経営者の義務
先日、農産物を生産する方々のお話を聞く機会がありました。トマトやきくらげ、米やい草など、私たちが普段接しつつも、「まったく知らなかった‥」と痛感するような、大変興味深いお話を伺うことができました。
各生産者の方々に共通するのは、生産物に対する「熱意」と「誇り」です。消費者のために本当に良いものを作りたい、広げていきたいという「熱意」、そして地域の自然や文化、培われた技術、良質な資源に対する「誇り」をヒシヒシと感じました。それらを下支えするのは、「私たちが責任を持って継続し、未来につなげていく」という使命感です。
実際、本当に良質なものが素晴らしい環境で作られています。私自身、外部に対して自慢できるような逸品がこんなに近くに、こんなにたくさんあるのか‥と自分の無知を恥じています。 ‥と同時に、生産者側からもっと積極的に価値を伝える必要性も感じました。
もちろん、ホームページやSNSで最低限の情報発信はされていますが、品物や品名をまったく知らない人にはなかなかたどり着けないでしょう。生産者が未知の消費者との接点を増やすには、さらなる工夫が求められます。
この点、ふるさと納税制度を活用されている生産者もおられ、民間企業が運営するポータルサイトから消費者との接点が増えているとのお話もありました。販路開拓における手段の一つとして、行政施策の活用は非常に良いことだと思います。「ふるさと納税制度にすごく助けられている」という声も相当数上がっていました。
反面、当該施策は地域活性化に一役買っているものの、結局おんぶにだっこのような、販売は運営企業に丸投げかつ任せっぱなし状態になってしまい、生産者の方々自らの情報発信力、つまり「売る力」が身に付かず、成長を阻害している可能性もあります。加えて、政府の方針が変われば、あっさり施策が終了されるリスクもあります。
行政施策を活用しつつも、自ら発信、売る力を身につけることが業種業態問わず絶対的に必要だと私は思います。販売はプロに任せて‥という考えも間違いではありませんが、自ら売る力がなければ、経営のかじ取りがすべて人任せになってしまいます。
結局、どの市場でも「売る力」が文字通り相当な力を持ちます。生殺与奪権を握るのは、常に「売る力を持つ方」です。売る力とは情報発信力、すなわち「価値を伝える力」です。
翻って、冒頭ではお伝えしていなかった各生産者に共通することがあります。それは「安すぎる価格設定」です。強い使命感、熱意と誇りを持って作った生産物が、取引業者から安く買い叩かれるのは日常茶飯事で「苦労して作ったのに、こんなに安いのか‥」と何度も涙を飲んだそうです。
‥厳しいことを申し上げるようですが、生産者側から価値を伝えきれていないことが、買い叩かれる一番の要因だと思います。「良いものだから言わなくてもわかる」「良いものが必ず選ばれる」「自分たちは作るプロだから販売は関係ない」「売れないのは取引先の問題」「売れないのはお客の勉強不足」‥とここまではないかもしれませんが、少しでもこんな考えがあると、いずれ頭打ちになるでしょう。
安くなければ売れないのは、価値が伝わっていないからです(粗悪品は除きます)。今回お話を聞いて意外だったのは、生産者の方々は皆、自分が作っているものについて雄弁に語られることです(私の勝手な思い込みで、皆さん職人気質で無口と思っていました。すみません)。しかも、隠されたストーリーや熱い思いが心を揺さぶります。でもそれが言語化されておらず、当然発信もされない。
経営者の皆さん。これは生産者だけではなく、あらゆる中小企業にもあてはまることです。ぜひ自分たちが当たり前と思っていることでも、文章化して表に出してください。全国のお客様はそのことを知りません。価値を決めるのはお客様です。その材料を提供することは、経営者の義務だと私は思います。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。