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システム化の最大のリスク:「このシステム、使えない!」

鈴木純二
SPECIAL

顧客接点強化による成長型IT導入コンサルタント

ベルケンシステムズ株式会社

代表取締役 

顧客接点の強化を軸に、業績に直結するIT導入を指導するスペシャリスト。世に無駄なIT投資が横行するのと一線を画し、顧客の利便性向上、新規取引先、深耕開拓、利用促進…などを主眼に置いた、実益のIT活用と投資戦略を、各会社ごとに組み立てることで定評。

鈴木純二

ある企業からのお問い合わせを頂き、現状把握にお邪魔した時のこと。「現在使っているシステムは、6年前に導入したものなのですがほとんど使っていないんです。」と現場の責任者の方の弁。当然その理由を尋ねてみると、「必要事項を全部入力しないと伝票が出ない様になっているのですが、実際には正式な注文書を頂いていない時点で受注処理して生産準備しないと間に合わないので、後追いでシステム登録するしかなく、そうこうする内に入力すらしなくなってしまいました。」との答えでした。

このような「システムは入れたものの、使えない。使わなくなってしまった。」という事例は枚挙にいとまが無く、当社に相談される企業には多い事例ですし、世の中を見てもあちこちで発生しています。記憶に新しいところでは、厚労省の新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(通称ハーシス)でも、直接システム入力してくれる医療機関が増えず、結局FAXで連絡をもらったものを後追いでシステム登録する、という「作業負担増」となってしまった結果、リアルタイムに感染状況を把握できないどころか、正確な数字が把握できない、という本末転倒の状態に陥っているという報道もありました。

このようなことはどうして発生するのか?それは、

 あるべき論を優先しすぎてしまっている

ということに尽きます。言うまでもありませんが業務システムとは「ソフトウェアと人間のオーケストラ」です。人間とソフトウェアがそれぞれ役割と責任を果たすことによって初めてシステム全体として整合性が取れ合理的な流れの業務運営が可能となります。ところが、前述の様な事例については、「ソフトウェアが動作するための条件が多すぎで、人間の作業がそこまで追いつかない」という状況が発生することにより生まれた事象です。言い方を変えると、「理想論を追求するあまり、ソフトウェア側が人間に対してハードルを上げすぎた結果、オーケストラが成立しない。」ということになります。

ソフトウェアの仕様を検討する際、「あれもこれも・・・・」と全てを積み込むことが多々ありますが、それによって発生する弊害です。これは、これからソフトウェアの要件を決めよう、という人に必ず発生する「欲」でもあり、マネジメントが非常に難しいものです。いったんIT投資を決断した以上、よりよいものを導入したいと思うのは人間として普通のことなので、全てを否定できるものではありませんが、「システム化段階での欲張りは後々命取りになりかねない」のです。

さて、ではそれをどうやって適正な要求に落とし込めるのか?毎度決まり文句で恐縮ですが、その極意は「最低限のことから段階的に積み上げる、というポリシーでシステム要件定義を行う」ことです。絶対に「全部をいっぺんに実現しようとする」ことは避けねばなりません。

それに、システム化要求はシステムを運営している最中にもどんどん移り変わるものです。「現時点で最大限の要求を出す」ことができたとしても、それが完成するころにきちんと動くかは誰にもわかりません。それであれば、「まず初めのステップでは最低限ここまでやって、その後のことはその時点で再度見直して決めてゆく」という段階的システム化、今風に言い換えるとPivotの考え方を持つべきなのです。システム化当事者は、要求仕様を議論する最中にどんどん熱くなってきて「あれもこれも・・・」に陥りがちなのですが、そこを社長や経営層が冷静な目で段階的開発に正してあげることこそ、こんな問題が発生する原因を絶つ為の鉄則なのです。

熱くなっている担当者に対して、時に冷水を浴びせる様なことをやらないといけない訳ですが、これこそ経営層の責任ですね。

 

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