嫌われるべき人に嫌われる経営
「中川さんっていろいろ勉強されていますけど、ビジネスだけじゃなくて心理学なんかも学ばれたんですか?」ー かなり昔にお手伝いさせていただいた会社の社長から久しぶりにお誘いを受けて一杯やっていたときの会話です。
私は西洋哲学と東洋哲学は好きで学んできましたが、心理学はどうもナヨナヨし過ぎていて好きになれませんでした。
心理学といえば、アドラー心理学をベースとした「嫌われる勇気」という本が随分前にベストセラーになりましたが、まともな人(=自分をしっかり持っている人)からすると、「嫌われる人には嫌われる。当たり前じゃないか」という感じではないでしょうか?
たしか孔子も「10人いれば5人から好かれ、5人から嫌われるのが真の善人である」といったことを言っていたと思います。全員から嫌われるのは間違いなくなにか問題があろうと思いますが、全員から好かれるなどということもおかしいのです。
あるいは嫌いとまでは言わないが、昔はすごく仲が良かった友人とも気が合わなくなってきた、なんてことも当然あることで、その人に比べて自分がそれだけ成長した(あるいはその逆…?)ということですから、いつまでも仲良しこよしである必要はないし、いまの自分に合う人、あるいはもっと上の精神レベルの人を求めていくことは当然のことです。
そしてこれは会社経営においても非常に重要な視点です。というのも事業でちゃんと儲けているところは、自分たちが「誰に嫌われるべきか」をちゃんとわかっているからです。
事業の要諦は結局のところ「信者づくり」にあります。「どうしても御社/あなたから買いたい!」と思ってくれるようなコア顧客をどれだけ持てるか。これで収益性がガラッと変わります。
それだけ熱心に好かれているということは、同じようにすごく嫌われている人も必ず存在します。どんなに優れた商品・サービスだとしても、それがすべての人に熱狂的に愛されるなんてことはあり得ないのです。
ここをよく理解せずに「買ってくれる人がいい人」なんて漠然と考えていたとしたら、おそらく顧客からは「どうでもいいもの」と思われているはずです。つまり、「みんなに好かれようとすると誰からも好かれない」ことになるということです。
「自分たちは誰に嫌われるべきなのか」── ここを正しく理解し、そういった顧客層からとことん嫌われる商品・サービスを打ち出せばきっと事業はうまくいきます。
そして、基本的にはすべての中小企業が嫌われるべき顧客層というものがあります。それは「できるだけ安いものがいい」と思っている人たちです。
当コラムなどで繰り返しお伝えしているとおり、価格競争の先に勝者は存在しません。誰も得しません。特に大企業のようなマスの勝負ができない中小企業にとって、低価格戦略は死を意味します。
そうであるならば、中小企業はこぞって「高価格競争」をするべきなのです。安物を求めている人はとにかく相手にしない。相見積を取られて価格が高いと言われたら、笑顔で「そうなんです!うちは高いんですよ」と誇らしげに言ってあげたら良いのです。
もちろん、自社の高価格に誇りを持つためにはそれに見合う価値を有していないといけません。そこが儲かるビジネスを実現するための出発点です。どうすればこの高い価格が通用するか…そこを考えることが根本的な差別化につながります。
そもそも日本人はとにかく安い物をありがたがる傾向をここ数十年もの間強めてきました。もういい加減それは終わらせねばなりません。海外からの輸入品は確実に値段が上がってきています。国内の売価もしっかり上げていかないと日本は貧困の道をまっしぐらです。政治に脱デフレを期待するのではなく、企業から物価底上げを目指すべき時です。
そして、自社商品が高く売れるということはお客様にとっても大変良いことなのです。いいものを買えたと言って喜んで買ってくれているのですから。それは当然ながら御社の社員の喜びにも直結します。当社が常々申し上げている「報われる経営」です。
そんな、社員が幸せになる経営は、安物買いに嫌われることからはじまります。
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