忙しくて新規事業が立ち上がらない社長へ
「先生、現業の仕事が忙しくて新規事業を検討する時間が取れていません。こうやって世の中の新規事業というのは潰れていくんですね・・・」── 不動産業のH社長は、私が席に着くや否やこうおっしゃいました。
同社とはこの数か月かけて新しい事業モデルの可能性を模索し、非常におもしろい事業のカタチが見えてきたのですが、いかんせん現業もH社長がフル回転で廻しており、なかなか新規事業を前に進めるための時間が取れないとのこと。
これはH社長に限らず多くの経営者が直面する課題です。中小企業の多くは限られた人材リソースでパンパンの仕事を廻していますから、余裕を持って新しい取り組みのために時間を取るなんていうことはなかなか難しいというのが現実でしょう。
そういった状況のため新規事業は一旦ペンディング…なんてことが世の中には多いことだと思いますが、ここは発想の転換で、忙しいときこそ新規事業を立ち上げるべきであると私は常々主張しています。
その理由は単純で、死ぬほど忙しいような状況でないと「今の仕事をちゃんと仕組み化しよう」「余裕を持って業務を廻せるようにしよう」といったモチベーションが持てないからです。
現業がどれだけ忙しくても、新規事業立ち上げのための一定の時間を事前に確保する── こうすることにより、嫌でもいままでの仕事のやり方を見直さざるを得なくなります。ちょっとドMな発想に聞こえるかもしれませんが(笑)、「もうだめだ、いままでのやり方では死んでしまう」という状況を人為的につくって仕事の仕組み化を進めるのです。
これはパソコンのハードディスクの容量を想定していただくと分かりやすいでしょう。容量に余裕があるうちは「とりあえず保存しておこう」という感じで、なんでもかんでもハードディスクの中に置いておきがちですが、いよいよ容量がいっぱいでパソコンが動かなくなってきたら誰でも不要なディスクを削除するはずです。そしてそのときに、「あれ、なんでこんな要らないデータを残していたんだろう…」といったものがたくさん出てきたりするものです。
これと同じで、仕事も実は無駄なことや成果に結びつかないものというのは山ほどあったりします。いわゆる「ムリ・ムダ・ムラ」というやつです。新規事業を立ち上げるために、そのような不要な仕事を思い切って断捨離するのです。
そうして残った「必要な仕事」についても、基本的にはそれを社員に移行し社長は手を空けていきます。社長の基本的な仕事は「決断」です。最終的な経営責任は当然ながら社長が責任を持ちますから、経営上の重要事項について決断するのは社長の仕事になります。そしてその決断に基づいてやるべきことを社員に依頼するのです。
私はコンサルタントになったときに「今後は手足はないものと思ってください」と師から言われました。コンサルタントが手足を動かしてクライアント先の業務をやってしまったら、それは指導でも支援でもなく「代行」であり、それではクライアント企業のためにならないからです。
これと同じことが社長にも当てはまります。社長がせっせと手を動かしていたのでは会社は成長できません。社長は手を動かしたいところをぐっとこらえ、目と頭と心を使います。「目(視点)」を使ってビジネスチャンスを捉え、そして「頭(知恵)」を使って事業モデルを構想し、進むべき道を「心」で決断するのです。
もちろん社長は情報を取ったり人脈を構築するために「足」を使うことも大事ですが、そのためにも普段事務所でせっせと手を動かす状態から抜け出す必要があるということです。
社長が社員に自らの仕事を移行する。その時が仕事を仕組み化する絶好のチャンスとなります。いままで感覚でやっていた仕事をロジックを使って整理し、考え方と手順を言語化していきます。仕事を受ける側の社員がそれをマニュアルにしていけばいいのです。そうすれば複数の人間がそれを担うことも可能になってきます。
家でも事務所でも、ものが増えてきてごちゃごちゃしてきたら、引っ越しをするのが一番整理整頓が進みます。いらないものまで新居や新事務所に持っていきたくないですし、持っていくものもちゃんと整理して置きたいですから。
仕事も同じで、社長の頭の中でごちゃごちゃになっているものは、思い切って引っ越しさせることです。いつまでも抱えていたら、社長も社員も、そして会社も成長しません。断ち切る力が必要になります。
ずっと手を動かしていると必ず視点が下がります。手元(社内)のことばかり見るようになってしまいます。しかし、ビジネスチャンスは外にあります。社長は上を向いて歩くのが仕事です。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。