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『枕木』が語りかけること

SPECIAL

住宅・工務店コンサルタント

株式会社 家づくりの玉手箱

代表取締役 

住宅・工務店コンサルタント 。規格住宅を高付加価値化させ、選ばれる工務店となる独自の展開手法「シンボルハウス戦略」を指導する第一人者。
営業マンとして自分が欲しいと思わない住まいをお客様にお勧めする仕事に疑問を持ち、ある工務店でどうしても家を建てたくて転職、鹿児島へ 。15年間で173棟の住まいづくりをすまい手目線で担当。そこから編み出された、選ばれる工務店となる具体戦略を、悩める中小住宅会社ごとに実務指導中。

「枕木」の今昔

 

子供の頃は、電車に乗ると必ず外を眺めていました。可能な限り一番前で運転席を見ていたかったものですが、先客がいてかなわない時は一番前のドアからずっと外を見ていました。私鉄や地下鉄ではコンクリート製のものもよく見かけましたが、その頃の枕木は木製ものがまだ多かったと記憶しています。

造園工事で庭師さんがチェンソーで枕木を切って、庭の仕上げに使っている現場を鹿児島に移住して初めて見ました。その時は、驚きとともにとても惹かれるものがありました。庭の色々なところに据えられた枕木は、覚えのある踏みごこちであったのです。子供の頃にはよく線路を歩いたりしてましたが、まさにその時の感じで踏みしめる毎に微妙に踏みごたえが違っているのですね。当時の、底の薄い運動靴ではその感触がよく伝わってきたものです。

鹿児島県内では、旧国鉄のローカル線がいくつも廃線になっています。そういった事情もあって、当初の役割を終えた枕木の入手が容易であったのかもしれません。昔の枕木の材質は、主にケンパス材という南洋材が多いようです。重く硬いのに保存薬剤の吸収がいいそうです(気乾比重0.87)

最近の造園現場やホームセンターで見る枕木は、杉材を使った新品をよく見ます。杉も保存薬剤の吸収がよくその上軽いので、現場での作業は格段に楽です。(気乾比重0.38) しかし、新品で角ばっていて塗料で塗りつぶされた感じは、本物の中古枕木特有の「ばらつき感」に乏しく個人的には好きになれません。「枕木もどき」みたいなものです。特に広い面積に使った時に、質感の差は歴然と現れます。

 

↑子供の頃、車窓から見える枕木はまだこのような感じでした

 

↑最近では、コンクリート製の枕木がスタンダードになりました

 

自宅での「枕木」体験

 

自宅を建ててもらった際には、アプローチ(といっても1メートルぐらい)に数本の枕木で階段を作ってもらいました。毎日踏みしめる場所に少しだけ使ってもらったのです。しかし材料のあたりはずれが良くなかったのか、完成後間もなくボソボソになり、お客様のヒールのかかとが刺さってしまうようになってしまいました。ガラス入りの玄関ドア越しの、道路からの目線をカバーするために常緑樹を植えたいとも思っていたので、少し場所をずらして石に替えてもらうことにしました。

 

↑アプローチの枕木交換の際の話(書籍「家づくりの玉手箱」から)

 

自宅は道路に並行な、ま四角の土地ではなかったので、道路に接する部分の土間コンの割り付けが三角形になっていました。土間コンにはスチールのワイヤーメッシュが入っていますが三角形の角は重みがかかると、どうしても端が割れやすくなります。なので、土間コンの割り付け形状を工夫してもらったのですが、入居後浄化槽屋さんのトラックが出入りし始めるとすぐに端っこが割れてしまいました。

入居後、お客様のご見学・ご案内も多かったものですから、改善工事として道路に接する三角部分をコンクリートから枕木に変更することにしました。庭師さんからは「枕木は傷むぞ〜」と言われましたが、コンクリートで分断された感じがどうも嫌で「傷みは自己責任」ということで、施工してもらったのです。その時は「おそらくは10年以内にまた、やりかえないといけないかもな」と内心覚悟していました。

 

↑完成したばかりの自宅。土間コンの割り付け工夫したのですが…

 

↑土間コン改修後の自宅。「枕木」を斜めに切ってうまく合わせてもらいました。

 

 

20年後の「実際」は?

 

自宅の完成後、約20年経ち道路際の枕木がどうなったかといいますと、以外と健闘しているという印象です。少なくとも一本も交換はしていません。決して傷んでいないということではないのですが、まだ許せるというか、気にならないという感じです。現在の状況はこんな様子です↓

 

↑現在の自宅。思っていたより持ちこたえている「枕木」たち

 

↑【左側】部分的にヤバくなっていますが、がんばっています。

 

↑【真ん中】手前のは「プランター状態」です。

 

↑【右側】右端のは既に「なかったこと」になっています。

 

個々によく見てみるとけっこう傷んではいますが、やはり自然素材だからでしょうか「ぱっと見」はそんなに傷んだ感がしません。よく見ると、真ん中が抜けてしまって「プランター状態」になっていたり、完全に土に帰ってしまって「草っ原状態」になっているのですが、全体的には馴染んで見えるのです。幸い、自動車のタイヤが通る場所はしっかりしているので、実用上は問題ない気がしています。ムラがあったり当たり外れがあるところが、今回は結果オーライだったのかもしれません。

また、家の前の道路は坂道になっていて、道路に接する敷地にも傾斜がついています。そのことによって、枕木の下に流れ込んだ雨水がとどまりにくかったので、比較的長持ちしたのではないかとも考えられます。鉄道の線路だってどこも水はけは良さそうです。枕木を土に埋め込んで使う場合は、水はけは重要ポイントです。

古い枕木には「クレオソート油」が防腐剤として使用されています。これは、現在では「発癌性物質」とされているもので、外部使用とはいえ気になるところです。入手できる枕木の中には、オーストラリアの鉄道用枕木もあるようです。これはレッドガムと呼ばれるユーカリの木が使われていて、赤みがかった色をしていて一本一本の色幅も魅力です。オーストラリアの鉄道用枕木は防腐剤を使用していないそうで、値段は旧国鉄のものより高いですが現場作業を含めた安全性という点では安心です。

自宅を建てた時点では「枕木と言えばこれでしょ」といった感覚で、色々なものがあるという認識がまるでありませんでした。ちょっと調べてみれば、色々あることはすぐわかるのに知らなかったのです。しかし、ネットで調べれば誰でもすぐに調べられる現代でも「枕木」といえば、旧国鉄の中古枕木も、ホームセンターの「枕木もどき」も同様に扱われている実態があります。情報の乏しい時代はもうとっくに過去のものとなっています。「知らない」=「怠慢」ともなる時代です。このあたりは、己を律して改めてゆかなければなりません。

 

ひと言で「●●」と言っても中身は様々なものが併存する世の中です。社長の会社で使っているその材料、「名称」だけでなくその「中身」について吟味をされていますか?

 

 

 

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