第39話 下請けから脱却する方法
「うちの会社は、大手企業とたくさんの取引がありまして、商品はお客様企業の名前でたくさん出回っています。しかし、オリジナルの自社商品となると、どうもうまくいきません。どうしたらよいでしょうか。」
セミナーに参加された経営者からのご相談でした。
※カテゴリーキラーとは、競合他社を圧倒する差別化された強い商品・サービス・事業のこと。
このご相談を頂いた会社は、一般向けの日曜雑貨品を提供している会社で、素晴らしい製造技術を持っています。そして、中堅企業から大企業まで、多くの得意先企業から受託して利益を上げている会社でした。
しかし、ここのところ、利益率も下がり、売上も右肩下がりになってきていました。
そこで、これまでにもオリジナルの自社商品に何度か挑戦するものの、なかなかうまく売れず、どのようにしたら売れる自社商品が生み出せるのか悩んでいらっしゃいました。
この会社のように、下請けを脱却してオリジナルの自社商品を持ちたい、また自社商品をブランディングしたい、という経営者からの相談をよく受けます。
しかし、その際に、会社全体の戦略を確認させて頂くと気づくことがあります。それは、自社の市場環境をあまりよく把握されていないということです。
下請けの仕事が中心ということは、良く言えば、お客様企業の依頼をしっかりとこなして、よい仕事ができていれば継続的に売上が期待できます。
しかし、悪く言えば、黙っていても仕事はくるわけですから、どうしても経営体質が守りになってしまい、新しい売上づくりに取り組む姿勢が弱くなります。
守りだけでは、どうしても売上は下降していくばかりか、急激な市場環境の変化についてけなくなる可能性が高まります。
たとえば、ニーズやトレンドの変化、参入企業の増加による価格競争の激化、お世話になっていた担当者の移動や退職、取引先の見直しなど、そのことによって、もしも、大口のお得意様を失ってしまった場合は、守りだけの経営では対応できません。
これまで、10年以上、300社を超える会社とお付き合いをしてきて、そのような危機に陥った会社を幾度も見てきました。
そうならないためには、日ごろから新しい売上づくりに挑戦する姿勢を持ち続ける必要があります。もちろん、売上の柱である守りの仕事を失うわけにいきませんから、攻めと守りのバランスは重要です。
強い会社は、危機管理意識が強く、このバランス感覚が絶妙です。まずは、少しでも、できることから新しいことに挑戦して、その芽を拾っていく姿勢が大切です。
下請けという仕事は、得意先企業からすれば、ひとつの仕入れ先ですから、できるだけ安くして利益を確保したいと考えるのは普通です。その環境にいて何も手を打たなければ、年々価格競争に巻き込まれて、赤字体質になっていくことは必然です。
そこで、どんな打ち手を選択していくかが経営者に求められますが、その際のひとつのカードが、脱下請けです。あくまで選択カードのひとつですから、それ以外の方向性も検討する必要があります。
たとえば、
・これまでの既存の市場、特定市場で市場を広げていく
・強みが活かせる、別の市場で受託のビジネスを広げていく
・受託ビジネスだけでなく、自社商品・サービスを生み出し、売上をつくる
・BtoB(法人対象のビジネス)から、BtoC(一般消費者対象のビジネス)に打って出る
・反対にBtoC(一般消費者対象のビジネス)からBtoB(法人対象のビジネス)を攻める
・まったく新しい業界へ新しい商品・サービスにチャレンジする
などが考えられますが、
その会社のそのときの状況に応じて、最適なカードを選択する必要があります。
しかし、最適な選択カードを引くためには、「将来、我が社はどんな会社になりたいか」ということが決まっていないと、うまく選択カードを引くことはできません。
受託の仕事をしている経営者の中には、「ビジョンがなくたって飯は食える」と言う方もいますが、その考えは、受託の仕事が永遠に続くという前提があります。
しかし、その前提は、いつ何時崩れるかわかりません。競合に仕事を奪われるだけでなく、時には得意先企業自体が倒産してしまう可能性もあるからです。
社歴が若い会社や、逆に受託の仕事が10年、20年と続いている会社は、受託の仕事がいつまでも続くと錯覚してしまうようです。
当社では、危機を何度も乗り越えてきたような、100年を超える会社の社長も相談にこられますが危機意識がまるで違います。
そういった長い歴史を持ち、かつ高収益を保っている会社を経営されている社長で、そのような「受託の仕事がいつまでも続く」という前提を持っている方はいらっしゃいません。
時間軸のとらえ方と、危機意識がまったく違うのです。
私どもは、そのような経営者意識の違いを、数百社にわたって見ており、さらに、その会社の戦略構築をお手伝いしています。強い会社の共通点は、ビジョンと危機意識を両方持って、どちらも長期視点で対策を打っています。
受託ビジネスを主業とする会社が、ビジョンと合わせて、現状で認識しなければならない最低限のことは、現在の自社の市場環境を把握するということです。
そして、いきなり脱下請けに突っ走る前に、今の受託ビジネスで、収益を伸ばせる方法はないかということを考えることも大切です。
長い期間にわたって受託の仕事をやっていると、あまり市場のことを把握していなくとても、仕事が継続すれれば良い、ということで既存顧客だけに向き合っている会社は多いものです。
しかし、受託の仕事でも、しっかりと市場環境の把握をして、戦略を描き、さらにビジネスチャンスを検討することも大切です。
受託の仕事であっても、戦略を持って戦う会社と、そうでない会社は未来が変わってくるのは当然です。
受託事業を強化するか、下請から脱却するか。
この判断は、それぞれの会社のその時々の判断によります。現預金がたっぷりあり、リスクに挑戦できる環境であれば、下請けから脱却し、強い自社商品づくりをして未開拓市場に挑むという選択肢もあります。
余裕がなく、事業の未来に限界を感じて、下請けから今すぐ脱却する必要に迫られている会社もあるでしょう。実際に、余裕がある会社からも、余裕がない会社も、そのときの経営判断で、当社にご相談にこられて、一緒にカテゴリーキラーづくりに挑戦しています。
もし、それほど余裕がない会社であれば、できればリスクの高いことに挑戦する前に、足下の受託の仕事を活かした戦略を考えることが得策です。
全く新しいことではなく、現在の受託の仕事をカテゴリーキラー化して、どんどん仕事を増やしていくという考えもあるのです。
当社が依頼されるプロジェクトの半分は、現在の既存ビジネスをいかに強いビジネスに仕上げるか、業界で突き抜けたカテゴリーキラーといえる事業にできるかというテーマで取り組んでいます。
もちろん、既存ビジネスをテーマに業界で突き抜けるといっても、そう簡単ではないですが、社長を中心に幹部社員が意識をあわせながら必死で考え、丁寧に仮説検証を積み上げていくことで、自社に有利な戦略を構築できます。
下請けからの脱却に急ぐ必要がなければ、既存ビジネスの戦略の確立を中心において、さらにビジョンに向けての新しい一手を打っていく考えもあるのです。
もし、あなたの会社が受託の仕事が中心であれば、
これからの会社のビジョンと具体戦略はどのように考えていますか?
株式会社ミスターマーケティング
代表コンサルタント
村松 勝
【追伸】
受託事業を脱却した会社や、受託事業でカテゴリーキラーづくりに挑戦している会社の具体事例を当社書籍で紹介しています。まだ、お読みになっていない方はぜひご一読下さい。
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