企業体にとってのウェルビーイングとは
「ウェルビーイング」、最近あちこちで耳にするようになったコトバです。ちょっと前のサステナビリティと同じような文脈で使われることが多いようです。~を追求する、だとか、~を実現するために必要なこと、みたいな言い方で。
ネットで意味を調べると、ウィキペディアには「誰かにとって本質的に価値のある状態、つまり、ある人にとってのウェルビーイングとは、その人にとって究極的に善い状態、その人の自己利益にかなうものを実現した状態である」という解説が出ていました。この解説からすると、元々は個人を対象とした概念のようです。
調査会社のギャラップは、ウェルビーイングの構成要素として5つの切り口を定義しています。それは①キャリア上のウェルビーイング、②社会的なウェルビーイング、③金銭的なウェルビーイング、④健康面のウェルビーイング、⑤コミュニティにおけるウェルビーイングの5つだそうですが、「企業にとってのウェルビーイング」と言われると、これら5つの切り口のように、従業員向けの施策に反映されるべき視点という捉え方が一般的です。
そこで今日は個人そして人間社会にとってウェルビーイングが重要な視点であるならば、同様に法人としての企業体にとっても重要な考え方ではないのか?ということをお話ししてみたいと思います。
企業体が「ウェルビーイング」を実現している、とはどういうことなのか。これまで議論されることが多くなかった命題ですが、ここではギャラップの定義になぞらえてみます。すなわち、①キャリア:業容発展の実績と計画が確かなこと、②社会:社会的に充実していること、③金銭:財務的に健全なこと、④健康:物理的なトラブルがないこと、⑤コミュニティ:業界が健全なこと、というような見方だろうと思われます。
ここでいう①の業容発展について、かつて右肩上がりの時代には、シェア拡大や成長性が言われた視点だと思いますが、昨今はむしろ質的向上が問われる視点かもしれません。②の社会的充実や⑤の業界健全性はこれまでもあった視点かもしれませんが、必ずしも評価視点として不可欠なものではなかったためか、多少悪化しても問題視されず、何か不祥事があってから初めて「そう言えば・・」と指摘されることが多かったように思います。④の物理的トラブルも含めて、当事者からすれば分かり切った話であると同時に、わざわざ情報開示される項目ではなかったため、トラブルを抑止したり状況を改善したりする効果にはつながっていなかったのではないでしょうか。
具体的な例として、先ごろ観光船の沈没事故を起こした有限会社知床遊覧船について5つの視点から見てみると、報道されているだけでも①の発展性については、会社が身売りされるなどの経緯でアップダウンがあったようですし、②の社会的充実や⑤の業界健全性については、同業者からの運航アドバイスを無視したり、監督官庁による有名無実の監査がまかり通るなど、全くおざなりになっていたこと、④の物理的トラブルが通信設備に発生していたことなどが見えてきます。
そもそもが、これまで実績のあったベテラン船員を人員整理の対象としていたことなど、従業員向けのウェルビーイング達成度が低い会社であったことが窺えるのですが、改めて見直すと企業体そのもののウェルビーイングもだいぶ低そうな状況であったことがわかります。
今回の事故を受けて、業界では一斉に安全点検の強化が図られたり、情報開示を進めようとする動きが起きているようですが、本質的にはむしろ企業経営者自らが日頃から企業体のウェルビーイングを目標とし、その実現に全力を尽くすことこそが求められるのだ、ということを認識するための良い機会になったのではないかと考えます。
顧客にウェルビーイングを提供するためには、従業員のウェルビーイングが重要だとはよく言われる話ですが、従業員のウェルビーイングを実現するためには企業体そのもののウェルビーイングを達成することが重要だと言えます。このような視点から、ぜひ一度御社の現状を分析してみてください。
自社のウェルビーイング実現を通じて社会全体へのウェルビーイング波及を目指す経営者を、当社はいつでも全力で支援しています。
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