第29話 戦略なき「売れないキャッチコピー」の3つの罪
「先生、このキャッチコピー、一流のコピーライターがつくったんです。うちのサービスにぴったりだと思いませんか?」
※カテゴリーキラーとは、競合他社を圧倒する差別化された強い商品・サービス・事業のこと。
当社のコンサルティングを受けている社長から、このように言われました。
しかし、それまでコンサルティングで積み上げてきた戦略が上手くキャッチコピーに表現されていない、いわゆるどこにでもあるようなエッジの聞いていないキャッチコピーでした。
今回のコラムでは、中小企業のコンサルティングにおける市場開拓に欠かせない、「キャッチコピー」について、陥ってしまいがちな3つのポイントについてお伝えしたいと思います。
冒頭のようなケースは通常、社長がOKを出せば、採用になってしまいます。しかしながら、当社のコンサルティングを受けて頂いているので、問題があると分かっていて、OKを出すわけにはいきません。
そして、この場合、社長が気に入っていらっしゃるので、うまく理解してもらう必要があります。そこで、以下のようにお伝えしました。
「社長、たしかに今回の新商品、美しいキャッチコピーが出来たと思いますが、大手競合企業のA社にあてはめてみてください。このキャッチコピーはその会社でも言っていそうなキャッチコピーではありませんか?」
社長は、ハッとした様子で、
「確かにそうですね。大手競合企業のA社にあてはめてみても、しっくりきますね。言われてみれば、うちの会社より、A社の方が使いそうなコピーですね。」
こう言って、すぐに理解してくれました。
そのキャッチコピーの問題は、それまで当社のコンサルティングを受けて、一生懸命に新商品開発・企画をしてきた設定ターゲットや、そのターゲットが抱えているお悩みごと、そしてそれに応えられる唯一のサービスとしての表現に欠けていたのです。
しかし、社長は理解したものの、その後も、その一流のコピーライターに、戦略とコピーライティングの関係を理解してもらうことは、非常に難しかったようです。
「戦略なんていらない」とまで言われたそうで、高額な費用を支払ってコピーライティングを依頼されていたので、社長も困り果てていました。
なぜ、こういうことが起きるのでしょうか。
その一流のコピーライターの方は、大手広告代理店で活躍されていた方で、コピーライティングの世界で賞を獲得するなどの経験を持たれていた優秀な方でした。
実は、ここにひとつの落とし穴があります。
大手広告代理店でコピーライティングの高い評価を得るという場合、既に出来上がった大手企業のブランドのメッセージを開発することがほとんどです。
従って、できるだけ多くの消費者に、そのブランドの良さを伝える、美しいコピーになりがちです。大手企業のブランドは、より多くの消費者に、より良いイメージを与えることに専念しています。そして、消費者が購買時にそのブランドを選択してもらうように努力しているのです。
広告予算がほとんどない中小企業が自社の新商品にこれと同じことをしてみても、その努力はむくわれません。一般消費者も、日頃から大企業のキャッチコピーをたくさん目にしています。
ですから、そういった煩雑なキャッチコピーのメッセージと同質化してしまい、中小企業の新商品・サービスの良さは伝わらず、上手く売れないのです。
私の前職は、大手広告代理店で、大企業の広告制作に関係する仕事を10年間にわたり経験してきました。コピーライティングの専門職の方との付き合いも多かったので、大企業が使うコピーライティング・キャッチコピーの意味合いは良く分かります。
しかし、前述の通り、中小企業が、大手企業と同じように、万人に向けた素敵なキャッチコピーを書いたところで、新商品の販売は上手くいきません。
それに気づかない中小企業も多いため、悪く言えば、どこの会社でも言っていそうな、きれいなキャッチコピーが巷にあふれています。
素敵で、うっとりしているのは、コピーライターと社長だけということになってしまっては、本末転倒です。
中小企業の場合は、しっかりと定めた、特定のターゲットの心に突き刺さる、唯一性の高い、存在感のあるキャッチコピーを開発する必要があるのです。
一つ目のポイントは、競合大手企業でも言っていそうな「美しいキャッチコピー」は避けるべきということです。
この一流のコピーライターが言う「戦略なんていらない」という言葉の裏には、ご本人が、大企業では経験が豊富ですが、中小企業での成功体験がほとんどないということが要因として考えられます。
大企業では、コピーライティングの前に、マーケティング部をはじめとして、市場に向き合った戦略を徹底的に考えます。その戦略を前提にコピーラーターがコピーを考えます。ですから、コピーライターは、専門職として、コピーライティングのお仕事に集中できる環境があります。
しかし、中小企業の場合は、マーケティング部もなく、戦略立案に長けた会社は非常に少ないので、コピーライティング以前の戦略づくりがとても重要になります。
一流のコピーライターといえども、大手企業では経験があっても、中小企業の新しいサービス・新商品を立ち上げて、市場を創っていく、そのためのキャッチコピー開発し、大きな売上を上げたり、新商品をヒット商品に変える、という経験がないため、戦略の重要性を理解できないのだと思います。つまり、大手企業における、ご自身のすばらしい経験が、中小企業の戦略を理解する際に足を引っ張ってしまう結果になってしまっていたのです。
当社のコンサルティングでは、戦略方針書というものを作りますが、その一流のコピーライターの方は、なかなかその戦略方針書もしっかり見てくれなかったということです。
ここまで社長を困らせる方も珍しいですが、レベルの大小はともあれ、そのようなケースは何度か経験してきました。
少し前に別のケースでも、キャッチコピーの腕がいいと言われるコピーライターの方が、戦略方針書を見ていないのかの、まったく的が外れた数多くのキャッチコピー案を提案されていたのでがっかりしました。
せっかくいくつものキャッチコピー案を提案して頂いたにもかかわらず、前提となる戦略に合致していたものはわずかでした。前提となる戦略に合致しないキャッチコピー案は、使えませんので、せっかくの手間や時間が無駄になってしまいます。
そもそも、中小企業がキャッチコピーを開発する目的の多くは、商品・サービスを新しいお客様に買っていただくためです。その市場開拓に、キャッチコピーは欠かせません。
しかし、多くの中小企業がこのキャッチコピーの開発の重要性に気づいていません。
キャッチコピーは、新しいお客様の心をキャッチできるかどうかという重要な役割を担っているにもかかわらず、です。
営業マンを雇用することには年間で数百万円を使いますが、キャッチコピーの開発にはお金や時間をかけていないという企業が大半です。本当にもったいないと思います。
特に、これから新規事業や新商品・サービスを展開していこうとする経営者は、十分な注意が必要です。よいキャッチコピーが開発できなければ、苦戦を強いられてしまい、何年かけても新商品が上手く売れていかない状況に陥ります。
理由は簡単です。その新商品や新サービスのよさに気づいてもらえないからです。
そのようなことを繰り返していたら、いつまでも力強い成長はできません。
また、今まさに新規事業が上手くいかずに困っているとか、新商品・サービスが売れずに困っているという方は、新規のお客様に訴えかけるキャッチコピーを再検討してみてください。
そして、キャッチコピーをうまく機能させるためには、その土台となる戦略をしっかり作り込む必要があります。この戦略の詰めが甘かったり、戦略理解が弱かったりすると、本当によいキャッチコピーは開発できません。
当社のホームページや書籍でお伝えしている、中小企業におけるカテゴリーキラーの成功事例は、全て市場を切り開いていくためのキャッチコピーをうまく活用しています。
新商品・サービス開発、新事業開発、または売れなくて困っていた商品・サービスなど、様々なケースがありますが、全て新規のお客様の心にささるキャッチコピーを徹底して考えています。
そして、そのキャッチコピーは、カテゴリーキラーづくりのベースとなる戦略方針書に基づいて策定しています。戦略不在で展開したキャッチコピーはひとつもありません。
よく、うちのキャッチコピーについて意見を欲しいという相談を受けますが、キャッチコピーは、前提となる戦略や目的、そのキャッチコピーが果たす役割などを十分に理解してからでないと、良し悪しは議論できません。
ですから、そのような点について確認するわけですが、多くの場合が、キャッチコピーの前提となる戦略やそもそもの目的などが曖昧です。
二つ目のポイントは、戦略は十分に検討して一つに絞って、そのうえでキャッチコピー案を考えるべきということです。
そして、最後にお伝えしたいのが、社長の思い込みです。
これは、本当に一番の強敵です。なぜなら、ほとんどの中小企業は、社長が気に入ったものであれば、即決裁され実行されるからです。
以前もこんなことがありました。ある雑貨メーカーですが、素晴らしい商品を開発したということで、商品の説明を受けました。そして、そのパッケージに書かれていたキャッチコピーは、社長が考えたということです。社長は、とても気に入っていた様子でした。
しかし、恐る恐る、その商品の売れ行きを伺うと、黙られてしまいました。実際は、まったく売れていないということでした。社長がそのキャッチコピーを気に入っているというだけで、市場に向き合った戦略の詰めが甘く、その商品の良さがうまく伝わっていなかったのです。
結局、新商品のコンセプトから戦略を再構築して、そのうえでキャッチコピーも再度開発し直しました。キャッチコピーづくりには時間はかかりましたが、その後は、飛ぶように売れる新商品に生まれ変わりました。
当社書籍でも、具体事例やキャッチコピー例をたくさん紹介させて頂きましたが、過去10年間、300社を指導するなかで、そのように売れなかった新商品が、キャッチコピーなどの言葉の表現を変えて売れたという事例はたくさんございます。
社長の思い込みを否定して、もう一度戦略から見直すということは、本当に労力がかかります。しかし、売れないということが事実であれば、何が原因かを徹底的に検証していく必要があります。その原因のひとつとして、キャッチコピーをしっかりと検証する必要があります。
キャッチコピーが良いか悪いかを決めるのは、最終的には、社長ではなくお客様であり、その評価が売上となって現れるのです。
三つ目のポイントは、社長の思い込みだけで決めないということです。
いかがでしたでしょうか。
今回は、キャッチコピーについてお伝えしました。
当社のコンサルティングで、社会のお役に立てる素晴らしい商品やサービスを、より多くのお客様に届けて欲しいと思います。
あなたのキャッチコピーは、他の会社に埋もれずに、新規のお客様に突き刺さる言葉になっていますか?
以上
株式会社ミスターマーケティング
代表コンサルタント
村松 勝
【追伸】 キャッチコピーなど、新規のお客様に伝える言葉づくりの重要性はご理解いただけましたでしょうか。当社の書籍では、言葉づくりの前提となる戦略の作り方について、具体事例とともに易しく解説しています。自社のキャッチコピーや戦略について、今一度検討してみたいという方にお勧めいたします。
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