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“賞味期限5時間”の生菓子がバカ売れする本当の理由

SPECIAL

商品リニューアルコンサルタント

株式会社りぼんコンサルティング

代表取締役 

商品リニューアルに特化した専門コンサルタント。「商品リニューアルこそ、中小企業にとって真の経営戦略である」という信念のもと、商品の「蘇らせ」「再活性化」「新展開」…など、事業戦略にまで高める独自の手法に、多くの経営者から注目を集める第一人者。常にマーケティング目線によって描きだされるリニューアル戦略は、ユニークかつ唯一無二の価値を提供することで定評。1969 年生まれ、日本大学芸術学部文芸学科卒。

前回のコラムでは、いまある自社資源をリニューアルし、新商品化したい。トレンドの「アップサイクル商品」をつくりたい、という製造業のK社長にご登場いただきました。単なる再生品、使い回し品、お値打ち品ではない。価値を磨き上げ、よりお客様が喜ぶ、価値を感じる、「喉から手が出るほど欲しくなる」商品サービスに昇華させ、人にも環境にも親和する循環を作り出すことを「アップサイクル」と表するようになっています。

生活者の日常、古い言葉で表現すれば「お茶の間」でも、当たり前のように浸透しているのが、「リニューアル」「リユース」「リウェア」「リメイク」「リバイバル」といった「Re=再生、循環」を表現する言葉です。以前紹介した、新宿・伊勢丹で企画している、着古した洋服のリウェア、墨色に染め直すサービスも浸透しています。

また「大人の学校」と呼ばれるカルチャーセンターでは、「洋服のリメイク」「古着のダーニング」「食器の金継ぎ」といった手習い講座が盛況です。材料を宅配し、講師によるオンライン講座は特に盛況で、人気講座は満席状態です。

生活者、すなわち、自社のお客様が、なぜこの言葉「Re」の商品サービスを認知し、興味を持つようになったか。なぜ「Re」の商品サービスを購入しているのか。そして、当たり前のように暮らしの中に取り入れ、自ら「学ぶ」ようになったか。この本質を見極めなれば、前出のK社長が、相談当初にひらめいた「表層的アイデア」による商品開発となってしまい、一過性のブーム商品をつくることになりかねません。

例えば、「賞味期限5時間の生大福」という和菓子があります。東京の代々木八幡にある「あいと電氣店」という和菓子屋のスイーツです。キャッチーなネーミングで注目され、予約完売。入手できない状況です。価格は、一個400円。コンビニスイーツの3倍で、不況で節約の時代に「本当に売れるの?」という、どうかしている商品です。

が、これが売れています。ネーミングの由来は、お餅の柔らかさを大切にするために、保存料などの添加物不使用。時間経過とともにかたくなってしまうので5時間以内に召し上がってほしい、ということで、「賞味期限5時間の生大福」をうたっています。福島・相馬市が創業の地で、菓子に対する哲学から生まれているこだわりのコンセプトなのです。

こうした開発ストーリーが、ネットニュースはじめ、テレビなどで紹介されてお客様が殺到しています。お客様の本音としては、コンセプトの新奇性と価格に込められた価値を体験したいのです。「400円の生大福を一度食べてみたい」という、喉から手がでるほどの好奇心に火をつけています。

こうしたブームの後には、必ず二番手、三番手が現れます。キャッチーなネーミング商品が人気を呼んでいるということで、類似商品が次々と出現するのが令和の市場です。「賞味期限○時間、○分」といった時間訴求、「添加物フリー」「幻の砂糖」といった素材訴求など、希少性をキーワードにした商品が続々誕生していくことでしょう。

が、その姿勢には弊害があります。こうした類似品によって、真逆の事態を巻き起こし、ブランドの価値を落としてしまうからです。「個性」「驚き」「違和感」「ギャップ」「斬新」「新しい」「今まで見たことなかった」というコンセプト商品であふれかえる売り場が、かえって没個性になってしまうのです。希少性、独自性を狙いながら、むしろどれもが「似通っている」のです。店舗の作り方、店内の設え、ディスプレイ方法、販促ツール、接客、実演のやり方などが似てしまうのです。

一方、あいと電氣店の「生大福」は確かに、尖ったコンセプトとキャッチーなネーミングで成功しているかに見えます。しかし、この生大福が受けているのは、そうした表層的な「個性」での勝負ではありません。本質は真逆です。人間の「本能」に刺さる商品を作っているから、お客様が殺到しているのです。

「賞味期限5時間」。これは特殊でも、希少でも、特別なこと、でもありません。お母さんがつくってくれる菓子、手作りの菓子を、体験的に知っている人にとって、「賞味期限5時間」は当たり前の感覚です。数値化したことはなかったけれど、手作りの菓子を食べたことがある人なら、本能的に知っている感覚です。

食べものは「つくりたて」が、一番おいしい。人間の本能は、「つくりたて」の食べ物を欲しています。つくりたての食事をたべること、無償の愛情が込められた料理や菓子を食べてきた人であれば、どういう商品が一番美味しいか、どんな状態の菓子が最高に美味いのか、を本能的理解します。ゆえに「賞味期限5時間の生大福」は本能に突き刺さるのです。お餅はつきたてがやわらかく、作りたてがいちばん柔らかく美味い! 。そんな大福を「一度食べて見たい!」とワクワクさせるのです。

食品の合成保存料、は企業の都合によって開発され、使われています。営利のために、自社の利益のために使う人工物です。大量生産、大量消費、便利、時短、といった大義名分で商品をつくる大手企業の論理です。そして、そうした論理との決別、独自路線で自社の魅力を発揮させ、地域を輝かせているのが、あいと電氣店です。

あいと電氣店では「賞味期限5時間」のコンセプト、思想を通して、「お客様のために、ひいては菓子業界の未来、子供たちや日本のために、本物の菓子をつくります」という決意、そして覚悟を伝えているのです。結果、お客様が支持し、リピートしているのです。

先日、異国にて1000年に一度の破滅噴火が起こりました。衛星写真でその様子が可視化され、爆発の瞬間には世界中で気圧の変化が生じることが可視化されました。

科学技術の進歩によって、地球のつながりをますます感じる時代です。今後、 この巨大噴火により、冷夏予測などが出るかもしれません。大地に根をはる食物が育たずに、本格的に培養肉などの「新しい食」の常識が進むかもしれません。このような事態は、一週間前にはまったく予想できなかったフェーズです。

世の中には決まっていることなど何もありません。一方自然の原理原則は変わらない、という逆説もあります。わたしたちは、何もわかっていないのです。とはいえ歴史という積み重ねを鑑みれば、日本は資源のない国です。物を慈しむ国民性、すべての物に神が宿るという精神性が土台にあります。これが日本人の基準点です。本能的な感覚です。

翻って、自社の思想や哲学はどうでしょうか。自社のためにやっている商品開発なのか、地域のため、次代のため、人類や地球の未来のためにやっているのか。100年に一度の疫病と1000年に一度の破滅噴火を、ともに体験したわたしたちの価値観は「利己」から「利他」へと向かっていくのが自然です。

 

If we could change ourselves,

the tendencies in the world would also change.

 

上の言葉は「自分自身を変えることができれば、世の中の潮流も変わる」という意味です。マハトマ・ガンディーの言葉です。わたしたちのビジネスも同じです。社長自身が考え方を変えることで、自社の風潮も変わり、お客様の流れが変わり、マーケットが変わり、新しい流れが生まれます。

一過性のブームを量産し続ける企業と、次の100年へとバトンを渡し、世代を超えたお客様にご贔屓にされる会社になるのか。後者には、魂や愛を基盤にした、人に向かい、人間の本能に突き刺さる本質の商品リニューアルが求められています。商品リニューアルの仕組み化が必要不可欠です。自社の野生的な生命力、根源にあるたくましさを信じて、本物の商品づくりに邁進していきましょう。

 

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