださったとか。
そのやりとりを横で聞いていた私の友人、だんだん怒りがわいてきたと言います。
コールセンターの女性の知的な話しぶりから感じられる思いやりのなさ、どこか面倒くささを含んだ声のトーン。「デジタルが理解できないなら電話してくるな」くらいの勢いで、どっちが客かわからなかったと。
結局最後は郵便で案内を送ってくださることになったのですが、友人のお父様いわく「最初から、郵便でいいって言ってたのに…」。
なんというか、国を挙げてデジタル化を進めるのは悪い話じゃないのですが、それによって自尊心を傷つけられる人がいることに、もっと配慮してもよいのかなと思った次第です。
「誰一人取り残さない」は最近のトレンドワードで、マーケティング的にも社会的にも素晴らしいコンセプトです。だったら、もう一つのトレンドである「デジタル化」にも「誰一人取り残さない」コンセプトを取り入れた方がいいんじゃない?と。
それは、相手を見ながら、アナログの選択肢も用意するというようなことです。デジタルでぐいぐい押す前に、デジタルNGの人に対して、早めに代替案を出してあげるというようなことです。
コロナ禍以降にオンラインミーティングが一挙に普及して、ほとんとの人が当たり前に参加できるようになった現在でもまだ「取り残されている人」はいます。そういう人に、無理やりデジタル化を指南してもいいですが、アナログの方法を残しておいても良いのではないでしょうか。それは、たとえば、同じオンラインミーティングに参加する人の家なり事務所なりに出向いて、一緒にミーティングに参加するといったことです。
こういう優しい考え方のなかに、デジタルを超えた新しいビジネスチャンスが眠っているのではと思うのです。
正直言うと、パソコンのソフトがうまく使えない人に、その使い方を教えるのは忍耐がいります。コールセンターのお姉さまのご苦労もいかほどかと思います。だからこれはコールセンターのお姉さまの問題ではなく、デジタル化をどう考えるかという会社や社会の問題だと感じます。
デジタル化を進めると、取り残される人が多い。これでは、たぶんダメで、取り残される人がいないデジタル化の方法を考える必要がありそうです。
以前、ITエンジニアの方からこんな話を聞きました。
蛇口のひねり方や家電のプラグのさし方は、いちいち教わらなくても、みんな自然にやっている。デジタルだけは、パソコンやスマホの操作方法を覚えないと使いこなせない。これはデジタル技術が未熟なせいだと。
未熟なデジタルをぐいぐい進めるのではなく、デジタルの方が水道の蛇口やコンセントのように人間フレンドリーに進化する必要があるという意味で、すごく感動したのを覚えています。
こういう考え方の転換が、新しい事業を生みます。
ぜひ一緒に考えましょう。
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